556話「『さみしい』」
「大きいベッドにするのじゃ、今の妾のベッドは1人用じゃ」
「十分デケェだろ」
「露天風呂つくる?」
「警備困るだろ、周りを困らせんな。いらん」
「プール!」
「泳げねぇくせに」
「練習するのじゃ!」
「なんでもいいけど寝ろよお前、ずっと喋ってんじゃん」
ベッドの上でガーネの上に転がってひたすらにお喋りに興じているディアマントを引き剥がして隣に転がそうとするガーネの腕を無視して身体に抱きつく。ガーネは小さく溜息を漏らしながら、甘やかすようにディアマントの背中を撫でて視線を向けた。
「昨日も言ったけど、女に跨られるの嫌いなんだけど」
「今日は跨っておらぬ。転がっておるのじゃ。……おもたい?」
「いや重くはねぇけど」
「ガーネ」
「……なーに」
「妾、さみしい」
「はぁ?」
昨夜も隣にいるにも関わらず『さみしい』と訴えられたことを思い返し、ガーネは怪訝そうな顔をした。
「俺、傍にいるんだけど」
「そうだけどそうではない!……妾のこと、き、き、……嫌いか」
「…………なんでそうなる?好きじゃない女のところなんてわざわざ時間割いて来ないけど」
「だって!妾、さみしい!!」
「はぁ??……お前こそなに、俺がいるのに寂しいって」
「そ、そ、……そうじゃないもん…」
「なんだよ、…………あー、もういい。寝るまでは傍にいるから」
「なんで妾が『さみしい』と言っておるのに、妾に触らぬのじゃ!」
「触ってんじゃん」
「そうではない!!ガーネのばか!!!」
ガーネの上から退いてゆきちゃんを抱き締めると、ぷいっと顔を背けて背中を向けて転がったディアマントを見てガーネは無性に腹立たしく感じた。
「…あ、そう。わかった、……おやすみ」
妙に冷えたガーネの声と、ベッドが軋む音、それから体温が明確に離れる気配を感じたディアマントはハッとした顔で振り返り身体を起こした。既にガーネはソファの上に置いた着替え類の入った紙袋に手を掛け、正しく部屋を出るための支度をしているところであり、ディアマントは慌ててゆきちゃんを枕元に置いてベッドから降りて近寄り、ガーネのTシャツをそっと引っ張った。
「……なに」
「ちがう、……あの、……わ、わらわ、……だって…キス、してくれないし、だ、抱いてくれない。妾、さみしかった」
「……、……はぁ?」
「どうしてお前は!額面通りに言葉を受け取るのじゃ!!妾のことを触らず、抱かぬということは妾のことが嫌いなのか!!妾さみしい!!」
「……?えーと…?」
そこまで言われてようやくガーネは、ディアマントの言う『さみしい』が『抱いて欲しい』ということなのかと結びついて呆れるやらなにやらと言った顔でディアマントを見下ろした。
「…………俺、はっきりちゃんと言ってくれないとわかんないんだけど」
恐らくそういうことだと理解はしつつも、どうにも自分の中の意地悪い部分が顔を出してしまい、その性質をそのまま言葉に乗せて目の前の無垢な目をした女に向けて放った。
「お前の良くないところはそこじゃ!妾が『さみしい』と申したら、大人しく妾に口付けて妾を抱けばよいのじゃ!ばか!!」
「だってお前、昨日は俺もスイッチ入っちまったからついつい致したけど、初めて『男』の身体目の当たりにしてめちゃくちゃ怯えてたじゃん」
「こわくないもん!!妾今日、ちゃんと『勉強』したもん!!」
「は?勉強?なにで?どうやって?」
「侍女に借りた本じゃ!『愛蜜と愛執』という、おねえさんな妾にぴったりの小説じゃ!!」
ガーネが慌ててベッドサイドの小さなテーブルに栞が挟まって置かれた小説の元に歩み寄り手に取ると、ぱらぱらと中身を検めた。
──── 姫はその美しい声を漏らす濡れた唇で男のモノを……
──── 姫君の濡れそぼった蜜壺に熱く猛る……
──── 深くまで突き刺さる男根の……
「……お前、『こんなの』読んで一体なにを学んだ。ゴリゴリの官能小説じゃねーか」
「男の悦ばせ方じゃ!手で触って、口付けて舐めるのじゃ!」
「ハァ!!?」
「男は『それ』をすると悦ぶと書いてあったのじゃ。妾、昨日は初めて見たからちょっとだけびっくりしたけど、妾もガーネのこと悦ばせられる。だって妾、本で読んだもん」
「だって本で読んだもん、じゃねーんだよ小娘が。意味わかって言ってんのか」
「わかるもん!!……それとも、ガーネは妾のことが好きではないから、妾に触られるのが嫌なのか」
「なんでそうなる…?」
「妾はガーネに触られると嬉しい、『愛されてる』と実感する。だから妾も、ガーネが妾にするみたいにたくさんさわって口でもしてみたいのじゃ」
無垢な目を向けて訴える様子にガーネは深々と溜息を漏らして『だから処女ってめんどくさいって思ったんだった、こういうところだ』と内心で舌打ちを零した。
「お前は口でされるのは嫌いか」
「どっちかっつーと好きだけど」
「きもちいい?」
「めちゃくちゃ気持ちいい」
「ならなぜ妾に今までそれをさせなかったのじゃ」
「…………あのさぁ」
「なんじゃ!!」
「お前が初めてだろうからと、こちとら配慮して敢えてそういうの見せないようにしてたって昨日言ったよな。見せないようにしてんのになんでそういうことさせるんだよ。だいたい、お前一応『女王』だぞ」
「一応ではない。妾は女王じゃ」
「なんでもいいよ!!……その『国で一番高貴な女の口』になんだってそんなもん咥えさせなきゃいけねぇんだよ、正直普通にめちゃくちゃ興奮はするけど畏れ多いだろが。一応」
「お前だって妾のあんなところやこんなところやそんなところなんかも口付けて犬のように舐め回すではないか!」
「だから、……あー…ダメだ疲れた……もう寝る…」
もはや何も言えなくなったガーネは再び紙袋を手にすると部屋を出て行こうと踵を返したところで、ディアマントが慌てて腕を引っ張った。
「一緒に!!寝るのじゃ!!」
「………やだって言ったら?」
「泣く!!」
「……フーン、泣いちゃうのか」
疲れ果てたガーネの脳内がバグり過ぎて何に反応をしたのかは本人には定かではないものの、明確にどこかのスイッチが入った目に変わってディアマントを見下ろした。
「なら、泣いてくれるか?泣き顔見せてよ」
「へっ?」
「たっぷり泣かせてやる、それと本で読んだんだろ。実践してみてもらおうか、なぁ?女王陛下」
「えっ?あれ?…え?」




