536話「受理」
「……まだ見てんの?」
天井に左手を翳して嬉しそうに指輪を眺める全裸のディアマントに上掛けを掛け直してやりながら抱き締めて脚を撫で回したガーネは微笑まし気に至近距離の横顔を見つめて問い掛けた。
「少しすると、ピンクになるのじゃ」
「俺の魔力量無駄に多くて良かったな。3度美味しいじゃん。無色とピンクと赤」
「妾、ピンクも好きじゃ!」
「赤の次は何色が好きなんだ」
ガーネに腕枕をされて好きに脚を触らせていたディアマントは、好きな色と言われ悩んだように寝返りを打ってガーネと向き合った。
「緑も好きだし、紫も好きだし、オレンジも、黄色も、全部好きじゃ。でも強いて言うなら青じゃ」
「フーン。なら、結婚指輪は青い石入れてやろうか。いいんじゃねぇの、『サムシングブルー』だっけ」
「けっこんゆびわ!さむしんぐぶるー!なんじゃそれは!」
「サムシングフォーってこの世界無いのか」
「わからぬ、妾結婚とは無縁じゃ。そも、妾はこの世界が長い。向こうの世界の記憶など、余程のこと以外はほぼ薄れておる」
「オールド、ニュー、ボロード、ブルーの4つを結婚式当日に花嫁が身に付けてると幸せになれるってやつ」
「……!」
女の子らしく『結婚式』のワードを聞いた瞬間に目を輝かせてガーネを見つめた。
「お前は結婚式なんてしてくれないと思っておった!」
「どんだけ冷酷無情だよ俺は。結婚式なんて女の一大イベントじゃん、ぶっちゃけ結婚式自体に興味は俺も無いけど、お前のウェディングドレス姿は見たいし。そも、女王娶るのに結婚式しませんは通用しないんじゃねぇの」
「結婚指輪はお揃い!?」
「俺はいらねぇや、仕事で邪魔になりそうだし」
「いるのじゃ!!夫婦じゃ!!お揃いなのじゃ!!」
「…してもいいけど、俺はシンプルなのでいい。仕事中邪魔になる、引っ掛かって石飛んでいきそう」
「それは追々考えるのじゃ」
左手を眺めながら改めてガーネの胸元に擦り寄り幸せそうに表情を緩めたディアマントを抱き締め素肌を撫で回した。
「……明日、書類出す。準備してあるから」
「うむ。なら、正式発表するまで妾、この指輪大事にしまっておく。だから今日は朝まで付けておきたい」
「確認だけど、結婚しても『今まで通り』でいいんだよな?まじで政治家になんかなりたくねぇんだけど。俺はお前の旦那にはなるつもりではあるけど、『王配殿下』なんて枠におさまってお前みたいに机に向かって日がな一日過ごして終わるのは御免だぞ」
ガーネがディアマントを組み敷き直すようにして顔を見下ろし、片手で頬を撫でながら真っ直ぐに見つめた。
ディアマントもガーネの顔を見上げて思わず小さく笑うと、首元に腕を回して肩を竦めた。
「お前は本当、その心配ばかりじゃ。……妾はお前を現場から外すことなど考えておらぬ。お前を外すと回らなくなるし、お前より『使える犬』も『強い牙』もおらぬ。『今まで通り』、別に政治参加などせずともよい」
ディアマントの妙に含みのある『今まで通り』という言葉に違和感は感じつつも、言質は取ったとばかりにガーネは安心したような顔でディアマントに口付けて身体を密着させ、耳元に唇を寄せてリップ音を立てて口付けて甘えた声で囁いた。
「……じゃあお姉さん、もっかいシていい?なんかだめだわ、疲れてるし寝ようと思ったけど久しぶりにお前見たら色々と我慢利かねぇ」
「…パパ」
「お前のパパじゃねぇよ黙って鳴いてろ小娘」
「フフ、ガーネ。だいすき」
翌朝早朝、改めて正装官服に袖を通したガーネの正面に、ディアマントがにこにこと笑みを浮かべて回り込んで腰に腕を回して抱きついた。
「なんだお前はほんと、可愛い女だな」
抱き返してぽんぽんと背中を撫でてやり、思わず小さく笑みを零した。
「妾、まだこの指輪していたい」
「ならさっさと決裁最終承認してくれ」
「外す前に、赤くして」
ガーネがディアマントの左手を取ると、ほっそりとした薬指に鎮座する婚約指輪にそっと口付けた。ガーネの魔力に反応した緋晶魔石が深紅にじわりと染まり、ディアマントはそれを見て満足そうに笑った。
「ガーネ」
「ん?」
「妾も、ガーネのこと愛してる」
ディアマントがガーネのネクタイに指をかけ結び目をキュッと整え、そのまま名残惜しそうに左手の薬指から指輪を外して大切そうにケースに戻した。
「……妾の指のサイズにぴったりじゃ」
「そりゃ、プロポーズすんのに指のサイズ測るだろ。お前の寝てる間に糸巻いて計測したんだよ。…煌金使う予定だったから、サイズ直すのめちゃくちゃ大変だし。でも5号なんて細さだと思わなかったからめちゃくちゃ余ったわ、結婚指輪にそれ使う?傷も付かねぇ素材だし、王室予算使わなくて済むしいいんじゃねーの」
「うむ!お揃い!」
「はいはい。……じゃ、行ってくる」
「行ってらっしゃい」
背伸びをしてディアマントから『行ってらっしゃいのキス』をして仕事に向かうガーネの背中を見送った。
改めて、ディアマントは大切そうに執務机の引き出しに指輪のケースをしまい、ミモゼが朝支度に来る前に私室に戻りシロクマのゆきちゃんを抱き締めてころりとベッドに転がって、再度目を瞑った。
*****
数時間後、いつも通り女王の執務室で近侍朝伺を終えたガーネは、そのままヘルソニアの執務室へと赴いた。
部屋の扉をノックし、中から応答する声を確認して声を掛けた。
「ガーネです」
「……入れ」
「失礼いたします」
昨夜ディアマントにプロポーズした時同様、正装姿で部屋を訪れたガーネは扉を開いて一礼し、机に向かうヘルソニアの前に歩み寄って封筒から書類を取り出した。
「書類の提出に参りました」
「書類?」
「……本件、私事ではありますが、手続としては『公務』に当たります。『王室婚姻申請書』です。受理をお願いいたします」
「…近侍子守りから正式な子守りになるのか」
「はは、そんな感じで」
「一応、知ってはいるだろうが手続き上は決裁を上げて陛下の『最終承認』をもらわねばならん。まぁ、前に其方に話した通り反対する者はいないと思うが…通達を含め細々したことはこちらで勝手にやっていいのか」
「はい」
書類を両手で手渡し、ヘルソニアもそれを受け取り一応不備が無いかを確認するように目を通した。
「……受理する」
「よろしくお願いいたします」




