586話「ужин」
「陛下、明日の会談懸念などはございますか」
「特にはない。そのためにガーネもヘルソニアも妾の『隣』に座らせるのじゃ」
「へえ、特務総監殿を」
トーパスがちらりとガーネへ視線を向けると、ガーネは眉を寄せて言わんとしているであろうことに返答すべく口を開いた。
「俺は政治関与なんぞするつもりはない。今回隣に座るのは陛下ご希望の『婚約者としての挨拶』と牽制だ。公国の連中、『立場がわかっていらっしゃらない』ようだからな」
それを聞いて新年拝賀でのケーレイン公国のなかなか失礼な振る舞いを一同思い出した。
「………ガーネ」
「なんだ」
トーパスがコーヒーカップを置いてガーネへ真面目な目を向けると、ガーネも一応ティーカップをソーサーへと置いた。
「お前、新年拝賀でエルフの使節の連中とシェマードン古語で会話をしていたな。腹立たしいことに、俺はシェマードン語には明るくないが……ケーレイン語は」
「問題なく喋れるし聞ける。通訳はいらん」
「そうか。俺も一応、俺が制圧した小国だしな。ケーレイン語は扱えるが……他は?」
「他?……直近の外遊で必要があって習熟したのはメイジーエ語。あとはセイズゥル語とマハシェファ語かな」
「マハシェファ語…『魔女の始祖言語』か…なるほど。『嚆矢の魔女の息子』、な」
さすがに報道によって『例の不倫相手=リエーブ=嚆矢の魔女』が露呈しているため、そういうリアクションにもなるかとそれ以上は気に留めた様子も無く改めて紅茶を一口飲んだ。
「ふーん、なるほどなるほど。で?ガーネ、他は?」
「……他?それだけだが。まぁ必要があれば、文法や単語をある程度事前習熟して現地で2、3日適当に現地人と会話でもすれば1週間もあれば覚えられると思う」
「くくく、フフ、……『相変わらず』だな」
トーパスの口振りに、ガーネの眉が僅かに動いた。
「ガーネ、もう一度問う。『他』だ」
「…………英、中、露、独。仏は挨拶程度」
「フン、なるほど。……Я владею английским, китайским и русским языками. А каков ваш уровень владения языками?」
ガーネ以外はまるでトーパスが何を言っているのか理解できない様子で、スメイラは少しだけ不安そうな顔でガーネの方へ視線を向けた。肝心のガーネは一瞬目を細めてトーパスを真っ直ぐに見つめてから、小さくため息を漏らして口を開いた。
「Мой адъютант и врач изъясняются по-английски, а свита королевы — по-китайски.」
ガーネの返しに満足したのか、トーパスは肩を揺らして微かに笑いながら挑発的な視線を向けなお続けた。
「フッ、…Тем лучше, если никто ничего не понимает. Если что произойдет — рассчитываю на тебя, "жених"」
「……«жених», вот как... Что ж, тогда сделаем так: у меня тут же найдётся для тебя поручение. Завтра утром отдашь приказ забронировать под закрытие кофейню, ближайшую к гостевому дворцу, и блокировать два прилегающих квартала. Жду исполнения, «господин маркграф». 」
「…Какова причина?」
「フン。Потому что этого пожелала Её Величество королева. Нужны ли ещё какие-то причины?」
「くくっ、ふ、ハハハ。いいだろう。『婚約祝い』ということでいいのかな、特務総監殿」
「まぁお前がそう言うのならそれで受け取ってやる。マルゴーサンマルからマルナナマルマル」
「了。通達しておく」
終盤のトーパスとガーネの会話が一同まるでわからない中で、晩餐は特段大きな問題もなく終わりその後翌日の簡易的な確認をして迎賓館へと戻って行った。
女王乗車の馬車にはディアマントとヘルソニア、ガーネのみで他はヘルソニアの指示で別の馬車へと振り分けられた。
「さてガーネ」
「なんですか、ヘルソニア様」
「なんですかとはご挨拶だな。陛下と私と其方だけに敢えてしたんだ。言われることはわかっているだろう。其方、いつの間にトーパスとそこまで『なかよし』になった」
先程のディアマントの『なかよし』を借りて問いかけるヘルソニアに、ガーネは感情の読み取れない薄い笑みを口元に浮かべ、小さく鼻で笑った。
「あの男と『仲良く』なった覚えなんかありませんけどね。まぁ、強いて言うなら『喧嘩売られたあと』ですかね。ちなみに、俺は『昔』あの野郎を殺し損ねている。殺して良いのなら今世で是非苦しんで殺して差し上げたいところではあるが、あいにくと今世では『殺す理由』がそこまで無くて困っているんですよ。まぁ作ろうと思えばいくらでもそんなもん作れますが、『あの男はまだ』です。使い道あるんで。ね、陛下」
「妾にそれを申すのか」
「安心しろ。お前は『一番最後』だディアマント。俺の可愛い、女王様」




