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断罪ディストーション  作者: 梦月みい
第四十五章『残響』

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584話「小娘散歩」

「随行は最低限、迎賓館に残る連中は適宜休憩なり晩餐へ出かける準備なりそれぞれの部門の長の指示に従え」

「はい」

大広間でガーネが指示を出し、『ディアマントのジェニウス区散歩』随行メンバーであるガーネ、ヘルソニア、ミモゼ、エーリック、ジェレイド、特務、衛兵と特務数名ずつとリエーブとアミュが入口前に整列した。

「さ、陛下行きましょうか」

「ガーネ」

「なんですか」

「なぜ妾の騎士をやめたのじゃ!」

ディアマントは出かける直前突然不機嫌になった。

手を取らせようと差し出した手を引っ込め、ガーネは考えた。

不満の内容は、正装で整えているとはいえ騎士服から官服へと着替えていたことである。着替えただけで、無論ガーネは騎士を辞めたわけでは当然ない。


少しイジメてやるか、それとも素直に告げるか。

イジメてむくれさせるのもたまらなく可愛いが、そこで時間を費やして後から「足りない!」「あそこも行きたかった!」「妾のお願いなにも聞いてくれない!」「ガーネのばか!」と言われそれをまた宥めて回収する方が今日この後のスケジュールを考えると面倒かとコンマ数秒で考えたガーネは、肩を竦めて素直に告げることにした。

「やめたんじゃなくて、『見せ方』を変えるだけだ。いいか、俺はお前の『婚約者』として区内散策に出る。心配しなくても近侍護衛は俺がつく、官服の下はいつも通り拳銃は装備してる。それでも不満なら着替えて来てやる」

「こんやくしゃ」

口調も先程までの公的なものから普段のぶっきらぼう過ぎる物言いに変わったところで、ディアマントのむくれた顔があっという間に笑顔に変わる。そしてガーネに近寄り、華奢な指先で遠慮がちに袖を引いた。

「腕、組んでもよいのか」

「もちろん。婚約者だし、恋人だし。してくれたら嬉しいよ」

「……!」

パアッと顔が明るくなると、ディアマントは嬉しそうにガーネの腕に抱きついた。

報道向け・民衆向けの『パフォーマンス』ももちろんあるが、分かりやすく騎士の姿ではこうして腕を組むことはギリギリ許容出来ても好きに物を買い与えたりするのはガーネの見栄え的にもあまり望ましくないだろうと僅かに配慮したものである。

「妾、嬉しい!早く行きたい!今日はあの白いふわふわが食べてみたい!」

「ハァ?かわいい。なにこれ。俺の女可愛くない?ちょっと抱いて来ていい?」

「逆に聞くけどなんでいいと思ったの?ダダ漏れなんだけど色々と」


恋人のように腕を組んだディアマントと『婚約者として出る』と言ったわりに視線の運びは護衛官そのものである。封鎖した迎賓館の出口から少し先の辺りで待ち構える報道や民衆に得意気な小娘顔でガーネの腕に抱きつきながら、ディアマントは婚約指輪を嵌めた左手をひらひらと振った。


「きゃー!陛下、お可愛い!ご婚約おめでとうございます!」

「特務総監様ー!素敵ー!」

「ガーネ君〜!あらいい男!かっこいい〜かわいい〜!」

「女王陛下ー!」


「……たまにはガーネも、民に手を振ればよいのに」

「なんで?なんのために?なんのメリットがあって?それ俺の仕事?」

「仕事ではない」

「ならしない。愛想振り撒くのは俺の職務内容に無い。潜入捜査とか貴族の相手で必要に応じて適当な愛想は振り撒くことは無くはないが、これも毎回自分で言うのも烏滸がましいけど俺が愛想振り撒く必要のありそうな貴族なんか古い公爵家くらいだ。あとはウチより家格が低い、向こうが俺に遜れ」

「ふむ、確かにそうじゃ」

一頻り民衆に愛想を振り撒き終わったディアマントが報道とは打って変わって仏頂面が過ぎるガーネをちらりと見上げて声を掛けると、愛想とは程遠い悪どい顔で笑みを浮かべられディアマントはまんまと言いくるめられた。

相変わらずチョロい女、と思ったところでディアマントはぱっと手を離して早速チョロつき始めた。

「あれはなんじゃー!」

「走るな小娘ーッ!!」

「ガーネ!これなに!これはなんじゃ!」

「焼き芋」

「やきいも!!あっ、妾あそこのお店見たい!行くのじゃ!!」

「落ち着けーッ!!」

「…………前回のこの地の突然の街ブラの光景を思い出すな。あの小娘はなにも変わっていない」

「まぁ、ふふふ。ヘルソニア様、でも陛下楽しそうでなによりですわ」

はしゃいで走り回るディアマントと振り回されて追いかけるガーネ、その2人を追い掛けて駆けていく随行の警備陣営を眺めてヘルソニアが鼻で笑いながら呟いた。侍女長もヘルソニアの隣でくすくすと笑いながらディアマントを見守り、ヘルソニアの顔を見上げた。

「侍女長は陛下に少し甘過ぎる。だからあの小娘が付け上がるんです」

「そんな事仰ったら特務総監様だって相当甘やかしていらっしゃいますわ」

「アレは構わない。意外と説教もしているしな」

「ですが、お説教する時は結構お厳しいんですのよ」

「だがそれで懲りる小娘ではないからな、丁度いいのではないか」


リエーブとアミュも後方でゆったりと歩きながら、一応は『護衛警備』としても同伴している為に視線はディアマントたちに向けつつ自由にウィンドウショッピングをしていた。無論、警備で同行しているためそんな自由に振る舞われてはガーネとしてはたまったものではないものの、言ったところでストレスが蓄積していくだけだともはや諦めていた。

それでも一応、『王命執行最高責任者』であるガーネと、女王側近であるヘルソニア、そして女王であるディアマント3名の命令は聞くと言っていたために「なにかあれば」大人しく従うだろうと誰もが特に咎めることも無いまま、ディアマントが興味を引かれて入った店に衛兵と近衛を外の警備に残して店内に入って行った。

「ガーネ、これなに?」

アミュが目を引いた寄木細工の小物入れを手に取り、近くにいたガーネの袖を引いた。

「あ?あー、寄木細工だな。この地域の特産」

「もようがある。いろぬり?」

「いや、木の種類とか削り出す場所とか向きとかで色の出方が変わるのを組み合わせてるんじゃなかったか確か。俺も詳しくはねーけど」

「うごかない」

「からくりなんだろ。そこのパーツ回したり動かしたりして開くんだろうな」

アミュが感心した顔で呟きながら、寄木細工の箱をかちゃかちゃと動かした。

細工式のものでひねったり振ったり回したりとしていかないと開かない形状のもので、アミュにしては珍しく興味を惹かれた顔で弄っていた。

「ガーネ、いがいとものしり」

「お前は1400歳の魔女のくせにモノも常識も知らねぇよな」

「妾も!妾もーっ!」

ガーネがアミュと会話していると、自分は興味を惹かれたものを目掛けてさっさと店の中ほどまで行ってしまったにも関わらずにガーネの元に戻って来て腕を引いた。そんなディアマントに思わず苦笑いをしながら、ガーネはぽんぽんと髪を撫でてディアマントに声を掛けた。

「なんか気になったんだろ。欲しいのあるなら買ってやろうか」

「えっと、」

ディアマントが口を開いたのを割ってアミュが先程から熱心に弄っていたからくり細工を掲げた。

「アミュ、これほしい。かって」

「まぁ。なら母様はこれが欲しいわ」

リエーブも寄木細工の手鏡を持ってガーネの元にやって来た。

「……俺、ディアマントに言ったんだけど」

「ガーネ母様になにも買ってくれない」

「そんなはずないだろ。律衡評定のあとに家に帰った時もついこの前帰った時も、アンタにせっつかれて宝飾品だのドレスだの総額5000万は買ってやってるぞ。家の金でなく俺の私費でだ」

「アミュもなにもかってくれない。けち。けちんぼ。そちん。なきむし。いんぽ」

「アミュ貴様は誰に向かってケチだの粗チンだの泣き虫だのインポだのと不名誉なことを吐かしてやがる泣かすぞ」

「ふん、アミュに泣かされたのはガーネのほう。ちいちゃいころ、アミュあそんであげようとしただけなのにへびみておおなきしてた」

「だーかーら!!!3つか4つの頃の話だしそんなガキに凍土蝮なんて大人の男でも一噛みで即死するような猛毒の魔獣数千匹の中に放り投げられたら普通に泣くだろうが!!!」

「?」

「とぼけた顔すんじゃねぇ!!」

「なんでもいい。かって」

「そうよガーネこれ母様に買ってちょうだい」

「わかったわかった!ほら、自分でレジ持って行け!!」

「まぁありがとうガーネ。息子に買ってもらうなんて嬉しいわ」

ガーネが財布から紙幣を数枚取り出してリエーブに手渡すと、ほくほくとした顔でアミュとともに会計へと向かう。それを見てやや気の毒そうな顔でジェレイドとエーリックが魔女2名の背中を見つめた。

そのやり取りの最中に、ディアマントは店の奥の方で目を引いた商品に近寄って興味深そうに眺めていると、ミモゼが傍に近寄ってディアマントの視線の先を見つめた。

「まぁ、オルゴールですわね」

「おるごーる?これ、とても綺麗な音がするのじゃ」

「この金属の突起を弾いて音が鳴るのですわ」

「…!オルゴール!」

初めてオルゴールを見たディアマントが目を輝かせ、大切そうに手に取って音色に耳を傾けた。

ミモゼが顔を上げると、少し離れた場所からガーネがディアマントを見守っている様子が目に入り、小さく笑いながら再度ディアマントへと顔を向けた。

「陛下、なにかお気に召したものはございますか?特務総監にオネダリなさったらきっと喜びますわよ」

「おねだり!……ええと、ええと…、…!妾、これがいい!ガーネ!妾これ!これが欲しい!買って!」

ディアマントは地域特産の寄木細工の小物入れの、蓋を開くとオルゴールの音色が鳴るものを手に取ると目を輝かせてガーネに強請った。

その瞬間、おそらくガーネ本人は意図していないであろうがあからさまに表情が緩み、ちょいちょいと手招きをした。

ディアマントがにこにこと屈託のない笑顔でオルゴールを持って近くに行くと、改めて「買って」と甘えた声で愛らしくオネダリをしたためガーネは深く溜息をついて顔を手で覆った。

「商品買い占めなくていいのか」

「買い占めなくてよいのじゃ、妾はこれが気に入った、これひとつでよいのじゃ」

「いや買い占めよう」

「買い占めなくてよいのじゃ、ひとつでよいのじゃ」


その後もディアマントご所望の『白いふわふわ』もとい綿菓子を買い与え、ガーネが前回外遊でロイヤルムーンストーンのピアスを購入した宝飾店でピアスと揃いの石のネックレスと髪飾りを購入したりと前回の15分弱強行の街ブラとは比較にならないほどにゆっくりと街中を散策し、大満足で迎賓館へと戻って晩餐へ向けた支度をし始めたのであった。

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