545話「婚約内定記者会見」
前日と同じように、王城の大広間は多くの人間でごった返していた。門衛にてまず衛兵と魔導師・巫術官で手荷物検査と身体検査を行い、ラズリとアメジ筆頭に魔導師と巫術官で敷いた結界の上を通過。前室にて、サイフィルが最終目視確認をしてから順に大広間へと案内される徹底ぶりであった。
情報統制が比較的厳重に敷かれていたお陰か、『女王の婚約か』も含めて先の外交に関してのものなのか王城人事に関してのものなのかと様々な憶測が飛び交っていた。
衛兵や近衛、特務を中心に警備をする中、侍従長とヘルソニアが会場内に現れ、侍従長が前日と同じように拡声用の魔道具を手に口を開いた。
「皆様、本日はお忙しい中お集まりいただき、誠にありがとうございます。ただいまより、ヴェルーティン王国女王陛下ディアマント・クレイス・ウェルト陛下並びに、王室近衛騎士兼王命執行最高責任者兼異界対策統裁官兼特務総監ガーネ・ディーム・グリーチェウト殿の『婚約』に関する記者会見を執り行います」
女王陛下と、何かと噂の多い特務総監の『婚約』に関する会見と口上がかかり、会場内は騒然とした。
「はじめに、私より本件の概要をご説明申し上げ、その後、陛下及び特務総監よりご挨拶をいただきます。続きまして、報道各社の皆様からのご質問をお受けいたします。ご質問は挙手のうえ、所属とお名前をお申し出ください。一社一問とし、追加質問はご遠慮願います。また、本件と直接関係のない事項、警備上又は国家機密に関わる事項につきましては、お答えを差し控える場合がございますので、あらかじめご了承ください。……それでは、女王陛下並びに特務総監、ご入場です」
前日のリハーサルを兼ねた披露会で確認した通り、入口が開いてガーネにエスコートされながらディアマントが悠然といつもの『女王の顔』で歩いた。
深緑のストレートラインのシンプルなドレスに、ガーネに贈られたばかりのカナリートルマリンのネックレスとピアスを合わせ、腕を組む訳ではないもののガーネの左肘に右手を添え指輪を見せるように左手もそっと添えて歩く姿に、魔導転写具の閃光が光った。
ヘルソニアと侍従長が両脇に立ち、中央にガーネとディアマントが立ち改めて報道記者の前で一礼してから着席した。
「まず、本件の概要をご説明いたします。女王陛下ディアマント・クレイス・ウェルト様と、王室近衛騎士兼王命執行最高責任者兼異界対策統裁官兼特務総監ガーネ・ディーム・グリーチェウト殿は、所定の婚姻手続を経て婚約いたしました。今後は婚礼に向けた諸準備を進めるとともに、婚礼日程は11月を予定しておりますが、その他の詳細につきましては決定次第、順次公表いたします。また、ガーネ・ディーム・グリーチェウト殿は、婚礼までの間はもとより、婚礼後につきましても、当面の間は現在の役職及び職務を継続する予定です。……それでは、女王陛下よりご挨拶申し上げます」
侍従長が報道向けに概要の説明をし、ディアマントは机の上のマイクを手にした。
「本日、妾は正式に婚約したことを国民に公表する。多くの祝辞を賜り、心より感謝する。婚礼の準備は進めるが、妾はこれまでと変わらず女王として務めを果たす。臣下並びに国民には苦労を掛けることもあると思うが、引き続き力を貸してほしい」
「続きまして、特務総監よりご挨拶申し上げます」
ディアマントの挨拶に続いて侍従長に促され、ガーネもマイクに手を伸ばした。
視線の先には想定以上の報道陣、両サイドと奥には自分たちを見守るように警備の衛兵や近衛、特務が配備されており、昨日とは全く異なる雰囲気の中でガーネは口を開いた。
「この度、陛下との婚約を公表する運びとなりました。私は婚約・婚礼を理由に職務を疎かにするつもりはありません。これまでと変わらず王国のため、国民のために務めを果たします。よろしくお願い申し上げます」
それから一呼吸置いてから、決意表明のように静かな声音で言葉を紡いだ。
「……そして一人の男として、陛下を生涯大切にし、必ず幸せにします」
「それでは、質疑応答に移ります。ご質問のある方は挙手をお願いいたします。司会より指名いたしますので、所属とお名前をお申し出の上、ご質問ください。時間には限りがございますので、お一人様一問とさせていただきます。また、冒頭お伝えいたしました通り、警備及び王室運営その他公表を差し控える事項につきましてはご回答できない場合がございますので、ご了承願います。それでは、最初のご質問をどうぞ。」
侍従長が挙手のあった中から王都の主要な新聞社の記者を目に留めると補佐の侍従に合図をし、指名を受けた記者は立ち上がって一礼した。
「王都ゴテス新聞社のモーブと申します。女王陛下、特務総監様、この度はご婚約まことにおめでとうございます。早速ですが、ご婚約を決められた時期について教えてください」
「正式に婚約を決めたのは先日じゃ。ただ、互いの意思確認自体はそれより以前に済んでおった」
続けて他の記者も次々挙手をし、侍従長は順に指名しディアマントとガーネで回答をしていく流れとなった。
「具体的にはいつ頃でしょうか」
「先日ありましたオエィセの外遊前後です。正式な話を進めたのはその頃です」
「以前より交際関係が噂されていましたが、御二人は恋愛結婚ということでしょうか。交際関係は事実ですか?」
「事実じゃ」
「プロポーズはどちらから」
「私から陛下に申し込みをさせていただきました」
「特務総監殿はご結婚後は現在の職務は継続とのことですが、公私の区別はどのようにされる予定ですか」
「特段今と変わりございません。公の場ではあくまでも私は陛下の臣下の1人です。騎士として総監として前線に立ち陛下の盾となり剣となるのみです」
「お2人にお伺いします。お休みの日はなにをなさっていますか?」
「え、えぇと、読書と……あっ、乗馬じゃ!」
「……乗馬…?いつしました?」
「………」
「乗馬は今後の予定のようです」
ディアマントの見栄によってようやく場の空気が和やかになり、会場で微笑ましく小さな笑いが起きた。
「互いのことをなんと呼びあっているのでしょうか」
「妾は『ガーネ』と」
「私は公的な場では勿論『陛下』とお呼びしていますが、私的な場では僭越ながら名前で呼ばせていただいております」
「プロポーズの言葉を教えてください」
「結婚してください、ですかね。他は秘密です」
「秘密じゃ!」
「お子様のご予定は」
「授かりものですので、授かったらまたご報告を」
「夫婦生活ではどちらがリードしますか?」
「妾じゃ!」
「……尻に敷かれるように見えます?」
「特務総監様が?……いえ、見えないですね…」
「でしょ、そういうことです。あ、これ記事になるのか」
時折ガーネがわざと砕けた内容を挟みつつ会場内を多少笑わせ、少しずつ緊張感も薄れた様子で想定通り『婚姻にあたっての予算組み』や『結婚の決め手』などの質問が交わされた。
「陛下はどのようなご家庭を築きたいですか?」
「毎日一緒で幸せいっぱいな家庭じゃ!」
「特務総監殿は『グリーチェウト家』の本家の御嫡流とのことですが、歴史上滅んだとされる『律衡家』の運用に関してはどのようにしていく予定でしょうか」
「そちらに関しては本日の会見の趣旨と異なりますので回答は差し控えさせていただきます」
「律衡家は滅んでいないということでしょうか」
「先の回答と同じです。回答は遠慮させて下さい」
「否定はされないということですか?」
「否定も肯定もしません、悪しからず」
「邪教の教徒が特務総監様を狙っているとの噂もありますが」
「かの者たちが私を狙っているかどうかはわかりかねますが、その為の『異界対策特務統裁官』として勤務しております。これ以上は国家保安上回答は出来かねます。それと、そろそろ陛下も喋りたそうにしているので陛下にもなにか聞いてあげてくれますかね。拗ねちゃうので」
そろそろ割って入ろうかとヘルソニアと侍従長が拡声具に手を伸ばしたところで、ガーネが上手く話題を切り上げてディアマントに視線を向けた。
「では陛下に質問を。特務総監の好きなところはどこですか?」
「強くて聡いところじゃ!そしてたまに可愛いのじゃ!」
「正式にご婚約関係となられて、夜はどのようにお過ごしですか」
ゴシップ系の雑誌の記者がかなり突っ込んだことを聞いてきたため、ディアマントがなんと答えるのかと少しだけ不安になりガーネが目を向けると、ディアマントは「うーん」と考えてからマイクを手にした。
「チェスじゃ!昨日もいっぱい遊んだのじゃ!」
「チェ、チェスですか」
「ガーネはビリヤードもうまいのじゃ!馬も乗れるのじゃ!あと、本を読むのが速いのじゃ!たまに一緒に本を読むのに妾が1冊読む間に10冊くらい読んでしまうのじゃ!」
「急に我が家の犬自慢みたいなのやめてくださいって前も言いましたよね」
その後もいくつか質疑応答に応じ、指輪へと話題が移り、前日と同じように指輪を見せてから二人並んでの撮影をした。
最後に、情報の公開時期などに関しての注意事項を侍従長から案内され、無事に報道向けの会見を終えてガーネとディアマントは並んで退場をした。




