541話「王室婚姻準備評定」
王城内通達の発出された翌日、各部門長がいつものように評定の間に集められた。
今回の評定は『王室婚姻準備評定』と称され、普段は責任者のみの出席であるが、今回に関してはガーネの所属ということもあり特務も集められていた。
特務を連れ、普段とは異なり敢えて開始ギリギリの時間に後ろの扉から入り、末席を顎でしゃくって特務の一同を着席させた。
「いいか、いつも通り『余計なことは喋るな』。特にサイフィルクソバカ野郎、テメーのせいで昨日特務室大変だったらしいな。まじで貴様もう一回懲戒食らわせたろうかクソ野郎が、いらんこと喋るなスメイラの手を煩わせるな」
責任者ではないため末席の一区画にまとめられた特務の前で仁王立ちをして真顔で告げたガーネの圧に、サイフィルは縮こまって怯えた顔でこくこくと頷いた。
「スメイラ、ラズリ。まじでコイツがいらんことしたら引っ叩いていい。拳で」
「やだよ、そんなに手の力ないし叩いたら痛いじゃん、私が」
「アタシもわざわざこのバカ殴るために手使いたくない」
「なら合図しろ。俺が弾を撃ち込む」
「僕死んじゃうからーッ!!」
フンと鼻であしらったガーネは踵を返し、前方の普段着席する場所へと向かい、空いていたジェレイドとエーリックの間にどっかりと腰を下ろした。
「あれ、ガーネお前ここ?」
「は?ここじゃなかったらどこ座るんスか」
「妾の隣じゃ!」
満を持して相変わらずのタイミングで現れたディアマントがものすごく得意気な顔で宣言をし、ガーネは小さく「げ」と漏らしながら、一応は立ち上がって他の責任者一同と同じようにディアマントに向かって頭を下げた。
「早う妾の隣に来るのじゃ」
「やかまし可愛いのが来た。なんで俺がお前の隣なんだよ」
「ふふん、『王室婚姻準備評定』だからじゃ!」
「あのー陛下、一応俺『準備する側』の立場の責任者の一人なので。百億歩譲って隣座ったとてやることも喋ることもなにも変わらないでしょ、ややこしいこと吐かすな」
わかりやすくむくれた顔をしたディアマントを無視してヘルソニアが「座ってよい」と声を掛け、一同着席した。
「……さて、今回の評定は皆も把握しての通り。陛下と特務総監が正式に婚約の運びとなり、今後の業務や婚礼までの大まかな流れ等に関して共有したい。ではまず、それぞれから一言ずつ」
ヘルソニアの評定開始の音頭から、ディアマントが静かに立ち上がった。
女王が起立したとあって一同慌てて腰を浮かせるも、ディアマントは静かに「そのままでよい」と告げ話し始めた。
「ここにおる者はほぼ全員、妾とガーネの私的な交際関係に関しては把握しておったと思う。此度周知の通り、特務総監であるガーネと正式に婚姻関係を結ぶ運びとなった。改めてじゃが、妾はきょうだいもおらず先代である妾の父母の婚礼以来4000年以上振りの婚礼となるため、初めての者ばかりかと思う。みな手探りの中で苦労を掛けると思うが、協力を頼みたい。それと、お前たちも気にかけておると思うが妾はガーネを現役職から外し『王配殿下』として議場に下げるつもりは毛頭ない。この男は婚姻後も特務総監、近衛騎士として業務は継続させるつもり故、各々そのつもりで。……最後に、祝辞はしっかりと受け取っておる。気持ちは嬉しい。しかし、各々まずは職務を全うせよ」
評定含めた公務の際の『女王の顔』でもなく、「妾も妾もーっ」と年相応以下の振る舞いをする『小娘の顔』でもない、ふわりとした『ひとりの幸せな女の子』の顔で笑みを浮かべて臣下一同を見回したディアマントの姿に、侍女長ミモゼは早くも涙ぐんで鼻を啜っていた。
その様子にディアマントは思わず小さく笑いながら「ガーネ」と声を掛け、ガーネも静かに立ち上がり一応といった顔でディアマントの隣に並んで一礼した。
「お聞き及びの通り、この度陛下と正式に婚約関係となりました。先程陛下が仰った通り職務を離れるつもりも予定もございません、今まで通り職務を全ういたします。が、どうしても別公務で外す場面も出てくるかと思います。その際は本日同席させております特務の、補佐官スメイラ・フレイブ・グリウに現場を一任させます。スメイラの補佐としてラズリをつけますので、何かあればカルセ含め特務の女性陣に。間違っても32点のバカと自称魔法少女のゴリラには行かないようにお願いします」
そこで小さく笑いが起き、スメイラとラズリも名前を出されたために起立して軽く一礼した。
そこで改めてディアマントとガーネに対して祝福の意を込めて拍手を送られ、ディアマントは嬉しそうに笑みを浮かべ、ガーネと共に静かに一礼してから着席した。
「……まあ、私もようやく小娘の子守りからきちんと側近としての役割に推移できると思うと感慨深いな。とはいえガーネが近衛騎士になってから子守りはガーネが担ってくれていたから大分楽にはなっていたがな」
ははは、と再度笑いが起きる中でヘルソニアが書記官に合図をし、書記官は資料を全員に配布して回った。
「では、今後の流れを共有する」
数日中に貴族・地方領主への正式通知の発送。そのタイミングで王城内で他の臣下向けに簡単に顔見せと挨拶。
貴族たちへの通達が完了したタイミングで、報道を招いて先行公表会見。
報道が新聞や雑誌で記事を出すタイミングに合わせて、触書や行政放送で婚約を一般向けに公表。
諸々の準備を済ませ、11月に挙式と婚礼儀礼。
「挙式までに外遊の予定もある。場合によってはガーネは正式に『婚約者』として公務にあたる場面も出てくると思うが…通常業務においてもガーネの護衛について考えなければいけないな」
「え、護衛?誰に?」
「其方にと言っただろう。何を聞いていた」
「なんで?俺の護衛とかいらねぇでしょ」
ガーネの言葉にヘルソニアもエーリックもジェレイドもやや呆れたような顔をしてガーネへ視線を投げた。
「ガーネお前さぁ、そういう訳にもいかんだろ。自分の立場わかってんのか」
「わかってるからこそ言ってるんだけど。誰が俺の護衛につくんだ、俺は自分の力量は自分で一番わかってるし過信もしてない。その上で言うが、俺の護衛をしようと思ったら責任者クラスじゃなきゃ成立しないと思うんだけど。業務破綻すんだろ、イラネ」
「……其方の言わんとしていることもわかる。だがガーネ、将来の『王配殿下』に護衛もつけないとなると、王室の威信に関わる。わかるな」
「…へい」
「体裁が悪い。建前だ。いいなガーネ」
「へーい」
ものすごく不服そうに返事を返したガーネだったが、はっとした顔で小さく「しまった」と呟いた。
「……どうしたのじゃ」
「そうなって来るとめちゃくちゃラーメンとかハンバーガーとかジャンキーなモン食いてぇ。昨日のうちに食えば良かったか。いや、国内発表してないなら今のうちか?」
「………」
「………」
「あれ、なんでみんな黙ってんの」




