577話「憧れの『奥様』」
「はいはいはーい!エヴェリーサちゃん!」
「サイフィルお前は喋るなもっととんでもないことになりそうだ。あとついでに言うけどエヴェリーサは役職があるんだぞ、他部署の上官相手に馴れ馴れしいんだよテメェは失せろ死ね」
「辛辣過ぎるし怖い!でもいいじゃん!ガーネだって『エヴェリーサ』って呼び捨てしてるじゃん!こんな可愛くて綺麗な人をさ!!」
「俺はコイツの元交際相手という関係値以前にこの女に命令を出せる立場の『上役』なんだよお前と一緒にすんな!常日頃言ってんだろ、特務内ならまだしも『上下関係わきまえろ』と!ぶち殺すぞそろそろ黙れ!」
「でもさぁ、ファルちゃんのときは結構頑なに『元カノ』って白状しなかったのに、エヴェリーサちゃんはわりとあっさり白状したじゃん?なんで?」
「あ、それあたしも思った〜」
容赦のない空気を全く読まないサイフィルの追撃にアメジまで同意し、ディアマントまでも今度はその方面に興味が移った顔をしたのを見てガーネは深々と溜息を漏らした。
「……多分俺の口から『コイツと付き合ってました』って『言いたくない女』はファルだけだ。あの女は顔と身体はいいが頭と性格が悪すぎた」
「あー、確かにローウェンさん女の子の評判すこぶる悪かったもん。ガーネがあの子と付き合ったって聞いて『また被害者が』って元カノとして同情したし」
エヴェリーサもその言葉に同意するように小さく頷くと、割と被害にあった特務の特に女性陣は思い出して深く頷いた。
「…そう、ですわね。あまり性格の素敵なお嬢さんとは言いがたかったですかしら」
「でもまぁ『ガーネの好み』といえば滅茶苦茶ド真ん中貫いた容姿はしてたわね。アタシほどじゃないけどまぁまぁ可愛いんじゃない?顔は」
「でさ!僕ずっとガーネの彼女に聞きたかったんだけど!ガーネの何が良くて付き合ってたの!?だってこんなに怖いじゃん!!」
「えっ」
過去付き合っていた男のどこが好きだったかだなんという話題を現婚約者の、挙句『女王陛下』である女の前でそんな話をしていいはずがないと『噂通り』とんでもない空気の読めない質問を投げてきたサイフィルに対し、エヴェリーサもさすがに顔が引き攣って苦笑いをした。
しかしあろうことか、ディアマント自身も興味がある様子で少し身を乗り出してエヴェリーサを見つめた。
「妾が許す。申してみよ。妾も、客観的な自分の男の評価に興味がある」
「……ええと、顔…」
シンプルに顔、と言われたガーネはとんでもなく複雑そうな表情を浮かべて全てを諦めた様子で継続する『公開処刑』を眺めた。
「あとは、まぁ、そうですね…頭がいいところと、…これは私自身も若気の至りというやつですが、若い頃というのは普通に『ちょっと悪ぶった男』に惹かれるところもあったので、喧嘩が強くて頼もしく感じたところとか、…それと、えーと…男尊女卑はしないけど『女扱い』はすごく上手だったし、そういう意味では優しかったから、あとは…今のもそうですけど、『こんな』なのに常識はあるというか分別があるところですかね。店員さんに横柄に偉そうにしたりとか、そういうことはしない人だったので」
意外にも『顔』と言ったわりにはしっかりガーネの本質の部分は好きで付き合っていたことが露呈し、ディアマントは自分で聞いておきながらなんとなく面白くなさそうな顔でミモゼの淹れた紅茶を飲んだ。
「嫌いというかマイナスポイントは、これだけ頭良いくせに急にIQ3になって意味がわからないところと、好き嫌いが多すぎるところと、拗ねたら面倒臭いところです。0か100かみたいなところとか、最高に面倒臭かったです」
「俺なにか悪いことした?なんで俺こんな被弾してんの?」
着実に様々なダメージが蓄積して来たガーネが思わずと言った様子で額を押さえて小さく呟くと、さすがに少し気の毒に感じたスメイラが何か気の利いたことを言おうと言葉を探した。
「ええと、ほらガーネくん。過去の別れがあってこそ陛下とこうして結婚する運びになるんでしょ。良かったじゃない、長らく無自覚ベタ惚れして陛下への好意自覚した瞬間に思い切り好き避けしてたんだから!」
「スメイラお前それはフォローのつもりか?…つーか、みんな俺の『顔』を褒めてくれて有難いんだけど、俺の顔面なんざ別に普通だろ」
「いや、アンタの顔相当以上に整ってるから…」
ガーネの発言にラズリが心底腹立たしそうに返し、リエーブも腕を組んで深く頷いた。
「そうですよガーネ。貴方、母様から出てきて不細工な訳ないでしょう」
「確かにアンタから出てきてるけどその言い方やめてくんない」
「ところでさ、本題だけど!エヴェリーサちゃん、僕、ガーネよりも優しいし、僕独身だよ!」
本格的に空気の読めないサイフィルのアピールに、困惑したエヴェリーサがガーネをちらりと見た。その視線を受けてガーネが思い切りサイフィルを鼻で笑い、あしらうように口を開いた。
「サイフィル、お前惚れっぽいのはどうでもいいがエヴェリーサは『既婚者』だぞ。俺はコイツらの結婚式にも出てるし、旦那は俺の官職課程の先輩で『職場恋愛』。ちなみにジェレイドの部下だ。旦那の方はまだ小さい息子を見るために今回は『随行無し』だったかな」
「え?あ、…あぁ。『彼』の奥方だったのか」
留守番組の近衛のメンツの中で『幼い息子』のいる隊士を思い浮かべ、その部下が目の前のエヴェリーサの配偶者であると結びついたジェレイドが声を上げると、エヴェリーサは反射でジェレイドに一礼した。
「はい、夫がいつもお世話になっております近衛総監閣下」
「…!『奥様』じゃ!妾も!妾も『おっとがおせわになっております』したい!!ガーネ!!妾をみなに紹介せよ!!」
「だから今更お前の何を紹介するんだ!『ウチの小娘です』って言えばいいのか!」
「妾も!!『おくさま』したい!!!」
「まだ結婚してねーからお前は嫁未満!!」
結局いつもの空気になって疲れ果てたガーネの前に、めげない懲りないサイフィルが真面目な顔で迫った。
「ガーネばっかりずるい!僕も!モテたい!!結婚したい!!!」
「うるせーなどいつもこいつも!!お前はまず結婚する前に彼女作れよ、嫁作るより簡単だろ彼女なんてその気になればその日にでも出来るだろ!!」
「出来ないから!!!」
深々と溜息を漏らしたガーネが、ソファの背もたれに寄りかかり直して腕を組んでサイフィルを真っ直ぐに見た。
「………あのさサイフィル。これは『お前の上官として』じゃなくて『同じ男として』真面目なアドバイスだが」
「うんうん!」
ガーネが何を言うのかと、一同少しばかり興味が向いた様子で視線を向ける。ガーネは再度深く溜息を漏らしてサイフィルを見て腕を組み、どこか呆れたような顔をした。
「男尊女卑のつもりはないが、女は多少バカでも可愛げはあるが男のバカはシンプルにモテないと思うぞ。一部ニッチな『ダメンズ好き』には刺さるかもしれんが、大多数はバカな男ほど『頼りない』ものはないだろ。あと普通に喋ってて苛つくから俺は頭の悪い人間が好きじゃないけど」
「ふむ。サイフィルよ、そんなにモテたいのであればアメジとともに例の学力テスト『再試』でもするか」
「え」
「あ、それがいいんじゃねぇの。少しは勉強した方がいいんだよコイツ。さすがに400点満点で32点はバカ過ぎだろ。なんだよ『人が息をするために必要なものはなんですか、答え・鼻』って。あと『税金は何のためにあるか、答え・女王様が贅沢をするため』だっけ?」
「なら外遊が終わったら再試をするとしよう。基準点に満たなかったら減給でどうじゃ」
「いんじゃね」
「よくない!!」
「え、なんであたしも道連れ?」
「バカとゴリラだからだよ!いいからさっさとエヴェリーサとカルセは武器庫に剣しまって、他は休憩なり点検なり行け!」




