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断罪ディストーション  作者: 梦月みい
第九章『眷恋』

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56話「仕組まれた偶然に線を引く」

「……占い館?」

「ええ、そのように仰せでしたわ」

「ほーん、なるほど。じゃあスメイラ、調べといて」

「…『ご命令』とあらば」

「命令だよ、調べろ」

冗談めかして笑うガーネだったが、目は笑っていなかった。

「現場至上主義の君らしくないね。自分で動くのかと思ったけど」

スメイラは自分の管轄と任は弁えていながらも、ちくりと嫌味を言うのは忘れなかった。

「お前もわかってねーな。下調べあってこそ、だろ。いきなり無鉄砲に突っ込んだ時の俺含めお前らや一般人の死傷率と、裏取りしてから動く事のリスクヘッジと敵の確保率。どう行動すべきかだなんて言わずとも明白だろ。それに──── 」

「……それに?」

「適材適所、ってやつだ。あの時の俺は『単独で任務を課せられていた犬』、今はお前らという使えるモンがあるのに、リスクだけ背負う必要は無い。何もお前に潜入しろって言ってるわけじゃない、調べ方なんて色々あるだろ。それを踏まえての現場仕事は俺の管轄、以上」

「……かしこまりましたー、統裁官様」

「それからカルセ」

ガーネは不服そうながらも承諾したスメイラを一瞥してからカルセへと視線の対象を変えた。

「なんでしょうか」

「例の異界遺物の被害一般人、『遺物と同じで『浄化』する対象にない、魔障や霊障の類の医師の管轄だ』って言ってたろ。当てはあるのか」

「ええ、ございますわ。それこそ、その道の最高位の医師を存じております」

「じゃあその医者に話し通しといてくれ。その件に関してはお前に任せる」

「かしこまりました、お任せくださいませ」

「じゃあ、こないだの子と私たちが遺跡に到着する前に搬送された人がどこの病院にいるかも調べてカルセさんに共有しておくよ」

「おう、頼んだ」

そこまで話すとガーネはソファから立ち上がり、官服を羽織り直した。

「……どこかお出かけでしょうか?わたくしもご一緒しましょうか」

「スメイラが机上で調べるだけだと限界あんだろ。俺は俺でちょっと調べたいこともあるから出てくる、一人でいい」



*****



「たっだいまー、ってアレ?ガーネは?」

夜、食事を終えてから王都の宿屋に三人が入って行ったところを見届けてから城に戻ってきたサイフィルだったが、肝心のガーネの姿は見当たらない。

「お調べになることがあると仰って出て行かれたきり、お戻りになっていませんわ」

「私も今わかる範囲のこと色々漁って来たんだけどね、ボスがいなくて報告も共有も滞ってるから、カルセさんと遅めの夕飯中。サイフィルくんは?食べる?」

「あ、うーん。僕はいいや」

喫茶店を出て半日近く、その短時間でそれなりの厚さの紙の束が机に積み上がっていた。

スメイラのその手腕はさすがとしか言いようがなかった。

女王直轄任務の名目であてがわれた城内の作業室だが、まだソファや机が置かれただけのもので一同は未だ馴染まない様子でそれぞれの定位置を探すようにしていた。


「あの野郎、サボりか?」

「誰がサボりだ」

タイミングが良いのか悪いのか戻ったガーネに冷ややかな目で睨み付けられ、サイフィルはギクリと肩を揺らした。

「ガーネ様、お帰りなさいませ」

「おー」

官服を脱いでソファの背もたれに向かって放り投げると、ガーネは酷く疲れた顔で腰を落として深く息を漏らした。

「サイフィル、どうだった」

「…あー、えーと…大図書館で友達と合流したあと、しばらくはにこにこしてたけど夕飯の時に大号泣」

「俺が欲しいのはそこじゃねぇ、取捨選べ」

「わかってるよ、女心のわからないノンデリクソ野郎に嫌味くらい言わせろ!……本題はここから。スメイラさんとカルセちゃん経由で伝えてると思うけど、お前が『どれが本物かわからない』って言ってたのは…あの子の持ってた鏡だね。さすがに回収は出来なかったけど。それから…彼女の友人も、ヤバいの持ってたよ。凄い呪いの込められたオニキスの欠片に、同じく呪いの残滓まみれのカード。ただ、鏡はやっぱり別格だな」

「……へえ。お前意外と使えんじゃん」

「上から目線!何様!」

「俺はお前の正式なパシリ主だからな、女王のお墨付き」

想定以上の収穫の持ち帰りに、ガーネは意外そうな顔をしつつも満足げに笑った。

「私はさすがに情報なさすぎて、禁書庫に安置されてる鏡の遺物の資料まとめたところ。共通しているのは、やっぱり鏡っていうのは『媒介』に使用するのに適しているってところかな。君もやったんでしょ、呪詛返し」

「馬鹿か、そんな危ない事俺が自らの手でやるかよ」

「……あとはそれから、例の占い館。出来たのは本当に最近だね、当たるって評判でわりと繁盛してるみたい。建物の持ち主はただの所有者で、占い館の運営には無関係。占い館の責任者も、名前だけ。書類上の責任者から、別の代理人が立てられてさらにそこから別の人間に、って感じで最終的には追えなかった…つまり『そういうこと』って言えば、お巡りさん相手ならわかるよね?」

「おう、十分十分。すげーな、この短時間までここまでやるとは」

「で?お前は僕たちにこんなに苦労させてどこでサボってたんだよ」

ガーネはスメイラのまとめた資料からは目を離さず、パラパラと紙を捲る。

「…誰狙いかな、と」

ばさ、と資料を机に置くとガーネは足を組み直した。

「誰、狙い…?」

「例の均衡の連中が、『リルを使った』のか『たまたまリルだったのか』ってことだよ」

「……」

一同は口を閉ざした。ガーネの口ぶりから、恐らくそれが『前者』であると察したからだった。

「カルセ」

「はいガーネ様」

「お前、『呪い』相手なら使えるんだろうな」

「そうですわね、拝見してみないとわかりませんが、均衡の団体の扱う『呪い』には一定の癖のようなものがあるので、見ればわかりますし根が張る前であれば浄化もできます」

「均衡と対峙済みか」

「対峙というほどではございませんわ。わたくしはご存知の通り最低限自分を守る程度でしか魔法は使えませんもの。ですが、伊達に長く聖女はやっておりません。均衡のことでしたら多少は存じ上げております。それこそ、ガーネ様とスメイラさんが一度戦われた所謂『ローブを被った均衡教徒』、この方たちは『執行者』と呼ばれる実質の手足ですの。勿論、彼らの中にも序列がございまして、序列上位の方と下位の方にはかなり力の差があります」


ガーネが不在の間にある程度の話しをスメイラから聞いていた様子で、彼らが知らない均衡内部の情報に多少通じているのはさすが国の最高位祈祷聖務官と言えた。


「手足、ってことは頭もいるのか」

「ええ、わたくしもさすがにお会いしたことも拝見したこともございませんが…執行者の序列上位の方とは比較にならないかと。魔力も霊力も、思想も。執行者の上は『代行者』と、そうお名乗りになっていらっしゃると」

「代行者、ねぇ…それこそ、その上にカミサマでもいんのかね」

「そこまではわたくしもわかりかねます、申し訳ございません」

「いや、そこまで知れただけで十分。思ってた以上に数はいるようだな」

想定するに以前潰した腐った警察署長はローブを所持していなかったことから、ローブ持ちよりも更に下位の…要は『使い捨て』も多数いるのだろうと、思っている以上に規模のある集団であることが伺い知れる。しかし、実際障害になりそうなのは今しがたカルセが語っていた『執行者序列上位以上』だろう。

ガーネはある種の覚悟を本格的にする必要があるかと、深くため息を漏らした。

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