557話「結婚指輪」
翌日の予定は、ガーネも併せての来客対応の一日であった。
「……これは…煌金、ですか」
「婚約指輪のデザイン悩んだからそこそこの量を仕入れたんだが、コイツの指が細いのは分かってたんだけど思いの外細かったからな。相当余ったから、結婚指輪にもこれ使ってくれ」
「承知致しました。デザインはどのようにいたしましょうか」
彫金師の言葉にちらりとディアマントを見たガーネは、その華奢でほっそりとした指に鎮座するいかにもディアマントが好きそうなクラシカルでアンティークなデザインの婚約指輪へと視線を落とした。
「お前、結婚したあとその指輪どうすんの」
「外さないのじゃ!かわいいしうれしいから、ずっとしてるのじゃ!妾の!!」
「だろうな。うーん……思い切りシンプルに寄るか、いっそエタニティにするか。どうせ家事やら炊事やらする訳じゃないし、フルエタニティの方がいいか」
「妾、可愛くてきらきらのがよい!」
デザイナーと彫金師がそれぞれ軽く話しながらデザイン案を簡単に描き起こす中で、ガーネは官服の懐に入れた小さな箱を取り出して彫金師とデザイナーの前に差し出した。
「……特務総監様、こちらは」
「石」
「…拝見します」
デザイナーが小箱の蓋を開いて中を見ると、彫金師と共に小さく息を飲むのがわかった。ディアマントも箱の中身を知らないために身を乗り出して中を覗き込むと、中には原石の状態の石が二種類納められていた。
「……サファイアとダイヤモンド?……いや、ちがう。魔晶石じゃ」
「おー、さすがそこそこ目利きすんな女王サマ。青い石が約束してた『深藍晶』、サフィーラ。で、そっちの白っぽいのが『星彩晶』……まぁ完全に通称で選んだけど、品質も希少性も最高品位の『ディア』だ」
ガーネの選んだ魔晶石、深藍晶・通称サフィーラは文字通り深い藍色が特徴の魔晶石で、防護の類に加工されることも多くある『守護の石』と、星彩晶・通称ディアは魔晶石の中でも最高クラスの硬度を持ち、魔力を溜め込むことが出来る魔晶石であり、どちらも非常に希少性の高い石であった。
「…これは、……見事な石ですな…」
「さすが『グリーチェウト家』、どういうツテですか」
「はは、ナイショ」
ミモゼが配膳した紅茶を飲みながら談笑混じりに結婚指輪の打ち合わせをし、デザイナーがいくつか案として描いたスケッチをディアマントに見せた。
「陛下がお付けになっていらっしゃる婚約指輪と重ね付けをされるのであれば、こういったデザインかこういうものがどちらも映えるかと存じます」
「ふむ……ガーネ、どちらがよいか」
「…俺はこっちの方がお前には似合うと思うけど。お前も多分こぅちのが好きそう」
「なぜ妾の好みがわかる」
「こういう可愛い系好きだろ」
「妾、これがよい!」
「なら決まりだな、じゃあ俺はこれで」
ディアマントの指輪のデザインが決定するとそそくさと椅子から立ち上がったガーネの手を掴んでディアマントが退室を阻止した。
「ガーネの指輪も決めるのじゃ!」
「俺はイラネ」
「いるのじゃ!!」
「仕事で邪魔になるだろ、銃も剣も握るのに」
「お前は右利きじゃ、妾知ってるもん!いやじゃ!結婚するから結婚指輪しないといけないのじゃ!!衛兵総監もしておるし魔導師長も巫術官長もミモゼもジステルもみんなしてるのじゃ!!」
観念したように椅子に座り直して小さく溜息を漏らしたガーネが諦めた声色で声を掛ける。
「わかったわかったわかった!人前で癇癪起こすな!……あー、じゃあ超シンプルな、」
「妾とお揃いにするのじゃ!」
「やだ」
ガーネの言葉に被せて『お揃い』を訴えるのを真っ向から拒否すると、みるみる間にむすっと拗ねた顔をしたディアマントに困った顔をしたミモゼがそっと膝をついて声をかけた。
「陛下、こういった宝石がきらきらしたお可愛らしいのは特務総監様にはあまりお似合いにならないかもしれませんわ、おっしゃる通りやはり宝石が手を握った時にお仕事に障りがありそうですし……どういったのがいいか、せっかくデザイナーさんがいらっしゃるのですからご相談したらいいのですわ」
「うむ」
ミモゼの言う事であればと比較的素直に頷いたディアマントを見てガーネは小さく肩を竦め、彫金師とデザイナーに無言で目配せをした。それを受けた2名は小さく頷いて、デザイナーはガーネ向けに何枚かデザインを描き起こし始める。
ディアマントは期待を孕んだ目を向けながらスケッチブックを見つめ、提示されたデザインへと視線を落とした。
「こういった埋め込みですと引っ掛かりは軽減されますね、あとは石をこういう形で外側ではなく内側に入れると、引っ掛かりもなく表面はシンプルです」
「だめじゃ!いやじゃ!宝石は妾とお揃いで外側!妾とお揃いがいいのじゃ!」
「で、でしたらこういうのはどうですかね。青と白で交互にスリーストーンにすると、陛下のと少しお揃いっぽくかつ男性でも違和感なく付けられるかと。埋め込みで作成すれば、引っ掛かりもないかと」
「これがよい!妾、これをガーネにつけさせる!」
「……じゃあそれで」
自分の指輪など興味のないガーネはなんでも良さそうに小さく呟き、サイズを測るために左手を差し出した。
「妾の指輪は入る?」
「ぜってー入らんわそんなほっせーの、小指でも無理だ。お前も一応測り直せ、俺みたいな素人測定の婚約指輪だし煌金なんて加工難しいしフルエタニティは尚更後から直しにくい」
「…特務総監様ですと、19号くらいですかね。陛下もお手元失礼いたします。……うん、陛下は5号で問題なさそうですが…お指は浮腫まれることは多そうですか?」
彫金師がミモゼに視線を向けると、ミモゼは小さく首を振って返答をした。
「日によって多少の浮腫が出ることはございますが、基本的にはわたくしどもも含め健康や体調の管理は朝昼晩のお食事の時とお湯浴みの際に確認しております。極端に浮腫みが出ることはほとんどございませんわ」
「左様ですか、では5号でお作りいたします」
ようやく打ち合わせが終わり、彫金師とジュエリーデザイナーを見送ってガーネは既に疲れた顔で息をついた。
「特務総監様、お疲れになっている場合ではございませんわ。ご昼食のあとは結婚式の御衣装の打ち合わせがございます」
「え、俺も出るのそれ。てっきりコイツのことだから『当日のお楽しみ』とか言うのかと思ってた」
「お楽しみじゃ!でも、全部自分で決めるのではなくガーネにも選んで欲しいのじゃ!」
「フーン」
「あら、『なんでもいい』って仰るかと思いましたわ。…さ、ご昼食の用意が整ってございます」
「何度も言うがせっかくならコイツの花嫁姿は俺だって見たい、なんでもかんでも投げやりにはしねーよ。指輪はなんでも良かったけど」
ディアマントがにこりと嬉しそうに笑ってガーネの腕に抱きつき、連れ立って食堂へと向かっていった。
結婚に向けての準備が、いよいよ本格化し始める。




