574話「サプライズ」
「さて、これだけやれば『俺とリエーブの関係』も充分広まっただろ」
満足そうな顔で王城内に戻ったガーネを見て、ディアマント筆頭にヘルソニアやミモゼ、エナは呆れたような感心したような顔をしていた。
「其方、本当に悪知恵が働くな。相変わらず性格が悪い」
「悪知恵?どこがですかヘルソニア様。わざわざ『釈明会見』開く方がよっぽど悪手でしょこの場合。『違うんです』って言う言葉ほど、どんどん嘘っぽく聞こえるモンですよ。それに性格悪いのは自覚してます」
「それにしてもガーネ様、リエーブ様がお母様であると民衆に露呈させてしまって問題なかったのですか?」
エナが少し心配そうに声を掛けながら、ガーネの髪や徽章、肩章を最後に丁寧に整えた。
ガーネも小さく笑いながら肩を竦め、小さく息を漏らしながら見送りの家族の集まるホール広間をぐるりと見回した。
「リエーブが俺の母親なのは王城内ではほぼ全員知ってんだろ。箝口令出してるわけでもないし、人の口に戸は立てらんねぇからな。そのうち尾ひれ付いて変な広まり方するくらいなら、俺の口から母と呼んだ方がよっぽど説得力ある。ついでに並んで写真撮らせれば、親子なんだからさすがに顔似てんのもこれ以上無いほど示せるだろ」
「フン、妾はお前の頭の良さに感心する」
ディアマントがガーネの正面に近寄り、腕を伸ばして自らの手でガーネのネクタイを整えた。
最後に結び目をとんとんと軽く叩くように左手を翳すと、華奢な手首にロイヤルブルーサファイアのブレスレットが揺らめいて婚約指輪も光を反射して小さく輝いた。
「よし、準備は整ったか」
「うむ」
ガーネが肘を差し出すと、ディアマントは右手を添えて入口前に立った。
「扉、開けます」
「ああ」
侍従が玄関ホールの扉を開くと、一斉に待ちわびた民衆と報道の視線が注がれた、ガーネは女王の隣に立ち『婚約者』として軽く会釈をし、ディアマントはいつものようににこやかに笑顔で民衆に手を振って返した。
ディアマントが民衆に振る左手にはしっかりと婚約指輪が嵌められており、ディアマントの顔も『幸せいっぱい』を表したような満面の笑みであったが、隣のガーネはというと本人はこの場においてはどちらかと言うと『警備責任者』としての意識の方が強くあるせいか、こちらもいつも通り愛想など振りまく気はさらさら無い仏頂面で周辺へと目を光らせていた。
事前打ち合わせどおりに警備が万全なために怪しい動きは特に無さそうであることを確認し、改めて『報道向け』にディアマントとガーネの並んだツーショットを数秒見せつける場面を作った。
「さて、『愛の無い結婚』に関しての仕上げでもするか」
ガーネが小さく呟きながら指先で合図を出すと、エナが箱を持ってガーネの傍に歩み寄り大切そうにそれを手渡した。ガーネが受け取った箱に一同の視線が集まり、ディアマントも事前打ち合わせにない内容で小さく首を傾げてガーネを見上げた。
「プレゼント」
「え?あっ、わ!ピンクのネックレスじゃ!」
箱を開いてパパラチアサファイアのビブネックレスと、デザインを揃えたピアスを見せると目を輝かせてアクセサリーとガーネを交互に見た。ガーネはネックレスを箱から取り出すと一度ケースをエナに預け、そのままディアマントの後ろに回ってチェーンを止めてやってからタイミングを合わせてミモゼが手鏡を取り出しディアマントへと見せた。
「かわいい!妾かわいい!!」
サプライズプレゼントに喜んで笑顔を向けるディアマントの顔を見たガーネは、その瞬間わずか一瞬ではあるものの思わず顔が緩んでしまい、素直に可愛いと告げてからピアスも丁寧に小さな耳へと付けてやった。
贈られたアクセサリーを纏って大満足の顔でガーネを見つめるディアマントを見つめ返し、ガーネは堪らず小さく息を漏らした。
「可愛い。…な?俺の言う通り『アクセサリー付けないでいて』良かっただろ、ディアマント」
報道向けに最後に名前を呼んで、左手を少しだけ伸ばして顔周りで華やかに揺れるピアスに触れると、ディアマントの左手首に輝くサファイアのブレスレットと『揃いのもの』がガーネの手首のシャツの袖口から覗いた。
「婚約指輪も『今は』ピンクで、指輪とおそろいじゃ!かわいい!うれしい!」
「お気に召していただいて何よりです、陛下。行きましょうか」
「うむ!」
改めて、婚約指輪を見せつけるようにガーネの腕に手を添えて馬車までゆっくりと歩きながら、時折女王として周辺の民衆に手を振って歩いた。
馬車に乗車させる際も、それはそれは丁寧に大切なものを扱うように手を差し出して腰に手を添えてディアマントを馬車へと乗せた。
「ふむ。…ガーネ。お前、全て『仕込み』か」
「はは、どうだかな。抜かれてはいるだろうけど、建前でもなんでもない俺の感情だからな。報道されて疚しいものはなにもない。それともなに、『足りない』?俺の愛しいお姫様」
恭しくディアマントの左手を取り、婚約指輪へと口付けを落とす。あっという間に桜色の石が深紅に染まり、その瞬間でさえもシャッターの音が絶え間なく響いていた。
「可愛がるのは『後で』だ」
ミモゼとリエーブ、アミュ、ヘルソニアが同じ馬車に乗り込むと、ガーネは同じ馬車には敢えて乗り込まずに客席の扉を閉め、踏み板に片足を掛けて前後左右を確認した。
事前に駅に運搬した荷物の他、機密や手回り品などの荷物を運搬するための馬車に特務が乗り込み、他数台に別れて衛兵総監と近衛総監、侍従長らの『長』が乗り込み、随行の衛兵と近衛は護衛警備も含めそのまま徒歩で駅まで車列と並行する手筈である。
馬車乗車組も問題なく乗車が終わった合図を受け取ると、ガーネは御者に短く「出せ」と指示をし、馬車はゆっくりと駅に向かって動き出した。
王城から駅に向かうまでの通りもずらりと報道や一般人でひしめき合い、警察の協力も受け警備に当たる。
「…それにしても、見たか『あの顔』」
「ああ、誰だよ『愛のない政略結婚』だの『権力狙い』だのと報道してんの」
「どこからどう見ても、特務総監…陛下にベタ惚れじゃねぇか」
王城前広場で報道の記者が漏らした言葉は、あっという間に伝播していく。
翌日の新聞の一面記事は当然、意図せず漏れ出た『ガーネが愛おしくディアマントを見つめる表情』がしっかり抜かれた画が大々的に公表されるのであった。




