578話「ファースト・メイントピック」
ようやくエヴェリーサとカルセが武器保管車両へと向かい、他の隊長格も続いてぞろぞろと車両を後にした。ただ『剣を預け、下車時に側近のカルセが回収して自分のところに持って来るために場所を確認させる』だけのことが随分と時間がかかってしまった。
「あー、なんかもう、外遊始まったばっかなのに死ぬほど疲れた…」
「しかし其方が元交際相手を簡単に白状したのも少し意外だったな」
「まだそれ擦りますかヘルソニア様。隣の小娘むくれてるんですけど」
「もとかの!」
面倒そうに侍女長の配膳した冷たい水を飲み干し一息ついてから、ちらりと小娘もといディアマントを見遣った。
「……別に過去付き合ってた女も1回寝ただけの女がそこそこいることは今更隠しはしませんけど。どうせ報道の連中も俺の過去の女関係漁ってるだろうし。ただ、エヴェリーサ始め『俺と付き合ってたからあの時どうだった』とか変なこと言うような『頭の悪い女』とは付き合ってません。例外はローウェン元文官補です。ま、アレは懲戒にしたら盛大に多方面で自爆して家ごと没落していきましたけどね。それに別れたからってそんな険悪な別れ方してませんし。現に俺はアイツの結婚式にも招待されてるし、息子が産まれた時は祝い金も包んでます。今は衛兵と特務で一緒に仕事もするし、どっかのクソババアが変なこと言い出さなければ特に俺が無駄な被弾することも無く過ごす程度の関係ですよ」
「ほー、其方意外と大人だな。感心感心」
「その『どっかのクソババア』と言うのは誰のことかしら」
「アンタだよ母上!!」
ヘルソニアの揶揄うような言葉を聞きながらミモゼがおかわりの水をピッチャーから注ぐ手元を見遣り、他の人員も別車両へと移るのを確認して傍にいるミモゼに声を掛けた。
「侍女長、『例の』」
「かしこまりました」
「なんじゃ、ガーネ」
ディアマントが興味を引かれた様子でむくれた顔を一変させると、ミモゼから受け取った袋を見て目を輝かせた。
「妾の!?」
「毎回お前じゃねーわ残念だったな。……アミュ、約束の」
「……!おかし!ガーネありがとう」
袋を抱えて嬉しそうにしたアミュは、陽炎狐を腕に抱き上げ直して特務を追いかけるように出て行った。
リエーブも形だけディアマントに一礼して車両を出て行くと、貴賓車両の中にはガーネとディアマント、ヘルソニア、ミモゼ、ジステル、ディーンだけが残った。
「妾にはくれない」
「あれはアミュへの『賄賂』だ。朝王城前で『俺の命令を大人しく聞いて報道陣対策に協力しろ』って菓子で釣ったんだ」
「わいろ」
「あー、くたびれた」
改めて姿勢を直したガーネを見て、ディアマントは今度こそと目を輝かせた。
「遊ぶ?妾と遊ぶ!?なにをして遊ぶ?みんなで遊ぶ?」
「遊ばねーよ。移動中は仕事だって言ったろ。大体女官長からタイムテーブル共有されてんだろ」
「遊びたい…せっかくのお出かけじゃ」
あからさまにしょんとしたディアマントに、ガーネは意地悪心が沸き上がり小さく鼻で笑って贈ったばかりのパパラチアサファイアの揺れるピアスにそっと触れた。
「……フーン。じゃあ遊んでもいいけど。なにして遊びたいんだ」
「……!妾、みんなでトランプがしたい!」
ぱっと表情が変わり笑顔になったディアマントを見て『あーかわいい』と噛み締めながらも、ガーネは続けて意地悪く返した。
「わかった、なら『結婚式の打ち合わせ』の予定だったけどやめてトランプしよう。結婚式も別に俺はしなくてもぶっちゃけ困らんしな。そうしような」
「なにをしておるのじゃ。早く打ち合わせを始めるのじゃ。『時間は有限』なのじゃ!」
変わり身早く身を乗り出したディアマントに、一同思わず小さく吹き出しながらも『予定通り』移動の車内では結婚式に関連する打ち合わせを始めた。
式次第、招待予定客と警備予定、移動区画等、決めることは少なくない。かつ、4000年以上振りの王族の婚礼とあって誰もが手探りの状態であった。
「ヘルソニアよ。お前、先代の……お父様とお母様の婚礼の時のことは覚えておらぬのか」
「あのですね、4000年ですよ。覚えているわけないでしょう。逆になんで覚えていると思ったんですか」
「ふふん、ガーネなら頭がよいから覚えておるぞ!」
「毎回俺に対しての期待値高すぎない?俺生まれてねーし、あんなでも『一応』人の子なんだけど。そもそも4000年も生きてない」
下車する駅に近付くと、汽車は速度を落としゆっくりとホームに停車した。
事前通達で駅自体は封鎖、ダイヤも調整依頼済み。
手筈通り、魔導師と巫術官と特務が先行して下車し、周辺含め異常が無いか点検に向かう。
その間にカルセが武器庫からガーネが預けた剣を持ってやって来て、ガーネは身なりを整えた。
「さあ陛下、紅とお髪を整えましょうね」
「うむ」
ミモゼがディアマントの髪と化粧を直し、それぞれが降車の準備を整え終わった頃合いに特務より「異常なし」の報告を受けてガーネはディアマントへ手を差し出した。
「お手をどうぞ、陛下」
「ガーネ」
「なんですか」
「妾、可愛い?」
「可愛いよ、世界一」
「うふふ!」
満足そうにガーネの手を取り、汽車を降りたディアマント。
予定通り馬車寄せまでを集まった民衆に手を振り報道向けに少しだけ静止し、ガーネのエスコートで馬車へと乗り込むと、馬車は中継の宿泊予定地へと動き出した。




