585話「なかよし」
濃紺のドレスを纏い、アクセサリーは昼間と同じロイヤルムーンストーンのピアスに、買ってもらったばかりのロイヤルムーンストーンのネックレス。髪は低めのシニヨンできっちりとまとめ、揃いのロイヤルムーンストーンのヘアアクセをあしらって着飾ったディアマントは、ガーネのエスコートで馬車を降りてゲルブ辺境伯邸宅の馬車寄せで降り立ち互いに挨拶を交わす。
晩餐の随行者は、ガーネとヘルソニア、特務とエーリックとジェレイドとリエーブとアミュ、それと衛兵近衛に代わり侍従と侍女を数名。
屋敷の主であり、このジェニウス区とその近隣の数区を治める領主、トーパス・グロウヴ・ゲルブ辺境伯が、晩餐の席でにこやかにディアマントとガーネに声を掛けた。
「改めまして、ご婚約まことにおめでとうございます。そして今回もこの地に足をお運びいただきましてまことに感謝申し上げます」
「うむ。祝辞を受け取る。今回も世話になる」
「特務総監殿も、おめでとうございます。…すっかり口説く機会をもらえないまま、まんまと持ち逃げされたな」
「ありがとう存じますゲルブ辺境伯。…ははは、これで二度と俺の女を賭けの景品代わりに口説こうなんざ思わないことだなコイツは俺の女だ。今も昔も、だ」
「ハハハ」
相変わらず初っ端からバチバチと火花の散るガーネとトーパスの様子に、少し離れた席に座したエーリックとジェレイドは顔を見合わせスメイラに小声で問いかけた。
「スメイラちゃん、ゲルブ辺境伯まさか陛下のこと口説いたのか。いつ。前回の外遊の時はそんな暇ないだろ、新年拝賀の時か」
「いえ、開庭招宴の後ですね。ほら、辺境伯欠席したじゃないですか。その謝罪と挨拶に王都に来た時に、王都邸宅に招かれて…ガーネくんだけじゃなくて、わたしたちも。で、その時に辺境伯がガーネくんにビリヤードとポーカーで勝負というか喧嘩ふっかけて。『勝ったらお前の隣の女を口説かせてもらおうか』って。もちろんガーネくんのボロ勝ちです。ポーカーは互いにイカサマ合戦でしたけど、ビリヤードは普通にガーネくんの圧勝でしたね。ちなみにその時にシューツェン辺境伯も招かれてその光景を一緒に見てた感じです」
「ほー、成程な。それでか」
エーリックが水を飲みながらちらりとガーネに視線を向け、ディアマントの隣で相変わらず苦手な料理を咀嚼するふりだけ上手にして水で流し込んでいる様子を伺い小さく肩を竦めた。
「ま、口説かれて面白くないのは同じ男としてわからんではないが、口説かれたところで陛下は絶対靡かんだろ。ガーネもベタ惚れだが、陛下も相当だ」
「ほんと、お似合いカップルって感じ。ね、カルセと近衛総監」
「んぐッ、な、なに、なにを」
「あら別に。ね?スメイラ」
「ええ先輩。ね?衛兵総監」
ラズリの急に投げた暴投に噎せ込みながら口元をナフキンで押さえたジェレイドを見て、カルセは思わず小さく笑って視線を絡ませた。
2人の交際開始はガーネとディアマントにしか公言はしていないし、ガーネとディアマントもわざわざ触れ回るほど野暮でもない。完全に『空気感』で察しているラズリとスメイラとエーリックに、ジェレイドは思わず視線を逸らしながらぐいっと水を飲んだ。
食事の合間に今回随行している魔女2名の紹介と、街の散策の感想や王都からのインフラ整備についてなどの当たり障りのない会話をする頃にはガーネもトーパスも互いに大人の対応をしていた。
「これおいしい、アミュ、このおにくもっとたべたい」
「ビーフウェリントンですね。終焉の魔女様にお気に召していただき光栄です。もちろん、ご用意させていただきます。…お出ししろ」
「はい」
トーパスの指示で給仕が一度厨房に下がり、アミュのおかわり要求に対応しに下がった。
「ふむ、この酒はなんじゃトーパス」
「山椒でございます。農地の奥の林の方で昨年良いものがたくさん収穫出来ましたので、漬け込んだものです」
「ほう、妾はこれが気に入った」
「他にも胡桃酒などもございます。特務総監殿もご一緒にいかがですか」
「私は水で結構です。この場には婚約者としてのご挨拶で座っておりますが、一応近侍護衛も兼ねておりますので」
「おや、失礼しました。下戸でしたか」
「この程度で酔うほど脆弱ではありませんが。元の体質もありますが、訓練を受けておりますので」
「……さようでございますか」
トーパスの目の色が僅かに変わり、ディアマントは新しく配膳された胡桃酒も試飲し満足そうにぺろりと唇を舐めた。
すっかり食事も終わり、デザートに果物のコンポートが配膳されてそれも食べ終わると、食後の茶やコーヒーが配膳されてトーパスは姿勢を変えた。
「さて、ガーネ。ここからは『仕事』の話だ」
「お前は今まで何の話しをしてたんだトーパス。まぁいい。具体的な警備配置はどうする」
「会場は俺の城だ、基本警備はウチの連中に託してもらって構わん。が、王城側も見栄えと体裁があるだろう、目立つところで何人かずつ貸してくれたら助かる」
「了解、んじゃ明日の会談においては俺は警備は外れる。その間の警備責任者は衛兵総監に一任しているから、あとで調整してくれ」
「衛兵総監のエーリック・ケイト・アウフリッチです。よろしくお願いいたします、閣下」
「ああ、よろしく頼む。では細かい調整は後ほど」
ディアマントが少し呆けた顔をしてヘルソニアを見遣り、そのままガーネへと視線を上げた。ガーネは簡易的な会場と会場周辺の見取り図と警備配置を眺めていたが、視線に気付いて顔を向けた。
「いかがなさいましたか陛下。なにか懸念事項でも」
「…いや、…お前たち、あれだけ先程は険悪だったのに、と」
ディアマントの言葉に、トーパスとガーネも思わず互いに目を見合わせた。
「あのな、一応俺もトーパスも『これ』が仕事なんだから、『そういう』公私混同はしねーよ」
「ハハ、陛下のご婚約者殿には随分とよい評価をいただいているようで。光栄の至りです」
「うるせーよ」
「なんにせよ、きちんとお前たちが仕事の話が出来るようで妾は一安心じゃ。なかよしじゃ!」
「それとこれとは別ですね、陛下」
「そうだ。お前気安く俺とこのいけ好かないスカした野郎を『なかよし』とかふざけた括りにするんじゃねぇ」
「それが『なかよし』ではないのかお前たち」




