569話「布地と情報」
「はいこれ、ご注文の品物だヨ!」
ディアマントが昼食を摂っている間に特務室を訪れたヴィシュヴァは、先程ガーネがぽんぽんと注文をした布を運び込んだ。
総監室ではなく敢えて特務の面々がいる特務室の奥の応接スペースに通されたヴィシュヴァは、物珍しそうに周囲を見回してからガーネに視線を向けた。
「ふたりきりで話すと思ったヨ!」
「俺の立場で別室連れ込んで密談すると時期的に色々ややこしいからな。色々終われば別に問題ないけど……それに、……アシーム・バーシャーム・コーピ・ナ・ボッドゥム・シャクノーティ、サムヤク・カル?」
ガーネの『この言語は誰も理解出来ない、問題ないだろう?』とメイジーエ語に言語を切り替えると、ヴィシュヴァはにっこりと笑みを浮かべて頷いた。
「こんにちは、お客様ってヴィシュヴァ様だったんですのね」
「わぁ、相変わらず綺麗なシルク。こないだレースのリボンしか買わなかったけど、アタシもなにか買おうかな。ガーネの結婚式のドレス、これで仕立てようかしら」
「ほんと?可愛いお姉さんはネイビーとかブラックとかシックな色も似合うけど、レッドとかグリーンとかも似合いそうダヨ!」
「あらいいわね、あたしも買っちゃおうかしら。そしてあたしも仕立てて貰ったドレスで参列!もちろんあたしは純白!」
ラズリとアメジがガーネの購入した絹織物やレースを手にし、アメジがウィンクをしながら何かをアピールするようにガーネを見た。
「結婚式に白いのはお勧めしないけど……あれ、王国では白がマナー?」
「ンなわけあるか、『白は花嫁の色』だろ。やめろって言ったハズなんだけどな」
「お兄サン?お姉サン?は、そうだなー、いっそ黒とかにした方が似合いそうだヨ」
「あたしは『魔法少女』よ!」
相変わらずのアメジは無視をして、ラズリがガーネとヴィシュヴァへと顔を向けた。
「ガーネ、アタシも後で見たい。いい?」
「おー、せっかく来てるんだし見せてもらえ。スメイラとカルセも見たらどうだ」
「まいどあり!」
さすが商売人らしく客がつくと嬉しそうに愛想を振りまき、ガーネもまたその性質をわかっているからか上手く客をヴィシュヴァへと繋げることで『本来の目的』のための事前報酬としても機能させる。
その相変わらずの『上手さ』にヴィシュヴァが感心しているところに、カルセがトレンチに茶器と茶菓子を乗せて近寄って来た。
「失礼いたします、どうぞ」
カルセがガーネとヴィシュヴァの前に紅茶と茶菓子を出すと、ヴィシュヴァはカルセを見て「あっ」と小さく声を上げた。
「『ピンクのショール』の可愛いお姉サン!タタハ・パラム・テーナ・サハ・キム・アバヴァト?」
「えっ?」
ヴィシュヴァも敢えてメイジーエ語で『その後彼とはどうなったのかな?』と問いかけたが、当然カルセは理解できずに困った顔でガーネを見た。しかし、ガーネもそれを受けてそこからはカルセに対し明確に翻訳をしてやることも無くヴィシュヴァに対してメイジーエ語で応対をした。
「さーな。この前俺が計らって観劇あてがってやったが、出かけはしたみたいだけどどうなったのかまでは聞いてねーや。俺も敢えて聞いてないし」
「ふーん?」
「で?『その後』どうなった」
購入したシルクやレースの請求書を見て小切手に金額とサインを書き込んで手渡しながら、足を組んでガーネが『本題』を切り出した。
「ああ、そうそうその話。色々と面白いよ。例の皇子ね、『死んだ』よ」
「…死んだ?殺されたのか。ソースは?」
「アハハ、やだなぁ。そんなのナイショだよ」
「ハッ、まぁいい。それだけか?」
「正妻の子供である皇位継承2位と3位の、ラヴィハの弟……スリラハの兄弟、って言ったらいいかな?これも死んだ。こっちは『不審死』。これでメイジーエ皇国の皇位継承1位になったのが」
「…………スリラハ・ソーマ・マハツマ第一皇女が繰り上げか」
「そゆこと」
互いに紅茶を飲み、ガーネはヴィシュヴァの言葉を頭の中で反芻して考え込んだ。
「キナくせーな。調べられるか」
「ガーネがそう言うと思って調べてるんだけどね、なかなか警戒心強くて。皇国内でも皇族の不審死が相次いだものだから、結構騒がしいんだよ。ガセ掴まされても困るしね」
「ふ、そうだな。……今日の報酬は?」
「ううん、今日はいいよ。いっぱい買ってくれたし、ちゃんと約束通り『王室御用達』として取引も出来るようになったし、『婚約祝い』ということで」
「ふーん、そうか。なら有難く」
話が一段落するとヴィシュヴァと共ににガーネも立ち上がり、ヴィシュヴァは特務の女性陣へと向き直った。
「お嬢サンたち、お待たセしましタ。どんなの欲しい?」
女性陣がヴィシュヴァと付き人の差し出した布地を囲って盛り上がっている中で、ガーネも買い求めたばかりの布を手にして少し悩むように考えつつ自席に腰を下ろした。
少しして結局アメジとサイフィルも含め全員が何かしらかを購入し、ホクホクとした顔で特務室を退室しようとヴィシュヴァと付き人が一礼した。
「じゃあ、今日無かった商品はまた用意出来次第女王サマのも合わせて納品するネ。今日はこれで!」
「ああ、ヴィシュヴァそう言えばだけど」
「?なァに?ガーネ」
「メイジーエの法律では『皇位継承順位は25位までしか認められない』のと、『正妻及び側室の子供』ということだよな」
「そうだネ」
「『私生児』は?」
ガーネの問いかけに、ヴィシュヴァが一瞬だけぴくりと反応を示した。
「……法律上は、皇位継承権のある25人の子供が『25人未満になったら繰り上がる』かナ。まぁとは言え、今の皇王が作った法律だから、あの人の気分と状況で『そんなもの』ころころ変わっちゃうヨ。それがどうしたノ?」
「いや?そうなのか。なら、『28位から25位に繰り上がって継承順位に繰り上がった私生児』に、『お前も身辺気を付けろよ』って警告しとけ。『使える手駒がいなくなったら困る』からな、諸々手助けが必要あれば俺に言え」
「……ククク、ねェガーネ。どこまで調べたノ?」
「さーな、『お互い様』だ。こっちも渡せる情報なら食わせてやる」
「アハハハ!やっぱり、ガーネと『契約』して良かったヨ!……ね、ガーネ。今日の話の感想教えてヨ」
「あ?感想?そうだな……俺の可愛い女の顔を引っ叩きやがったラヴィハの野郎は、俺がこの手でぶち殺したかったから残念だよ」
「…………こわ。はは、ワタシ、ガーネの敵には回らないヨ。これは絶対、ゼッタイ約束。拳を合わせた契約までしたんだからネ」
「そうしてくれると助かるよ。俺も、お前は敵に回したくない」
*****
「この前来たばっかりなのに、アミュおしろかたくるしいからいや」
「『美味しいご飯』はあるんじゃないかしら」
昼過ぎ、予定通り翌日からの外遊に向けて嚆矢の魔女リエーブ、終焉の魔女アミュが王城へと到着し、玄関ホールで出迎えた一同は両名に一礼した。
同じくガーネも『建前で』リエーブとアミュに一礼してはいたものの、頭を上げるとすぐに面倒そうな顔で奥へと視線を向けた。
「なんだってこう、女っつーのは荷物が多いんだ。旅行でも行くのか。夜逃げか」
「旅行とは言い得て妙ね。ところで、母様は貴方の『不倫相手の美女』みたい。美女ですって」
「アミュはおいしいおにくがたべたい」
「リエーブが美人かどうかは知らんけど。なにせ自分で言うけど比較的鏡見てるような感覚だからな。……とりあえず母上たちは、スメイラたちに案内させますんで一旦控えの間に。侍従たちで部屋に荷物運んでくれるみたいなんで。で、時間になったらスメイラに託してるんで評定の間まで。……いいな?」
「アミュめんどくさい。おひるごはんは?おやつは?」
「侍女に言え。じゃあスメイラ、ラズリ、それとカルセ。頼んだぞ」
「あれ?ガーネくんは?どこ行くの?」
「警察。評定までには戻る」
懐の時計で時間を確認し、ガーネは自室へと着替えに向かった。一人忙しなく動く様子に、スメイラは小さく息を漏らしてその背中を見送ってからリエーブとアミュに向き直った。
「お部屋、ご案内いたします」




