553話「うるさ可愛い小娘と凶器」
「ガーネ」
「うるさい」
「ガーネ」
「やかましい」
「ガーネっ」
「なんだよ!!」
「灯りを点けよ、妾にお前の身体を隅々まで見せよ」
「……もう寝る…」
「なぜじゃ、まだ途中じゃ!」
「最中に萎えること言うからだろうが、もう寝ろ」
ディアマントの上から身体を退けて近くに置いてあったネグリジェを掴むと無理矢理頭から被せて着せ直し、自分もさっさと下着と寝巻きを直してベッドに転がった。
「ガーネ、妾さみしい」
「寂しくねーよ隣にいんだろ、寝ろ」
「なぜお前は妾に身体を見せぬ」
「見せてんだろ。脱いでただろ数分前まで、寝ろ」
ムッとしたディアマントがガーネの下肢に跨り無理矢理着ているTシャツを捲り上げた。
「…なにしてんの、寝ろ」
「妾は女王じゃ、命令じゃ大人しくせよ」
「俺、女に跨られるの嫌いって言わんかったっけ」
「やかましい小僧じゃ。…ふむ、改めて見るとよく鍛えられた均整の取れた身体じゃ」
「寝ろよ……」
ディアマントの指先がなぞるようにガーネの筋肉の筋を撫でて興味深そうに呟く姿を見上げ、無視して寝てやろうかと思いつつも寝ている間に好き勝手されかねないと小さく息を漏らしながらディアマントのすらりとした足を撫でた。
「肩幅のわりに腰が細いなお前は。腰を締めるトレーニングでもしておるのか」
「別にしてねーよ寝ろよ」
「ガーネ」
「なんだよ」
「……ここ、痛い?」
以前自分の言葉のあやで更迭騒動になったきっかけの右脇腹の傷跡を指でなぞり、どこかしゅんとした顔をしたディアマントを見つめながらガーネは僅かに自分の中の嗜虐心が湧き上った。
「…痛かったな、どっかの誰かさんに謂れのない説教されて。挙句権限も全部剥奪されて『顔も見たくない』だったっけ?」
「………ごめんなさい……」
余程自分の『説教』が効いているのか、素直に『ごめんなさい』を言うようになったディアマントが泣きそうな顔をしているのを見て思わず欲情してしまうのを感じた。
ディアマントがふと何かに気付いたように視線を下に落としてから困惑した顔でガーネを見つめた。
「どうした」
わざとらしくガーネが問いかけると、ディアマントは戸惑いを滲ませた眼差しでもじもじと身を捩り、ガーネは逃がすまいとしてディアマントの細い腰を掴んだ。
「な、……なにか当たっておる」
「お前がそんなとこ座ってるからだろ」
「なんでこんなふうになったのじゃ」
「なんでだと?……これも俺、何回も言ってるけどな。『年上の生意気そうな可愛い女を屈服させてごめんなさいと言わせて泣かせると性的に興奮する』と。正しく今その状態だ」
上体を起こしてディアマントの華奢な身体を簡単にベッドに転がすと、枕元に置いてあるオエィセ外遊でディアマントが気に入って買い求めた硝子ランプの魔法石を軽く叩いて灯りを灯した。
ステンドグラスの繊細な光が天井や壁に映り寝台周りが明るくなると、ガーネは見せつけるように先程着直したばかりのTシャツを脱ぎ捨てて床に雑に放り投げた。
「俺の身体見たいんだっけ?こっちはお前がちょっと前まで『ハジメテ』だったから気ィ使って『そういうの』見せないようにしてたんだけどなぁ。……怖くなっても知らねーぞ」
「わ、妾、こわくないもん、…………、……ひぇ、なにそれっ、きょ、凶器じゃ…お前は股間に凶器を下げておるのか!」
「だーから言ってんだろ、人の気遣い無碍にしやがって。ついでにそういう情緒無いこと吐かすなまた萎え……いや、大丈夫か。…なぁ、お姉さん。責任取ってくれるんだろ。お姉さんのせいでこんなんなったんだから」
「せきにん、ッま、待っ、あっ…あうっ」
「……やっぱりお前は可愛いなぁ。最高。……可愛い、愛してる」
「待つのじゃ、そんなの無理じゃ!こわい!こわれる!」
「無理じゃねーよ、なんのために俺が侍女長や女官長共に『不能』のレッテルを貼られながらもお前のこといい具合に慣らしてやったと思ってんだ、いつもコレで気持ち良くなってんだぞ。あー、可愛いなぁ。ほんとにお前は可愛い『お姉さん』だな。半年ちょっとでこの可愛いお姉さんが俺の嫁さんになるのかぁ」
「ガーネ…!ぎゅって、ぎゅってして…!」
「仰せのままに、俺の可愛いお姫様」
*****
王国東側領土・ジェニウス区への外遊は、前回のオエィセ区外遊でのサインドブリューグ神殿での出来事を踏まえ、ガーネの『王配』としての警備の確認も兼ねて『魔女同伴』と定めることに決定し、リエーブの王城逗留が長引き南から終焉の魔女・アミュが呼び出された。
「えぇー、やだ。アミュいきたくない。ここにくるのもめんどくさい。アミュはおるすばんがいい」
「そういう話ではない。妾の命令じゃ」
「……ガーネ、とおい?」
「遠い」
「ごはんおいし?」
「まずい」
「アミュ、いきたくない」
「…ガーネ、余計なことを言うな。そも、食事の好みをお前に尋ねたら基本全て不味いと吐かすであろう」
ディアマントが呆れたような顔でガーネに視線を向けると、ガーネはわざとらしく肩を竦めて悪びれもなく口を開いた。
「あの野郎はわざと俺の嫌いなメシばっかり出しやがったんだ。アイツ性格悪そうだし」
「トーパスのことを言っているのか其方。トーパスと会ったのはあの時2回目だろう、おそらく其方の食の好みは把握していないと思うが……外面が随分と良かったからな其方も」
ヘルソニアまでもやや呆れたような顔をしてガーネを見遣ると、ディアマントは揶揄うように笑いながら以前の外遊を思い返した。
「『外面統裁官』じゃ。妾、東ではクレープが一番美味しかった」
「クレープって、突然街ブラしたいってわがまま吐かした時のやつだろ。あんなんどこでも食えるだろ。東は…………あー、あれだ。アミュの好みで言うなら牛肉か、あと豚肉。畜産は結構産業として潤ってるからな」
「おにく!アミュ、いく!」
「……あっそ…」




