575話「権力狙いの疑惑」
「女王陛下、ご婚約おめでとうございます!」
「きゃー!ガーネ様!!こっち向いて!!かっこいいーッ!!」
「陛下ー!」
「ガーネ様ーッ!!」
ディアマントへの純粋な祝意の言葉とガーネへの黄色い声が絶妙に入り混じる中で、馬車を降りこれみよがしにガーネの腕を取ったディアマントは笑顔で民衆に手を振って応えた。
ガーネのエスコートで駅構内へと入り、特別編成の車両に乗り込んでいよいよ汽車がゆっくりと動き出した。
「相変わらず、おモテになりますわね特務総監様」
「はぁ?」
からかうようなミモゼの言葉に意味がわからなそうに眉を寄せたガーネであったが、上着を脱いでそのままミモゼに手渡して腰の剣を剣帯から引き抜いた。
「わたしの息子だもの。だって、母様も週刊誌で『美人』っていっぱい書かれていたし、ルイもわたしのこと毎日『可愛い』『綺麗だ』ってメロメロだったもの。だから母様は美人で可愛いから、顔が整ったルイと可愛い母様の間に生まれた愛息子はイケメンで然りなのよ」
「うるせーよババァ、黙ってろややこしくなんだろ」
「まぁ。母様に向かって『ババァ』だなんて」
「ふふん、妾の犬で、妾の騎士で、妾の婚約者じゃ。みなが羨ましがるのも致し方あるまいが、妾が一番愛らしく美しいのじゃ」
「俺、自分がマザコンとか思ったこと人生で1度たりとも無いけど今もしかしたらこの妙な自信過剰なところは母親と同じ素質の女を見初めてしまったのかと少しだけ不安になっている」
「心配しなくてもアンタはマザコンではないと思うけど。…出発時の運行も異常なし、車内も問題なし」
「ご苦労さん」
ラズリの報告を受けたガーネの返答に、特務の一同もようやくほっと胸を撫で下ろした。
ここからしばらくは汽車での移動、前回外遊と同様に直通ではないために途中駅で下車して馬車に乗り換え、中継の街で1泊し、翌昼前後に現地に到着の予定である。
その予定をディアマントの乗る最上位貴賓車両にて特務と衛兵総監、近衛総監、衛兵の隊長格数名と侍従長・侍女長・女官長と数名の侍女で確認してディアマントはソファに腰を下ろした。
「さてガーネよ、約束のものを見せるのじゃ」
「なに約束のものって」
「昨日から約束したのじゃ!妾、ガーネの警察手帳を見てみたいのじゃ!昨日の夜も『済んでからにしろ』と妾をひん剥いて寝台に転がして、コトが済んだら『明日な、さっさと寝ろ』と部屋を出て行き、今朝は今朝で『あとでなさっさと支度しろ』と構いもしなかった!見たい見たい!見たい!!」
「お前いちいち余計なこと言わないと会話出来ないの?そこは大人しく『楽しく2人でチェスを嗜みました』でいいだろが小娘が。…ほらよ、ンなもん見て何が楽しいんだよったく」
シャツの胸ポケットからご所望の警察手帳を取り出して雑に机に投げ置くと、嬉々としてディアマントが手帳を広げて中を見た。
リエーブも興味深そうにディアマントの手元を覗き込み、『ヴェルーティン王国王都警務本部公安局第一課配属 警視』と所属と役職が記載され、以前から新しく撮影し直した魔導転写画をまじまじと見つめた。
「かっこいい」
「ほんと、かっこいいわ」
「……あの、褒めてくれて有難いんだけど、『本物』はここにいるんだけど」
写真を見て『かっこいい』と褒められたガーネら心底複雑そうな顔をしてディアマントとリエーブを見つめたが、それを見たスメイラもラズリと顔を見合せて小さく笑った。
「でもほんと、ガーネくんみたいなのが『警察官』って俄には信じ難いよね」
「ほんと。世も末って感じ」
「そうか?俺自分ではめちゃくちゃ警察官適正あると思ってたけど。超お巡りさんじゃん。なぁ?教官」
「俺は元々『そっち』の人間だしなぁ、まぁ内部の人間だからこそ思うけど警察官としてもガーネはめちゃくちゃ優秀だと思うぞ」
「警察官って、衛兵総監みたいににこにこして優しい人みたいなイメージ。ガーネみたいにおっかない兄ちゃんはなんていうか……刑事?なんかイカつめの」
「刑事だって警察官だから。つーか俺、元々は『刑事』なんだけど。異常強行犯係だぞ。それより、衛兵総監が『にこにこして優しい』はお前ら『警察官時代』のこの人を知らねぇからそんなこと言うんだよ。夫婦共にめちゃくちゃおっかねーから。ついでに言うと俺の育ての親の伯父もあんなに人当たり良さそうに見えるけど超怖いからな。あとリエーブも俺はガキの頃めちゃくちゃ怖かった。なんなら今も普通に怖い時ある」
「まあ、母様のどこがそんなに怖いのかしら」
「こないだゲンコツされた。痛かった」
「貴方が地霊精霊ごと土地を焼き払ったからですよ。母様、そんなことする貴方が怖いわ」
「………」
無言で警察手帳をディアマントの手から取り上げたガーネを見上げ、思い出したようにディアマントが口を開いた。
「そう言えばガーネよ」
「なんですか陛下」
「先程エナに指示しておったのはなんじゃ」
「あー、アレ?ウチの商売っつーか、資金調達かな。あれだけ派手に報道陣の前でパフォーマンスしてるし、お前の婚約指輪もネックレスもピアスも問い合わせ増えるだろうこと見越してな。どうせ記者連中、俺の家のことも調べ上げてんだろうし、家業も把握してんだろ。ウチは『宝石』を扱ってるから、お前に贈った普通の宝石も魔晶石も霊鉱石も問い合わせが増える。絶好の販売機会だろ、『女王陛下と同じ宝石が欲しい』って。だから『関連企業同業他社』には卸値4割増で販売、『金持ち一般客』には2割増で販売。その指示をウチの執事に出したまでだ」
ガーネの商売説明を聞いたサイフィルが小さく首を傾げて口を開いた。
「ねぇガーネ、なんで『同業他社と関連企業は4割増』で、『金持ち』は2割増なの?もっと高値で売ればいいのに。商売なんでしょ?」
「わかってねーな、あんまり高額にし過ぎると俺の名前に傷がつくだろ。こういうのは匙加減が大事なんだ。逆に一般客相手には、そこそこの価格で販売すりゃリピーターになるだろ。ウチは土地柄希少な石が採掘されるし、目利きは俺も含めそこそこ自信がある」
その説明に、ディアマントとヘルソニアは関心したように腕を組んでガーネを見つめた。
「ほう」
「それで其方は金を荒稼ぎしているのか。通常の給金でも其方、危険手当やら役職手当やらと相当稼いでいるだろう」
「何言ってんですか、その分きちんと納税してるでしょ。その上で私費として小娘に貢いでるだけです。俺自身は物欲皆無だし、食に興味も無いし酒も煙草もギャンブルもしない。唯一の趣味は小娘に貢いで俺好みに可愛く仕立てることです。着飾り甲斐がありますよね、可愛いんで」
「妾は美しく愛らしい故に、宝石やドレスは妾を引き立てるのじゃ」
ドヤ顔で得意げに返したディアマントを見て呆れたような顔をしたヘルソニアが小さく溜息を漏らし、ガーネもディアマントの額を軽く小突いて思わず笑みを浮かべた。
その光景を見て、一同は改めて『ガーネが権力狙いでディアマントと結婚するだなんてこれを見てまだ言えるのだろうか』と、すっかり表情の緩んだガーネを見つめたのであった。




