549話「リエーブ節」
「さて、ガーネ。結婚おめでとう」
「まだしてねーよ」
夜、王都内のレストランでガーネとジュン、エーリック、リエーブがテーブルを囲んでグラスを合わせた。
別室では建前でガーネの警備として同伴した特務が控えており、ガーネが「適当に食え」と告げて部屋の仕切りを閉じた。
「それにしてもなぁ、あのちんちくりんクソガキ小僧のガーネが結婚かぁ。しかも相手は女王陛下。……ていうか女王初めて見たけどえらい別嬪だな!すげーなさすが色男、『夜は組み敷いてる』だけあるな!ハハハハ!」
「それ例のゴシップ雑誌だろ。ところで伯父さん、カノジョどうしたの」
「まぁ、ジュン兄さん彼女がいるの?わたしのことあんなにいかがわしい目で見ていたくせに」
「えっ」
「なんだ、母上知ってたのか。伯父さん隠してたみたいだけど」
「え、先輩、ガーネのお母上のこと……」
「うるせーな!昔だ昔!だってめちゃくちゃ美人じゃん!」
「まだ母様がルイと結婚する前に、すごくいやらしい目で見られていたの。……あらまぁ、このお酒美味しいわ」
「見てねーから!誤解招くからリエーブちゃん!」
相変わらずのリエーブ節が炸裂し、珍しくガーネではなくジュンが振り回されていた。
「まぁ、ともかくとして……ガーネの女の趣味は『変わらず』だな。ただ今回は可愛い系じゃなくてえらい美人だけど。けど相変わらず、ああいう線のほっそい女好きだよなぁ。年上の美人の『ちょっと生意気そうな』華奢な女」
「アレは美人だけど可愛いんだよ。いいから早く食えば、冷めるだろ飯が」
「それにしても、陛下もよく『一緒に行く』って言わなかったな。お前が外食すんなら絶対着いていきたがると思ってたけど」
エーリックが前菜を摘みながら肩を竦めてガーネを見ると、ガーネも前菜に盛り付けられているサラダ菜を正面のジュンの皿に移動させてからフォークでカルパッチョを口に運んだ。
「……言ってたよ、『妾も行きたい!妾も行く!』って。けど午前中の乗馬が効いたな。ババァのクセに身体だけなまじ若いもんだから、筋肉痛で動けないでやんの」
「乗馬?」
「そ、記者会見で『休日は何をしていますか』って聞かれて『読書と乗馬』って見栄張って答えたもんだから、今日付き合ってやったら馬乗るの初めてだと。俺が簡単に乗ってるから自分も乗れると思ったらしいわ、可愛いよな」
隣の席のリエーブがパンをちぎって一口頬張り、意外そうな顔でガーネを見つめた。
「なに」
「いえ、貴方意外と恥ずかしげもなく可愛いとか言うのねと思って」
「はぁ?言うでしょ。だって可愛いし」
「だってみんなの前で抱き締めてキスして『愛してる』って言っちゃうもんなぁ、ガーネ?」
エーリックのからかいにリエーブの封印を解いてノルデンから戻った後に倒れて瀕死になった後の目覚めの直後のことを言っているのかとガーネも理解するも、先日の妊娠騒動にしても大体擦られるなと苦笑いをしながらステーキをナイフで切り分けた。
「『愛してる』は、言わずに死にそうになって酷く後悔したからな。ちゃんと言うことにした」
「やだガーネ。貴方どうして死にそうになったの」
「アンタの封印解いた時だよ!」
「あらそう。……まぁ、このお肉柔らかくて美味しいわ。ところで、ガーネの歴代の彼女ってどんな子なのかしらジュン兄さん」
「え、その話題掘り返す?伯父さんまじでコイツには言わないでくれ、恥ずかしいとかそういうのじゃなくてまじでディアマントの前で余計なこと言いかねない」
「……だ、そうだリエーブちゃん。ところで、リエーブちゃんも王城住まいになったの?」
ジュンがガーネの意向を汲んで話題を変え、料理を口にしながらリエーブに視線を向けると、リエーブはワインを飲んでからガーネに視線を向けた。
「母様、今日はガーネのところに泊まろうかしら」
「伯父さんの話聞いてた?泊まるのは別に構わねぇけど」
「ジュン兄さん、わたしになにか言った?」
「え、リエーブちゃん相変わらずだな…?」
「……母上は伯父さんに会うのに合わせて王都来ただけだよ」
「え?俺?」
「わたし、さっきからそう言っていなかったかしら」
「………」
「………」
「………」
「あら、どうして黙るの?ジュン兄さん、ガーネのこと育ててくれてありがとう。お陰でこんなに大きくなったわ」
「え、あ、うん。どういたしまして……」
15年以上振りに対峙した『リエーブ節』にジュンは苦笑いを漏らしながら、隣の席のエーリックへと視線を逸らした。
「……あー、あれだ。エーリック、お前もヴィオリー連れて来れば良かったじゃねぇか。久しぶりだし」
「いや、ウチのはあのー…これでして」
エーリックが得意気な顔で自分の腹部で丸いものを包むような動作を見せると、ジュンは驚いた顔で目を見開いた。
「え?まじ?2人目か」
「はい、あとは娘もまだ小さいし『こういう店』はまだちょっと早いかなと」
「そんなん気にしないで連れて来ればいいのに、わざわざ貸切にしてんだから」
「えっ、ガーネお前貸切にしたのか」
「報道出た直後だから、一般人いると色々ややこしいだろ。心配しなくても俺の私費だよ、こんなことで税金使うわけないだろ」
「そんな心配してねーよ!」
そこからしばらく、ジュンの栄転祝い・ガーネの婚約祝い・エーリックの嫁懐妊祝いとついでにリエーブ復活祝いと称しガーネ以外は酒が進み、ガーネは相変わらずジュースを飲みながら談笑を続けていた。
そろそろ締めかというタイミングで、リエーブがガーネに声をかけた。
「さてガーネ、ところでだけど母様が出した宿題はどうかしら」
「おー、後でな。……そっちこそ、俺が頼んだ方はどうなったんだ」
「ならそれも後で、ね。ディアマントやヘルソニアにも聞かせなきゃいけないわ」
「そ。なら、城に戻ってからだな。……すみません、チェックで。向こうの席のも全部持ってきてください」
「かしこまりました、お待ちください」
ガーネが給仕に声を掛け、エーリックが仕切っていた扉を開いた。
「そういや、護衛にしちゃなんか随分個性的だな」
ジュンがグラスに残ったワインを飲み干してから、建前とはいえ護衛でついてきた特務の面々を見て不思議そうな顔をした。
「あー、一応建前で俺の護衛って扱いにしてるけど、俺の部下。野郎2人は俺の下僕」
「ほー。初めまして、ガーネの育てのお父さんです」
「は、初めまして。ご挨拶が遅れました」
スメイラが代表してジュンと挨拶を交わしている中で、給仕がガーネの元に伝票を持って来た。革張りの伝票ケースを開いたガーネは驚愕した顔をして特務の席と伝票を交互に見た。
「に、273万ヴェルだと…!?貸切料金で100ついてるのはいいとして、テメェら人の金だと思ってどんだけ飲み食いしたんだ!」
「だってガーネが適当に食えって!だから適当に食べたよ!ご馳走様!」
「……はぁ、まぁいいけど……すみません、小切手でいいですか」
「もちろんでございます」
懐から小切手を取り出し金額を書き込みサインをし、給仕に手渡した。
「300丁度で。釣りは取っといて」
「ありがとうございます、頂戴いたします」
「はぁー、コイツら連れて来るととんでもねぇな。まじで遠慮もクソもねぇ」
レストランを出てジュンを見送ったあと、王城に戻りながらガーネは小さく息を漏らした。
「母上、誰集めますか」
「そうね、主要な人間は集めた方がいいと思うわ」
「……カルセ、ひとっ走り先に城戻って、ヘルソニア様と陛下に報告。それと、ジェレイドと魔導師長と巫術官長も集めろ」
「かしこまりました、お先に戻ります」




