582話「かぞく」
「王城の使節だ。事前通達の通り、女王陛下及び随伴全120名。此度の外遊の警備最高責任者は俺だ、関所責任者を呼べ」
「はっ!お待ちしておりました!すぐに呼んで参ります!」
王城の馬車の車列がずらりと関所前に並ぶ荘厳な風景に、門衛と報道陣、出迎えの一般人がひしめき合っている。
今朝方の新聞報道を受け、「ガーネ様」と呼ぶ若い黄色い声に混じって妙に「ガーネ君!あらやだかわいいわ〜かっこいい〜!」「ガーネ君かわいい!こっち向いて!あらやだ〜ウチの息子もなんであんなイケメンにならなかったのかしら!」「そりゃアンタ畑と種の問題でしょ!」「アハハハ!」というマダムの声が非常に多く混じっていて、関所を通過するために1人先に外に出たガーネへ視線が集中砲火していた。
「侍女のだれかが言ってた通り、オバサンファンめっちゃ増えたわね」
特務と魔女が乗車する馬車の中から、ラズリが窓の外を眺めて半笑いで呟くと、スメイラも苦笑いで肩を竦めた。
「王都で今後、あんな感じで『あらガーネくん、ちゃんと食べてるの?』っておせんべいとか漬物とかお団子とか渡されて困惑しながら戻って来そうな未来がなんとなく見えますね」
「ああいうマダムって、ガーネ様みたいな普段スカして悪い顔してるのに時折甘ーい優しさ顔する『ぼうや』は多分ぎゅんぎゅんに刺さるわよ〜!あたしもわかるもの!ま、あたしはまだ若いんだけど!」
「アンタはオネェだから別の意味でぎゅんぎゅんに刺さってるだけでしょ。ま、腹立つけど顔はいいからね。母親の前で言うのもなんだけど性格はさておく」
「あの子、怒ると怖いもの。わたしなんか一生懸命朝ごはん作ったら、『クソ不味いんだけど。慣れないことしてんじゃねーよ』って叱られたのよ。ちょっとだけお砂糖とお塩間違えてしまっただけなのに」
「それは…ええと」
「リエーブ、アミュもそれはおこるかもしれない。おいしくないごはんはたべたくない」
特務の一同はアミュの言葉にふと、とあるガーネの台詞を思い出した。
初めて特務一同でアミュの住む『ティエフ大樹海』を訪れ、ガーネとアミュが対峙した時のこと。
時系列的に整理すれば、リエーブがガーネの魔力霊力をごっそり自分ごと封印し、アミュがしばらく5歳前後のガーネの世話をしたであろう時期かと推測される。『毒蛇数千匹仕向けたり、毒草のシチュー食わせようとしたり、妖怪液の風呂に沈めようとしてたのに?アレで俺のこと可愛がってたの?』とガーネがアミュを見つめていたなんとも言えない顔を思い出し、『この小柄で愛らしい桃色の瞳の金髪のエルフは、毒草のシチューを食べるんだっけ。でも毎日肉と菓子ばっかり選り好みして食べてる、わからない』と思いながら、関所責任者と会話をして女王の乗車する馬車の踏み板に片足を掛け、関所通過の合図を車列に送るガーネの後ろ姿を窓から眺めていた。
「……なんだか複雑だわ。この前、すごく叱られたの。『お前はいつまで俺を5歳のガキだと思ってんだ、お前の時間は止まっててもこちとらもう20歳なんだ』って。……あの子はもう20歳なのに、わたしの中ではまだ5歳の小さな子供だったあの子がいるの。もちろん、あの仏頂面が紛れもなくわたしの息子なこともわかっているわ。わたしにも当然似ているけれど、大きくなったら夫にもとても良く似ているんだもの。わたしの夫はあの子が4つの頃に死んでしまったけれど、今生きていたら一緒にあの子のこと見てどんな話をしたのかしら。いくつになっても、わたしにとっては可愛い息子なの。それがあんな、軍人みたいな仕事をして、警察官でもあって、ディアマントみたいな女と愛し合ってしまうだなんて。よりにもよってディアマントとは思ったけれど、あの子のあの顔、あの目を見たらもう何も言えないわ。世論と同じよ。男としてきちんと、結婚すると啖呵を切った相手ならしっかり添い遂げては欲しいけれど、それよりも何よりも、親としてあの子には幸せになって欲しい」
そう言って珍しく薄く笑ったリエーブは間違いなく『母』の顔をしており、やはりガーネとよく似た顔立ちであった。
「リエーブ、おかあさんみたい」
「いやだわアミュ。おかあさんなのよ、ガーネの」
「ふーん」
「…外遊終わったら、久しぶりに実家に帰ろうかな」
サイフィルリエーブの話を聞いてなんとなく思うところがありそうな顔でぽつりと漏らし、リエーブはにこりと笑みを向けた。
「そうしたらいいわ。孝行のしたい時分に親はなしと言うでしょう」
そのやり取りを受けて一同、なんとなく実家の両親や家族の顔をそれぞれ思い浮かべ、ラズリも横柄に足を組んで小さく笑った。
「アタシも、来月パパの誕生日だわそう言えば。たまには帰ろうかしら、ママの作ったグラタンも食べたいし」
「アミュにはかぞくいない」
「アミュはまたウチに遊びにいらっしゃい、シャルヴィアにローストポークを作ってもらいましょう」
「おにく!アミュ、シャルの作ったベリーパイもたべたい!」
「ベリーパイね。そう言えば、ガーネもベリーパイは好物だったわね。あの子は今度はいつ、帰ってきてくれるのかしら」
馬車の車列は関所を通過し、ジェニウス区の繁華街を通過し少し閑静な、前回も宿泊した迎賓館の馬車寄せへと停車した。




