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断罪ディストーション  作者: 梦月みい
第四十二章『契約』

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546話「チーズバーガー」

「あー、疲れた。顔引き攣りそう」

「相変わらず、お前の『外面』は目を見張るものがある。妾は隣で喋っている男が誰なのか時折迷子になった」

ディアマントの執務室で隣合わせでソファに腰を下ろしたガーネとディアマントに、ミモゼがにこにこしながら冷たい茶を差し出した。

「陛下、特務総監様、お疲れ様でございました」

「つーかお前、あのゴシップ記者に聞かれた質問の意味わかってなかっただろ」

「どれのことじゃ」

「夜何してますかーって。お前、チェスって答えたろ」

「え?ああ、……だって、昨日の夜はいっぱいチェスしたのじゃ」

露骨に性生活について聞かれた自覚がまるでなかった様子できょとんと首を傾げたディアマントに、同席していたエーリックは思わず肩を竦めた。

「ウチのカミさんだったら、記者の胸ぐら掴んで『そんなに聞きたいなら教えてやろうか、どこから聞きたい?』って据わった目つきで迫りそう」

「確かに、ヴィオリーさんならやりそう」

「???…チェスのルールを教えた方が良かったのか」

他同席しているジェレイドや特務の面々も、ガーネがよく言う『小娘可愛い』はこういうところかと納得した顔で見守る中、ガーネは背もたれに寄りかかって溜息を漏らした。

「いや、お前はそのまま小娘のままいてくれ。……で、明日の朝刊解禁か。あー、仕方ねぇ食い納めだ。特務、俺にチーズバーガー買ってきて。お前たちのも買っていいから」

ガーネはスメイラに自分の財布を投げ渡し、スメイラもそれを受けて問いかけた。

「チーズバーガーだけ?」

「レタス抜き、ピクルス抜き、マスタード抜き、オニオン抜き、ケチャップ多め。ポテトは塩強めで飲み物はオレンジジュース。あ、あとナゲット食いたい」

「子供の注文じゃない。ま、いいわ」

「待つのじゃスメイラ!」

ディアマントが立ち上がってスメイラへ声を掛けると、少しだけ驚いた顔でスメイラが振り返った。

「は、はい陛下。いかがなさいましたか」

「妾もちーずばーがー!食べてみたい!どんなものじゃ!美味しいのか!」

「え?ええと……」

スメイラが困った顔でガーネやミモゼ、ヘルソニアへと視線を向けると、ガーネは腕を組んで少し考えた。

「『女王陛下』の食うようなモンじゃねーけど……ヘルソニア様、『与えて』いいんですか」

「まぁ、別に構わないが。小娘食べられるのか」

「食い残したら俺が夜食にでも食います。ディア、チーズバーガーでいいのか?」

「ほかどんなものがあるのか知らぬ、ガーネと同じものがよい」

「晩飯食えなくなるからそれだけにしとけ。スメイラ、コイツのも買って来て」

「あっ、スメイラちゃん俺も食いたい。俺はハンバーガー2個とあとガーネと同じセット、飲み物はアイスコーヒーで。ジェレイドは?」

「コイツ坊ちゃんなのにハンバーガーとか食ったことあんのか」

「あまり無いが、そうだな……なにか、適当に」

「あとなんか、適当に買って来い。余ったらどうせサイフィルが食うだろ」

「わ、……わかった。……え、ほんとに?」


戸惑いながら買い出しに出かけた特務を見送り、残ったエーリックとジェレイド、侍従長、女官長、侍女長、ヘルソニアとともに今後の予定について確認をした。

主には謁見の取次や予定している外遊の扱いについてを話し、そこから数十分して安いチェーン店のハンバーガーショップの袋を両手に抱えた特務の面々が戸惑った顔で戻って来ると、ガーネはさっさと立ち上がった。

「じゃ、俺戻りますんで」

「待つのじゃ!妾も一緒に食べたい!みんなで食べるのじゃ!」

「え」


そうして、ディアマント初めてのチーズバーガーを執務室近くの小評定室で食べることになり、ガーネとヘルソニア以外の面々は酷く困惑した顔で相伴する運びとなったのであった。

「いい匂い!これはどうやって食べるのじゃ!」

「紙捲って齧ればいいでしょ」

「かじる!はしたないと叱られないか!」

「はしたないって言われようが、そういう食いもんだからな。気になるならナイフとフォーク持ってきてもらえば」

特にディアマントを構うことなく、包み紙を捲って齧り付くガーネの様子を見て物珍しさに目を輝かせたディアマントは、早速ガーネの真似をして小さな口でバンズに食らいついた。

「……食べたことない味じゃ、美味しい!パンに薄いハンバーグと、チーズとレタスが挟まっておる!ピクルスもある!」

「チーズバーガーだからな」

「不思議な味じゃ!」

「そりゃ、やっすい肉使った庶民メシだからな」

「庶民は不思議なものを食べておる。近衛総監の食べているのはなんじゃ!」

「フィッシュフライバーガーです…」

「さかな!妾、今度あれも食べてみたい!」

「……楽しい?」

「楽しい!美味しい!またみんなで食べるのじゃ!」

食べ慣れないせいで口元にソースを付けたディアマントが楽しそうに笑顔で頷くのを見て、ガーネは親指で口元のソースを拭っていつものようにぺろりと舐め取った。


報道向けの公的な会見を終えた夕方、初めてのチーズバーガーを堪能したディアマントの『婚約』の見出しの新聞や雑誌、号外が出たのは、この翌朝のことであった。


──── 『女王陛下ご婚約、お相手は噂の『特務総監』』

『プロポーズは特務総監から、「結婚してください」』

『左手薬指に輝く希少魔晶石の婚約指輪』

『特務総監、家柄は公爵相当家格『グリーチェウト家』。滅んだ律衡家については言及せず』

『夜は仲良くチェス』

『以前から交際の噂『本当』だった──── ついにご婚約』

『世紀の美男美女カップル!ご婚約発表』

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