535話「深紅に染まる」
ディアマントが注がれた酒を飲むためにグラスを傾け、唇をつけ喉をこくりと鳴らした。
唇をグラスから離して小さく息を漏らし、舌先でぺろりと濡れた唇を舐めた。
妙に艶めかしいその仕草をぼんやりと眺めながら、ガーネはなんとなく欲情しそうになる衝動と普段の「妾も!」「できる!」「しってる!」と小娘のような立ち居振る舞いのディアマントを思い浮かべた愛おしさに勝手に1人で小さく笑いながら、手元のジュースを飲んだ。
「そういや、土産持って来たんだけど。ほんとは昨日の夜持ってくる予定だったんだけど、……お前が妊娠したって騒ぐからすっ飛んでたわ」
「妾が妊娠したと勘違いして勝手に騒動にしていたのはお前だけじゃ…」
ガーネはテーブルの上に小ぶりな箱を一つ置いてディアマントの前に差し出した。
ディアマントはそれを受け取り、箱の蓋を開くとぱっと顔を明るくした。
「……!ひまわりじゃ!可愛い!」
「ブラウンダイヤと、メレにイエローダイヤとペリドット配置してご所望のひまわりっぽくデザインさせた。ブローチだけど、髪飾りにも出来るしペンダントトップにも出来るようにしてある。……けど、『ひまわり』意識すると思ったよりブラウンダイヤがメインっぽくなっちまったから、お前は『黄色い宝石が欲しい』って言ってたからこっちも土産」
別の箱もディアマントの前に差し出して、ディアマントはわくわくした顔で箱を開くと、黄色い小粒の宝石がきらきらとゴールドのチェーンにあしらわれた繊細なデザインのネックレスとピアスがおさまっていた。
「きいろ!しゃらしゃらのネックレスとお揃いのピアス!」
「カナリートルマリンが手に入ったから、敢えて小粒のやつにしてクラスターデザインにした。お前に似合うかなと」
「きらきらじゃ!かわいい!似合うか!」
「似合うよ。そう思って選んでるし。…つける?」
「つけたい!」
ガーネが立ち上がってディアマントの背後に移動すると、手元からネックレスを取って首の後ろで留め具を引っ掛けてやった。ポケットから小さく飾り気の無い、死角確認用に携行している何の変哲もない鏡を取り出してディアマントに差し出すと、鏡を覗き込んだディアマントはぱあっと花が咲いたような笑顔で正面に移動して来たガーネの顔を見上げた。
「かわいい!かわいい!!」
「お気に召しましたか、お姫様」
「うむ!」
その笑顔の可愛らしさに、ガーネは堪らず頬に手を添えて唇を重ねた。
寝支度を済ませた状態であるため、化粧はしておらず紅が移ることもなく、何度か啄むように柔らかくふわふわとした唇や頬を堪能してからようやく顔を離した。
「……ガーネ」
「ん?」
「今夜は、妾とずっと一緒?」
「そのつもりだったけど。……なぁ、ディア」
「なんじゃ」
ガーネはそのままディアマントの正面で膝をついて顔を見上げた。
「今夜だけじゃなくて、ずっと俺と一緒にいて欲しい」
ポケットから丁寧にリボンの結ばれた小箱を取り出してディアマントの前に差し出し、リボンを解いて箱の蓋を開けた。
「お前を、一生涯掛けて守るのは俺でありたい。…俺と、結婚してください。ずっと、『待たせて』ごめん」
「……よろこんで」
ガーネが『ファーストダンス』を申し込んだ時と同じように、本当に嬉しそうにふわりと微笑んだディアマントは、そのままガーネに飛びつくように抱きついた。
ガーネもその小さく華奢な身体をしっかりと抱き留めて抱き締めると、愛おし気に髪に頬を寄せた。
「受け取ってくれる?」
「うむ!ガーネ、すき!だいすき!」
「お前ほんと可愛い。…愛してる」
ディアマントを抱き上げたまま椅子に腰を下ろし、ディアマントを膝に乗せて腰を抱いた。
ガーネの膝上にちょんと座ったディアマントはケースの中の指輪を感慨深い眼差しでうっとりと見つめていた。
無色透明なエメラルドカットの石を小粒のメレで囲み、金の指輪にはミルグレイン加工の施されたアンティークかつクラシカルで繊細な、いかにもディアマントが好みそうなデザインであった。
「ダイヤ?金?可愛い、綺麗」
「地金は『煌金』、霊脈と魔脈の交わるところでしか採掘されない超希少な霊鉱石。特徴としては純金よりも硬くて加工が難しいけど代わりに傷もサビも付かない。石は『緋晶魔石』、魔力に反応して色が赤く変わるこれも希少魔晶石」
「ほう。……妾、霊力はあるが魔力はそこまで多くない」
ガーネが箱から指輪を取り、ディアマントの左手を取った。
左手の薬指に指輪を嵌めると、ディアマントの魔力に反応して淡いピンク色に石が染まった。
「ピンクじゃ!可愛い!」
「俺の方が魔力量は多いから、俺のに反応するとちゃんと赤くなる。手貸して」
再度ディアマントの左手を取ると、緋晶魔石は赤を通り越して深紅へと染まっていった。
「あか!きれい!」
「お前、赤が好きって言ってたから。……気に入ってくれた?」
「うむ!うれしい!しあわせ!」
改めて幸せそうに笑ったディアマントはガーネに抱きつき、その左手の薬指にはしっかりと赤い石の指輪が鎮座していた。




