555話「わくわく新婚生活予想図」
「なんだこの葉っぱ」
「レタスじゃ」
「草だ」
「ほうれん草じゃ」
「森」
「ブロッコリーじゃ!」
ハンバーグステーキに添えられたサラダの、ガーネ的な『得体の知れない草類』を器用にナイフとフォークで隣のディアマントの皿に乗せていくガーネ。
呆れるやら何やらで小さく溜息を漏らしたディアマントは、じとりとガーネを横目で見遣りパンをちぎって口に運んだ。
「……これはなんじゃ」
「女の子はこういうのいっぱい摂った方がいいぞ。鉄分とかビタミンとか。美容にいいだろ多分」
「妾は好き嫌いは無いのじゃ」
「へー、偉いな。さすが『お姉さん』じゃん」
「おねえさん……ふふん」
お姉さんと言われるだけで呆気なく絆されて得意気になったディアマントを見ながら、ガーネはナイフでハンバーグを切り分けて内心で『チョロい女』とほくそ笑んだ。
ガーネの寄越した野菜も食べながら、ディアマントは本題とばかりにガーネに視線を向け、口の中のものを咀嚼して飲み込んでからワインを一口飲んで口を開いた。
「ところでガーネ、新居の件じゃ。元々妾のお父様とお母様が使っていた部屋を改装するが、どんな部屋がよいとか希望はあるか」
「寝れればいい」
「そうではない、ほかは」
「ごちゃごちゃしてなきゃなんでもいい」
「そういうことではない」
「……間取りは」
傍に控えていた女官長ジステルが一歩前に歩み出て、小さく咳払いをした。
「区画としては今陛下がお使いのこちらの区画のもう少し奥にございます。玄関スペースを抜けて応接室、リビング、それぞれの書斎と執務室、ご夫婦の執務室、それぞれの私室、マスターベッドルーム、それと湯殿と水周り、食堂、衣装部屋、それとゲストルームと予備室が数部屋が主な間取りでございます。陛下のご希望は『特務総監様にクッキーを作って差し上げられるキッチン』と『おやつを共に出来るダイニングスペース』をご所望でしたわ。特務総監様のご希望はございますでしょうか、宮廷大工に申し伝えます」
「色々ツッコミどころ満載なんだけど城ン中なのにまだ玄関あんのか。いや、俺の部屋も今よくわかんねぇけどそんな感じだよな。いやそうじゃなくて小娘にキッチン使わせて平気なのか、指切るぞ火事になるぞ」
「ご心配には及びませんわ、基本わたくしが控えておりますので」
ミモゼがガーネの懸念に小さく笑いながら回答し、ガーネは段々と味がしなくなったハンバーグをもそもそと口に押し込んで水で流し込んだ。
「……俺の部屋があるなら、俺の部屋にもベッドかソファとシャワールームと便所があればそれでいい」
「ベッドとソファと湯殿と御手洗でございますね」
「ちがう、ベッド『か』ソファと、『シャワールーム』だ」
「別にベッドもソファも置けば良いし、元々お父様の部屋にもお母様の部屋にもそれぞれ湯殿はある。わざわざシャワールームにする必要もあるまい。だいたい、何故主寝室があるのに自分の部屋にベッドを置きたがるのじゃ」
「お前と喧嘩した時用。あ、いや別に特務室か総監室のソファでもいいか。なんでもねーわ、俺の部屋なんかいらん」
「喧嘩しないもん!!毎日一緒に寝るもん!!」
「なら、お前がクソわがまま言って、俺がイラついた時用かな」
「わ、妾、わがまま言わないもん…」
どこかしょんもりとしたディアマントの顔を見ると何故か突然ムラっとした気持ちが沸き上がり、ガーネはカトラリーを置くと水を飲んで立ち上がった。
「ごちそーさん。部屋はお前に任せる、どうせ寝るだけだし。ピンクのフリフリとか全部金箔でピカピカとか所狭しとぬいぐるみとかそこら中宝石でギラギラとかそんなんじゃ無ければなんでもいい。国費に懸念があれば言え、俺の『家の金』で出す」
食事を終え要件は済んだとばかりに部屋を出ようとするガーネの官服の裾を、ディアマントの華奢な指先がむんずと掴んだ。
「……なに」
「どこに行くのじゃ」
「特務室戻って仕事」
「その後は」
「シャワーかな」
「その後は」
「総監室のソファで仮眠」
「なぜじゃ!!」
「なぜって、リエーブが俺の部屋占拠してるから」
「今日も妾といっしょ!!一緒にお風呂!!一緒に寝る!!一緒に遊ぶ!!!」
『一緒にお風呂』と要求されたガーネは、目の前の無垢な目をした小娘の顔を見下ろして自分の額を押さえると何かを考えるように小さく息を漏らして考え込んだ。
少しして視線をディアマントに戻すも、やはり何か思うことがありそうに再度視線を外して再び考え込むのを何度か繰り返し、ディアマントも意味がわからなそうにちょこんと首を傾げる。
それを見て、ガーネはようやく視線を絡ませて小さく息を吐いた。
「……一緒に寝るのと遊ぶのだけ許容してやる。普通にまだ仕事がある、済ませてくる」
「妾の部屋でやればよいのじゃ」
「気ィ散るだろ。お前『遊ぼ』やら『これはなんじゃ』とか『妾も出来る』って逐一声掛けて来るし」
「こ、……声かけないもん」
「自信無さそう。……とにかく、仕事片付けて来たいからお前は風呂入ってゆっくりしてろ。いいな」
「………」
「じゃあ今日は来ない、じゃーな」
「で、できる!湯浴みして、ゆっくりしてられる!!妾出来るもん!!」
「そ。いい子。…なら、本でも読んで待ってて。ちゃんと来るから」
「うむ!」
にこりと笑ったディアマントに見送られ、ようやくガーネはある意味修行ともなりかねない『湯浴み業』を脱して特務室へと戻って行った。
仕事が山積みで残っていることは嘘ではないため、時計を見ながら急ぎの分から手をつけ始めるのであった。




