522話「サインドブリューグ神殿」
「とりあえず、降りるか。あー、何往復すんだこれ…とりあえずおじさん2人運ぶか」
「すまんの」
「ほんとに思ってます?…今度アレだな、縄梯子も荷物に入れるようにすっか…」
登ってきた時と同じようにアメジと2人がかりで魔導師長と巫術官長を背負って下まで降り、再度登ってきてからエーリックがヘルソニアを背負い、効率を重視した結果アメジがサイフィルを背負い、ジェレイドがカルセを背負ってガーネが残ったラズリ、スメイラ、ディアマントの運搬をすることにした。
「えっ、ガーネくんいける?」
「人選はした、軽いの選んだからな。スメイラとラズリはしがみついていられるな?」
「う、うん」
「陛下は俺腕一本でしか支えらんないから、なるべくしがみついてくださいよ。あとスメイラとラズリに足絡ませるんで降りるまで苦しいの我慢できます?」
「妾、我慢できる」
「よし、いいこ。じゃあとりあえずスメイラ先、その上からラズリ」
右手に白手袋を重ねて嵌めた上に革手袋も左右を重ね嵌きし、かなりの圧迫感で握りが若干甘くなるものの無理矢理手を握って革を引き伸ばしながら腰のベルトを外し、しゃがんで背中に乗るように促した。
「お、お邪魔します」
「早くしろ運痴ババア」
ラズリに抜いた腰のベルトを手渡してからスメイラがガーネの背中に抱きつくと、ラズリがガーネの肩にベルトを渡してスメイラを保持するように固定してからその上に半分被るようにラズリがしがみついた。
「支える余裕無いからな、落ちるからきちんとしがみついてろ。あと俺の首絞めんなよ」
「わかってるわよ、アタシらだって怪我したくないもん」
背中に2人を背負った状態で立ち上がりバランスを確認し、右手でワイヤーを掴んで握り具合を確かめてから左手をディアマントへと伸ばした。
「ディア、おいで」
「うむ」
ディアマントがガーネに腕を伸ばし、左腕でしっかり抱えてから壁に足を引っ掛けた。
「降りるぞ、しがみつけよ」
ガーネの声と共に落下の独特のふわりとした感覚に全員がしがみついた。
数メートルごとに壁を蹴って衝撃とスピードをいなしながら元いた場所へと着地した。
「アンタ、素直に褒めるけどすごいわね」
「これでも一応鍛えてるからな」
ディアマントを先に下ろし、続けてラズリとスメイラも背中から降りるとガーネはディアマントのスカートの裾を直して摩擦で熱くなった手袋を脱ぎ捨てて手を振った。
「あー、熱かった重かった。もう登らねぇ、登る機会あったら1人で行くわ」
ベルトをズボンに通し直して文句を垂れながら、全員が集まっていた元の入口と思わしき箇所へと視線を向けた。
案の定、動いた音がしたのは一番最初に入口かと思ったもので相違なく、上に跳ね上がるように口を開けたそこに一同視線が釘付けだった。
「サイフィル、なにかあるか」
「…術式とかは入口には何もなし」
「よし、じゃあ行くか」
白綿獣は上で別離してしまったため改めて明かりとして魔法石を光らせて灯しながら進んで行くと、長い廊下の先に封のされた入口がぽつんと現れた。
扉には1枚の札が貼り付けられており、ガーネとディアマントは揃ってしゃがみこんで掠れた文字を見つめた。
「……禁、…律…均衡、……なんだ読めねぇ、上と同じで古過ぎるな」
「文字の掠れと札の劣化が酷いの。何年前のものじゃ」
「とりあえず開けるか」
「一度妾が開けてみる。お前の霊力に反応するのか、他者でも構わぬのか確認したい」
ディアマントが札に手を翳し霊力を流すも特に反応する様子はなく、試しに剥がしてみるかと爪の先でかりかりと引っ掻いてみるがそれすらも剥がれさせる気はなさそうに札は微動だにせず貼り付いていた。
「俺がやる」
ガーネも未だ少し血の滲む右手を古い呪符に翳し、ガーネの霊力と血に反応しまるで燃えるように札は灰になって風に乗って散ってしまった。
「……あれ、もしかして帰る時また封じなきゃダメだったりします?俺封じ方知らねぇんだけど」
「お前は一体なにを自習しておる?」
「人の殺し方とか、呪い方とかとにかく見た目が派手なやつ」
ガーネの返答に呆れたように肩を竦めたディアマントは、小さく息を漏らしながらじとりとガーネを横目で見た。
「………王城に帰ったら、そちらの方面の基礎もお前に叩き込むか。妾はお前の基礎講師か」
「地味なのはやなんだけど」
知識はあるわりにどれも応用でかつ発動の見た目が派手な技ばかり記憶していると知り、ヘルソニアもガーネを呆れ果てた顔をして背後から見下ろしていた。
「其方の出力が地味ではないから案ずるな」
「え?ほんと?派手?」
「派手じゃ派手じゃ、お前が一番派手じゃ」
「別に一番派手で目立ちたいわけじゃねぇんだけどな…」
「面倒くさい小僧じゃ!!このクソガキめ!!」
ディアマントとヘルソニア2人がかりで呆れた顔をしているのをよそに、ガーネはドアをそっと押して開けた。
キィ、という錆びた音が響き、光が届かないために漆黒の空間が広がっていた。
手に持っていた魔法石を数個転がして部屋の中を照らすと、思っていたよりもずっと広い部屋の全貌が明らかになった。
「……なるほど、『均衡を司りし社』か。一番何も無くて、一番全部ある場所だ。ここがこの、聖域のど真ん中だ」




