表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
断罪ディストーション  作者: 梦月みい
第九章『眷恋』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

58/109

55話「鏡の違和」

ガーネが退店する直前にサイフィルだけ外に呼び出した時点で、スメイラは何かを察した。

「カルセさん」

「はい」

互いに小さく頷き合い、立ち上がったところでサイフィルが店内に戻った。サイフィルと目が合うと、両手の指を広げて前に突き出した後に指を組むジェスチャーをしていた。

特に説明のないまま、サイフィルはリルの傍に歩み寄り妙に明るい声で話しかけた。


「あれ、昨日の可愛いお嬢さん!偶然だね、相席いい?いいよね、…はいどうぞ」

先程までガーネが座っていたソファ席に座ると、テーブルに備え付けのペーパーナプキンを差し出す。

「……あ、ありがとう」

突然現れたサイフィルに戸惑いながらも、リルは鼻声で小さく返事をして受け取ったペーパーナプキンで押さえるように溢れた涙を拭うと、あっという間に水分が滲んだ。


「…スメイラさん。ガーネ様が立ち去って初めてわかりました。『封鍵』…ではないですが、似たような気配がいたします」

「…そういう事か。仕事の出来るお犬様だね」

「勝手な推測ですが、サイフィルさんからの『動くな、祈れ』の指示と判断いたします」

「私もそう思う」


カルセはいつものように首から下げた円環の意匠を握るように指を組むと、小さな声で祈りの言葉を口にした。サイフィルの視線が妙に周囲を気にしている様子から、何かを警戒していることは見て取れた。スメイラもなるべく一般の客として振る舞うように新聞を広げてコーヒーを口にした。



「この後は?たしか、今って友達と旅行だっけ?」

「はい、…あの、すみませんでした」

「え?何が?」

「…ガーネ、『昔と変わらない』…あたしのこと、まるで見てなかった」

そう言って、拭ったばかりの目元から再びぽろぽろと涙がこぼれ落ちた。サイフィルは慌てたようにもう一枚ペーパーナプキンを差し出しながら、言葉を選びつつ声をかけた。

「……そ、そんなことないよ。僕が言うのもなんか癪だけどさ、アイツはアイツなりにちゃんとリルちゃんのこと好きで付き合ってたよ。昨日話してたし」

「あは、だといいんですけど。…やだもう、泣き過ぎちゃった」

リルは鞄から鏡を取り出し、目元の化粧崩れを確認するように鏡面を見つめた。


────これだ


サイフィルは一目見ただけでゾワリと悪寒が全身に走った。

リルの瞳に映る『鏡の中のリル』の、瞬きの速さだけ、現実と合っていない。


「…素敵な鏡。アンティーク?高そう、可愛いね。僕アンティークに目がなくてさ、ちょっと『視せて』よ」

「あ、はい。どうぞ。…でも、数日前に占い館で貰ったものなんです。お守りに、って」

差し出した鏡を受け取るも、直ぐに鏡面を伏せて置いて『鑑定』をした。

「────……占い館…へぇ、僕も興味あるなー、特に恋愛運」

「ふふ、友達も恋愛運占ってましたよ。手相占い」

「凄いね、本格的なんだ…、……へー…実は僕、鑑定士してるんだけどさ、この鏡結構値打ちあるかもしれないから、一旦預かりたいな」

「え、この鏡を、ですか?」

「うん、そう。『王立鑑定士団』の所属の鑑定士なんだ。目利きは確かだよ。結構値打ちありそう。ね、借りちゃ駄目?」


「駄目です」


その一言だけ、妙に何かが『ズレて』聞こえた。


間違いない。ただ、今この場で『触れて鏡面を視る』ことは絶対に出来ない。

本能がそれを制止している。

ちらりと横目でカルセを見ると、小さく首を振っていた。

「そか、無理にとは言わないよ。でも正式な鑑定、是非したいから気が向いたら鑑定士団のところ持ってきてね」

「…はい、じゃあ、あたしそろそろ、友達と合流します」

「いやぁ、可愛い子とお茶出来て幸せだったな。送ろうか?」

「この時間なら、大図書館に見学に行っていると思います。すぐ近くだから大丈夫、ありがとう」



サイフィルは店の外でリルを見送った。

数拍遅れて、スメイラとカルセも店外へと出てきた。

「同じですわ、祈りが届きません」

「あの鏡だ、間違いない。…ガーネにあの子尾行けろって言われてるから、僕はこのまま彼女を見て折を見て戻る。二人はガーネのとこ戻れだって。……『占い館で貰った』って言ってた、だけ伝えて。あとはわかると思う」

「かしこまりました、お気を付けて」

「大図書館なら、私の管轄だからこれ貸しておくね。必要だったら使って」

スメイラは責任者権限のついた魔宝石証をサイフィルに託し、意外と上手く人混みにまぎれていくサイフィルの背中を見送った。


「…失礼ながら正直、わたくし、どこかでガーネ様を測り違えておりましたわ。聡い方とは存じておりましたけれど、ここまでとは思い至りませんでした」

「野生の勘、みたいなのもあるのかもね。初対面の時からそういう片鱗は多々あったから。それに…流石というかなんというか、指示がこの短時間でめちゃくちゃ的確。完全に、現場対応の動きね、警察官って毎回俄には信じられないけど、こういう所見るとちゃんとお巡りさんよね。さすが『エリート』様」

スメイラは先程のリルとガーネの会話をなぞってからかうように返して肩を竦めた。


「…サイフィルさんも、尾行が上手かどうかはわかりませんが…彼の鑑定の目があれば危険はある程度回避出来るかと」

「じゃあ、私たちは一度『統裁官』サマのところに戻ろうか」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ