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断罪ディストーション  作者: 梦月みい
第九章『眷恋』

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53話「誘導」

数日前────

「占いー?あんまり興味無いよあたし」

「いいからいいから、結構有名らしいから行ってみようよ」


王都に旅行に来ていたリルたちは、ライラの誘いで最近王都で若い女性に人気の占い館に行こうと誘われる。学術課程の長期休みの滞在のため、特に王都内での過ごし方については決めていなかった。せっかくだし、ということでその店に三人で赴くことになる。


「────次の方、どうぞ」

噂通り、若い女性がそれなりに列を成している。ようやくリルたちの番になり薄暗く仕切られた中に入ると、フードを目深く被った女性が座っており、なかなか雰囲気があった。

「こ、こんにちは。お願いします」

緊張した様子で声をかけ、最初はライラが正面に座る。

「じゃあ、私は仕事運について。卒業後どんな感じなのかお願いします」

「あら、若くて素敵なお話しね。さてどんな進路でお悩みかしら」

占い師の女は、耳に残る優しい声でカードを混ぜて話しをし始めた。

「えっと、父の会社を継ぐために入職するか…それとも、今学術院で専攻している法務関係に進むかで悩んでいまして…」

「ふむふむ、そうね…、あなたの場合どちらに進んでも悪い未来は出ていないわ。これを見て、三枚のカードね。円・天秤・石造りの門が出てるでしょう?」

とんとんとランダムに引いたカードの中の一枚、円のカードを指で叩くと、ライラは釣られて占い師の指差すカードに目を向ける。

「このカード。『秩序の中でも力を得る者』が出ているわ。最初に規律の世界に入った方が、後でご家業に戻られても立場が揺るがないわ。お守りに、あなたにこのカードを差し上げる。頑張ってね」

「あ、ありがとうございます!」

「はいはい!次私!」

ぱぁっと顔の明るくなったライラの肩に手を置き、マリが興味深そうに挙手をして席を替わる。

「私はぁ、えっと…い、今付き合ってる人との将来…なんて」

「まぁ、あなたも可愛くて素敵な相談ね。じゃあ、手を見せて貰える?……ま、随分と素直な線ね」

「えっ、なにか悪い感じですか…?」

不安そうにするマリに、フードから覗く口元だけが優しく笑いかけた。

「望めば、今の方とは形にすることが出来るわ。ただ…ここ、二十代半ばなんだけどね?強い交差があるでしょ。新しく現れる縁の方が、引きが強いみたい。選ぶ、というよりは、『引き寄せられる』感じね。でも、あなた次第よ。大丈夫、ちゃんと幸せになれるわ、これはあなたのお守り。魔除けと────『邪気払い』よ。素敵なこ゚縁をね」

占い師は優しく両手でマリの手を包み、その手に小さなオニキスの欠片を握らせた。

「…わ…ありがとうございます…!」

「さ。最後はお嬢さんね」

占い師は、リルを促すように空席になった正面の席を指し示した。

緊張した顔で椅子に腰掛けたリルを、フード越しにじっと見つめる占い師。

「────あなた、随分と強い『未練』があるのね。ここに来たのも、その導きよ。忘れたつもりのものが、まだ心に残っているのかしら。手放した理由に納得できていないみたい」

「え…」

まだ何も話していないリルはまともに返答出来ず、不安そうに唇を震わせた。

「ちょっと待ってね」

占い師はそう言って、卓に置いてあったアンティーク調の小さな鏡を手に取り、その鏡面をじっと見つめた。

「……会いに行くのは構わないわ、でも過度な期待と過信は、『また』あなたを壊しかねない」

「き、…期待…」

「…そんなに悲壮な顔をしなくても大丈夫。可愛いお顔が台無しよ。あなたは『引っ張る力』と『導く力』が強そうね。まだ若かったから、その力が上手く噛み合わなかっただけよ。…そうだ、商売道具なんだけど…この鏡はあなたに差し上げるわ。不安になったら、鏡を見つめなさい。『人は自分の顔を見ると、落ち着く』のよ」

占い師はリルの手に小さな鏡を乗せた。リルは掌に収まる鏡をじっと見つめ、鏡面越しの自分と目を合わせた。

「…未練…」



*****




「じゃ、リル!私たち今日は美術館に行って、その後は大図書館に見学に行くから。しっかり『落として』来いよ!」

「そうよ、ほんとはあたしだってガーネ君見て目の保養にしたかったんだからね。頑張んな」

「もう、だからそんなんじゃないってば」


半ば一方的ではあるが、ガーネと約束を取り付けた15分前。

マリとライラは待ち合わせ場所に指定した喫茶店の前でリルを激励すると、邪魔者は退散とばかりに手を振って立ち去った。

リルは急に緊張して手が震え、ポシェットから鏡を取り出してじっと鏡面を見つめる。

「…大丈夫、ちょっとだけ、話しするだけ。未練なんかじゃない」

自分に言い聞かせるように小さく呟くと、鏡の中の自分が幸せそうに笑った気がした。この顔は、基礎学習院時代に彼に想いを告げて、了承してもらった時の顔のように思えた。


────だから、大丈夫。

そう心に留めて、リルはうっすらと瞳を揺らしながら鏡を大切そうに鞄にしまい直す。


近くの時計に目を向ける。約束の時間から、十分程過ぎていた。

やはり来てくれないだろうか。あと五分だけ待って、来なかったらマリとライラに合流しよう。


「……リル、悪い。遅れた」

「…もう、遅いよばか」

遅れてきておいて、「悪い」と口にはしても全く悪びれた顔をしていないのは、昔のままだった。

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