580話「小さな報告、そして大きな下世話」
ディアマントの宿泊部屋に戻ったガーネは、ソファで座って読書をするディアマントを見てものすごく嫌な予感に顔が引き攣った。
「小娘」
「妾は小娘ではない。おくさまじゃ」
「まだ結婚してないから正式に俺の嫁ではないんだよ!何読んでやがる!」
ガーネに以前土産で貰った硝子栞を本に挟み、ぱたんと閉じたディアマントは得意気な顔でガーネを見上げた。
「ふふん。妾は『あこがれのせんぱいかっぷる』のお姉さんだから、そんな妾に相応しい小説じゃ!『憧れの先輩〜お姉さんが教えてアゲル〜』じゃ!」
「だからなんで選択肢が官能小説なんだ!意味わかって読んでんのか!」
むっとした顔のディアマントが再度ページを開き、『理解している』ことを示すべく視線を文字に滑らせた。
「妾、わかるもん!ええと、……『「さあぼうや、こちらにいらっしゃい。お姉さんのここを触ってみてもいいのよ」「先輩、そんな、…ああなんて柔らかい。僕初めてなんです」「うふふ、かわいいぼうや」こうして衣服をたくし上げて柔肌に』」
「音読すんなバカ女!!!『わかるもん』じゃねぇんだよわかってなくてただ文字追って碌でも無い単語と行為だけ無駄にインプットしてるだけだろ没収!!!」
「むっ!」
ガーネに本を取り上げられたディアマントはむくれた顔でガーネを睨みつけ、タイミングがいいのか悪いのか入口の扉がノックされた。
「はい」
ガーネが短く返事を返すと、扉の向こうから「カルセです」と声が聞こえ、ディアマントは「入れ」と声を掛けた。
ガーネはディアマントの隣に腰を下ろし、取り上げた本をソファの脇に置いた。
「失礼いたします。陛下、夜分遅く申し訳ございません」
「構わぬのじゃ。座れ」
「はい、失礼いたします」
「…………し、……失礼、いたします…」
カルセに続いて緊張で顔を強張らせたジェレイドが共に入室し、ディアマントとガーネに向かって深々と頭を下げた。
一度カルセとジェレイドが互いに視線を絡ませてからディアマントとガーネの正面のソファに腰を下ろす。
ほんの数十秒ではあるものの、女王を前に言葉を選ぶ2人ではあったがディアマントは急かすこともなく、にこりと笑みを浮かべた。
「へ、陛下。あの」
「なんじゃ」
緊張で震えるカルセがちらりとジェレイドを見遣り、小さく頷いた。
「…陛下、ガーネ。我々の件に関しまして、数々のご配慮痛み入ります。お陰様で、……正式にお付き合い、する運びとなりました」
「……陛下とガーネ様には、色々とご相談に乗っていただいたので、一番に……直接、ご報告したくて。ありがとうございました」
そう言って改めて頭を下げ、そして互いに視線を絡ませ幸せそうに微笑み合ったジェレイドとカルセを見て、ディアマントは嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。
「さようか。良かったのじゃ!」
「ジェレイド」
「……なんだ」
ガーネがジェレイドの名前を呼び、男同士で視線が絡む。そのまま懐に手を差し込み紙袋に包まれた小さな箱を取り出してジェレイドに差し出した。
「…これは?」
「お前にやる」
「?あ、ありがとう…?」
「あ、今開けるなよ。俺からのお祝いだ」
「わかった。……?」
そこから少しの時間だけ雑談をし、ディアマントの就寝時間を考慮してカルセとジェレイドは揃って退室して行った。
2人きりになった室内で、ガーネが足を組み直してネクタイの結び目に指を引っ掛け軽く引いて緩めながら小さく息を漏らした。
「ガーネ、もう寝る?妾といっしょ?」
期待に満ちた目でガーネを見上げ、ガーネも眠そうに小さく欠伸を漏らした。
「一緒じゃない。寝ない。お前の部屋前の護衛」
「妾、いっしょがよい…ところでさっきの贈り物はなんじゃ。妾にはない?」
「お前にはない」
「妾にはない……妾もほしい……」
あからさまにしょんとしたディアマントを見てガーネは肩を竦め、顔を覗き込んで頭をぽんぽんと撫でた。
「アレはなぁ、避妊具だ」
「ひにんぐ」
「避妊具」
「ひにんぐ…?」
誤魔化すように視線を逸らしたガーネがわざとらしく小さく咳払いをしてソファから立ち上がりディアマントの身体を抱き上げてベッドに転がした。
「いいからさっさと寝ろ、明日も早いんだぞ」
「いやっいっしょに寝たいっ」
「仕事だっつの。お前の部屋の前にいるから」
「……ガーネ」
「なーに」
「明日はまた街のお散歩?いっしょ?」
「その予定だったけど、早く寝ないとしないしさせない。俺の権限で取り止める」
「!わ、妾、早く寝るもん!」
「ふっ、そうか。……おやすみ。俺の可愛い、世界で一番大事な婚約者様」
「うふふ!」
髪を撫でてからそっと額に口付けると、愛らしく笑みを浮かべるディアマントに衝動的に唇を重ねた。堪能するように柔らかく唇を食み、ガーネは『あまり続けると歯止め利かなくなるな、俺が』と渋々唇を話して枕元にちょんと座っていたシロクマのゆきちゃんの頭を雑に鷲掴んでディアマントの隣に寝かせて上掛けを掛けた。
「…おやすみなさいませ、陛下」
「うむ!おやすみ!」




