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断罪ディストーション  作者: 梦月みい
第九章『眷恋』

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57話「リミットライン」

翌日、ガーネは朝から眉間に皺を深く寄せていた。

「…なにお前、顔怖いんだけど。凶悪犯みたい」

「お前のキテレツなファッションセンスには負けるっつの」

窓辺に置いた一人掛けのソファを定位置に定めたようで、ガーネはそこでいつものように腕と足を組んで考え込んでいる。

「なーに考えてんの、『お兄さん』に言ってごらんガーネくん」

「おい、童貞。なんか甘いモン買ってこい童貞」

「お前嫌い!!」

「あ、私シュークリーム食べたいな」

「でしたらわたくしはフルーツタルトがいいですわ」

「なに!?みんなおかしい!おかしいよ!?僕パシリじゃなくて『鑑定士』ね!!」

ガーネは喧しそうに片目を瞑りながらサイフィルに財布を投げつけた。

「いいから早く行け『パシリ』。童貞パシリ、さっさとしねーと妖精になるぞ。俺のはプリンな」

「ガーネなんか大嫌い!!!」

「うるせぇさっさと行け」

ガーネは苛立ったように吐き捨てると窓の外に視線を投げて睨むように目を細めた。




「リル、また鏡見て!そんなに見なくてもアンタは可愛いよ!」

「ちがうの」

「誰が見てもリルは可愛いよ、じゃなきゃミスコンだって優勝しないし。男なんてガーネ以外にもいーっぱいいるんだから」

「いや、やだ!だめ、ガーネがいい、ガーネじゃなきゃだめ、ガーネじゃなきゃいやだ!」

「リル…」

鏡を抱き締めて泣きじゃくるリルに、マリとライラは目を見合わせて『どうしたものか』と眉尻を下げた。

「なんでっなんであの時『別れる』なんて言ったのあたし!やだ、ガーネがいいのに…!」


喫茶店で、どういう話しをしたのかまでは二人は知らない。リルは語らなかったし、リルの様子からなんとなく『そういうこと』と察することしか出来ていない。


学生時代のガーネの噂なら、上級生である自分たちもよく知っている。

とにかく顔は良かったし、要領もいい。成績も悪くは無かった。運動も出来る。

なのに口が悪く、態度もデカく、他人と妙な壁を作ることから周囲に与える誤解も多々あり、それこそ素行の悪い連中に目を付けられて因縁をつけられ────返り討ち『以上』にした、という話しはよく聞いた。当時の年代は『ちょっと悪い男』に熱を上げる女子も多く、そういうところもあって彼は非常にモテたのは理解しているし、実際何人か付き合っていた女の子も知っている。

その中の一人が、親友のリルである。

彼女たちがガーネと別れた理由は様々であるが、意外なことにガーネから別れを切り出したという話しは聞いたことがない。

その中の最たるものが、リルと同様『自分のことを見ているようで違う誰かを見ているみたい』だった。


「…あ、ねぇねぇ。気分転換に、また占い行ってみない?今度は自分のことじゃなくてガーネ君のこと聞いてみなよ」

マリは、リルの肩を優しく抱いて妙に優しい声で提案をした。マリの胸元には、あの時貰った『お守り』のオニキスがペンダントに加工されて静かに黒く輝いていた。



*****



「俺、これ食ったら出かけてくる」

窓辺のソファでプリンを一口頬張ったガーネが小さく呟いた。

「一応聞いてやる。どこ行くんだ」

サイフィルはなんとなく感じた嫌な予感に、いつもより少しトーンを落として聞き返した。

「言わない」

「ガーネ様、あの鏡『回収』なさる気ですわね。いけませんよ」

「………」

図星を突かれ、ガーネは無言でプリンをもう一口口に運んだ。三人分の無言の圧が注がれ、居心地が悪そうに視線だけ向け直した。

「だって、どーすんだよこのままで」

「君は無敵の正義のヒーローにでもなったつもり?封鍵の時みたいに、体調崩して血吐いて挙げ句乱心して陛下の首絞めようとなんてされたら、こっちもたまったもんじゃないんだけど」

「…俺も一応聞いとく。サイフィル、あの鏡の運搬適正者は?」

「………アレはあんまり『直視』し過ぎることが出来ない遺物だったけど、その範囲で視れた結果で言うなら…お前」

「なら答えは出てるだろ」

「わかった。条件がある。私たちも全員同行させなさい」

ガーネはスメイラの提案に、空になったプリンの容器を雑に机に置いて立ち上がった。

「スメイラ」

「何よ」

「誰に命令してんだ、お前の指揮管理官はこの俺だ」

「……ッでしたら言い方を変えます統裁官閣下。『お願いなので私たち全員同行させてください』。これでどうですか」

「駄目だ、却下。許可しない」

「お前、いい加減にしろよ。僕らが信用出来ないのか知らないけど、『お前が潰れたら』その先どうなるか考えろ。それだけで言ってる訳じゃないのも勿論わかってはいると思うけど」

「…ガーネ様、均衡の教徒たちが万が一、ガーネ様の体調の優れない時を狙って仕掛けていらしたら?お一人でどうなさるの?」


三人の言わんとしていることも、理解できた。

確かに自分は『完全無敵』の都合のいいヒーローではない。

実際、痛い目も見た。

このまま『命令』で捻じ伏せることも、出来なくはない。

しかし、それでも。

ガーネは目を伏せて小さく息を吐き出した。


「………わーったよ、悪かった。俺の負けだ。ただし…俺もお前らに対して『責任』がある。その『万が一』の時の指示はちゃんと聞けよ」

「当たり前でしょ、何度も言うけど私だって死にたくないもの」




「さ、ほら。リル、行こ」

「うん」

再び訪れた『占い館』は、以前来た時よりも妙にズレがなく、『馴染んでいて居心地が良かった』。


「いらっしゃい。来るのを待っていたのよ。待ちくたびれたわ」

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