581話「初日の成果」
「おはようございます陛下。本日は朝餉に、陛下のご所望のパンケーキをご用意いたしました。それと、『陛下のご希望通り』に整えてございます」
「パンケーキ!」
ラベンダーピンクのストレートラインドレスと瑞月真珠のネックレスとピアス、初めてガーネに貰った赤い宝石の髪留めでハーフアップにまとめてディアマントは機嫌良く食堂へと赴いた。
右手中指にはガーネにルースを貰った魔石ダイヤの指輪、左手首にはガーネと揃いのブレスレット、薬指には婚約指輪と、『全てガーネにもらったもの』で装飾品を揃えていた。
「おはようございます」
ずらりと整列した随行者一同が一斉にディアマントに頭を下げ、食堂の大きなテーブルの上座に案内されて腰を下ろした。
「みなであさごはんじゃ!」
普段王城ではそういうわけにもいかないからと、ディアマントたっての希望で全員はさすがに無理であるが相伴できる随行者はディアマントと食卓をともにする運びであった。
嬉しそうに笑みを浮かべたディアマントを見て、ガーネ筆頭に『こんなこと』でこんなに喜ぶディアマントを微笑ましく感じる中で朝食が始まった。
「特務総監様、ご用意出来ました」
「サンキュ」
侍女がガーネのところに新聞を数紙持ってくると、いつもの習慣でガーネは新聞を広げ動きが止まった。そして慌てて他の紙面も広げ、雑に畳んで別の紙面も広げていく忙しなさにディアマントは眉を寄せた。
「なにごとじゃ」
「おかしい」
「なにがじゃ」
「俺は散々、あれだけ『報道向け』の見せ場を用意したのになんで各紙『これ』を抜いてんだ!おかしい!」
ガーネの訴えにディアマントと近くの席の面々は新聞を覗き込んだ。
各社一面は当然『婚約内定記者会見後初の公式ツーショット』であるが、ガーネが『見せ場』として用意した並んで王城から出てきたシーンでも、ネックレスを贈る場面でも、ピアスを付けてやる場面でも恭しく丁重に馬車にエスコートする場面でも、婚約指輪に口付ける場面でもなんでもなく、『ネックレスを贈ってディアマントが喜んだのを見て表情が緩んだガーネ』である。もちろんアングルも距離もそれぞれ異なるが、どの紙面も一面に大きくそのカットを採用しガーネが見せ場として用意した場面は申し訳程度に数カット使用されていた。
「待て待て待ておかしい。俺この時警備中だしもっと顔締めてたと思うんだけど。加工か。加工だろこれ」
「各社揃って?なんのために示し合わせるの?」
「なんだこの王都新聞の『陛下へネックレスを贈った瞬間の、特務総監閣下の陛下を見つめる甘い眼差し』とか、ゴテス毎朝新聞の『ディアマント女王陛下への愛の滲んだ熱い視線と甘いマスク』とか。ハァ?俺こんな顔してコイツ見てんの?」
「見てる」
「見てるなぁ」
「見てるでしょ」
「見ておりますわ」
「見てる見てる」
「見てますわね」
「ガーネは妾を見るとき、いつも『この顔』で『この目』をしておる!安心せよ!『いつも通り』じゃ!」
「うるせー小娘黙ってろ!俺の威厳と沽券に関わる!コイツへのベタ惚れは否定も隠匿もしねぇが『この顔』はない!!」
「むっ!」
「いや、アンタいつも『この顔』だから」
「ふふん、ガーネは妾がだいすきなのじゃ!」
「嘘だろ!おい他の新聞は!」
ガーネが新聞を用意してきた侍女に掴みかかる勢いで顔を向けると、報道で抜かれた顔とは真逆の『威圧感たっぷりの見慣れた眼光』に侍女は思わず肩を揺らした。
「も、申し訳ございません、地方ですのでこれしか用意出来ませんで…」
「だー!!まじかよオイ!!」
「ね、ねっガーネ!妾のドレスどうじゃ!かわいい?似合う?パンケーキおいし?」
「かわいい!!似合う!!普通!!」
「妾はかわいい!」
勝手に1人で自己肯定感を向上させて満足気なディアマントと、まさか『こんなどこからどう見てもベタ惚れがだだ漏れている顔』を各社に抜かれていると思っておらずにやや絶望するガーネを見て、スメイラも新聞の文面に目を這わせて口を開いた。
「まぁ良かったんじゃない?ガーネくん。君の狙った『愛のない政略結婚』やら『女王の権力狙いの野心の婚姻』がガセだって、『この顔』見たら一目瞭然だし誰も疑わないよ。『女王陛下の手元に輝く婚約指輪と、両名の左手首には揃いのサファイアのブレスレットを纏っており』って。ついでに『不倫騒動』も、『騒然となった不倫騒動に関しては相手の女性が特務総監閣下の母君のリエーブ・ウェイシェイト・グリーチェウト女史であることが公の場で判明。母子らしくご尊顔が非常によく似ており…』とか、『このリエーブ女史は女王認可を受けた『嚆矢の魔女』その人であり…』ってちゃんと各紙書いてるし。狙い以上じゃない。採用した写真が各社『コレ』だっただけで」
「そうですわ特務総監様、『最高の結果』だと存じます」
ミモゼもポットを持ちディアマントに歩み寄りながらくすくすと笑い声を掛け、ディアマントのティーカップに紅茶を注いだ。
「そうだけどそうじゃない…」
「でも、普段の眼光鋭くいらっしゃるのもかっこいいですが、こんな甘い顔で見つめられたらって今までのファン層から拡大しそうですよ」
「なにファン層って。俺はアイドルかなにかか」
1人納得のいかない様子のガーネであったが、ディアマントを見つめる時の眼差しは王城内でもすでに隠れておらず周知の事実であった。よって、ガーネとディアマントを日頃見ている人間にしてみれば『今更』であり、ディアマント本人は『ガーネは妾がだいすき!』と満足そうであった。
そして、侍女の想定通り今までの若い女性ファンだけでなく新聞に抜かれたガーネの『愛おし気に好きな女を見つめる顔』が妙に刺さった40代以上のマダム層のファンが、これをきっかけに激増したのはまた別の話である。




