588話「ご機嫌ジェットコースター」
「おかえりなさいませ陛下、念願の『モーニング』はいかがでしたか?」
迎賓館に戻ったディアマントとガーネを出迎えた一同は、満足気に満面の笑みを浮かべるディアマントを見て思わず釣られて笑みを零した。
「初めてのモーニングじゃ!妾、『お嬢さん』で!ゆでたまごが難しかったのじゃ!パンにバターがじゅわってして、ゆでたまご難しかったらガーネがぺりぺりしてくれたのじゃ!それで!それで!!」
「まぁ。うふふ、では陛下、お召し替えをしながらお話しお聞かせください」
「うむ!」
ディアマントがミモゼや他の侍女に連れられて会談に向けての着替えに向かうと、ガーネはようやく小さく息を漏らした。
「あんなモーニングごときで、あそこまで喜ぶとはねぇ。ほんと可愛がり甲斐があるな。こんなに喜ぶならもっと早く連れてってやりたかったな。……さてと、俺も着替えて来るか」
ネクタイを緩めスーツの上着を脱ぎながら、ガーネも着替えのために部屋へ下がった。他の面々も朝食を取ったり会談中の警備配置について確認をしたりして過ごした。
*****
「むっ!」
会談会場である、昨夜も晩餐のために訪れたトーパスの屋敷へ向かう馬車の車内で、ディアマントは先程までのご機嫌と打って変わってひどくむくれた顔をしていた。
同乗していたエーリックが困った顔で頭を掻き、ヘルソニアは面倒そうな顔をし、リエーブとアミュは興味が無さそうに窓の外を眺めていた。
「なぜガーネがおらぬのじゃ!」
「勘弁してくださいって陛下。先程もお伝えした通り、『特務連中との警備配置指示の打ち合わせ』です。辺境伯邸までは俺が警備責任者として、そして魔女様お二方も同乗いただいておりますので」
「あっ、リエーブみて。けばぶ」
「まぁアミュ、あなたまたお肉?朝も、ウィンナーとベーコンたくさん食べたでしょう」
「アミュ、おにくとおかしだいすき。けさのべーこんおいしかった」
「むっ!」
「………」
エーリックが困り果ててディアマントの隣のヘルソニアへ視線を向けると、あからさまに視線を逸らされた。
「え、まじか。ヘルソニア様?」
「………」
「えっ、嘘でしょ」
「妾は気に入らぬ!」
「あ!やきとり!」
「あらあそこのウィンドウのドレス素敵」
「…………ガーネ助けてくれ……聞いてないこんなの……」
「むっ!!ガーネ!!」
女王乗車の貴賓馬車内のとんでもない空気にエーリックが音を上げる中、ガーネは特務の乗車する馬車で主にはスメイラとラズリと配置確認や打ち合わせをしていた。
「──── …まぁ、一応俺はこの位置にいるし見えはしてるが、基本はこの会談中の責任者は衛兵総監だ、『言うこと聞かせろ』。いいなスメイラ、ラズリ」
「はーい。めんどくさいなぁ。なんでアタシがこのバカとゴリラの面倒を」
「ねぇガーネくん」
「なんだスメイラ」
「向こう、公国の人たちって何人くらいいるかな」
「規模的には多分前回のメイジーエの連中より少ないくらいじゃねーかと思う。まぁ向こうさんがオイタしても、トーパスの城だ。アイツの軍事力は信用していい」
「ねぇねぇガーネ!」
「うるせーバカ今スメイラとラズリと話してんだろが」
「なんでガーネは僕には優しくないの?僕にも『なんだ』って優しく返事してよ!」
「アンタが余計なことしか言わないからでしょ」
「君がどうでもいいことを空気読まずに喋るからでしょ」
「おかしいな?なんで??」
ガーネが面倒そうに舌打ちを漏らしながらサイフィルを睨み付け、窓枠に肘を置いて溜息を漏らした。
「ところでさ、ガーネくん」
「なんだ」
サイフィルがごねた直後にも関わらず、スメイラが話しかけると普通の調子で返答したガーネを見て、カルセが思わず小さく笑った。
「昨日ゲルブ辺境伯となに喋ってたの?ガーネくん。アレ何語?ロシア語、かな」
「ロシア語。なにって、『こっちの陣営の対応言語』を聞かれたからお前とラズリが英語でヘルソニア様が中国語って返したら誰もわからんのなら都合がいいって返されたくらいなもんだ。ことのついでに、迎賓館近くの喫茶店の早朝貸切と周辺2区画封鎖しろって依頼。警備楽だっただろ?『婚約祝い』らしいからな」
「フーン。……ガーネくんてさ、前から気になってたんだけど…前世なんの仕事してたの?」
スメイラの問いかけに、全員の空気が止まりしんと静まり返った。
数拍置いてガーネが小さく鼻で笑うと、ふいと視線を窓の外に向けて口を開いた。
「フン、さーな。ディアマントに聞けば」
「……アンタ、覚えてんの?」
「覚えてるっつーか、思い出してきたっつーかなんつーか。でも『前職』に関しては、所属も役職も思い出した。他はまぁ、全部でははもちろんないけど、断片的に」
「ではわたくしたちのことは、」
「それはさっぱり。あーでも、トーパスの野郎は関わりがあったのは思い出した。ただ、腹が立つから俺の口からあの野郎の話はしない。……100回殺しても足りないくらいだ」




