521話「妾タイム再来」
「…ん?」
祭壇を凝視していたガーネが別の違和感に気が付いて周辺や台座を見回し始めた。
「なんじゃ」
「ここ、動かした跡がある。微妙に台座が擦れた跡」
体重を掛けて押して見るもびくともせず、ディアマントはちょこんと首を傾げてからはっとした顔でガーネの隣に入って得意気な顔をした。
「妾が!妾が押す!!」
「俺の全体重掛けて動かないのにたかが40kgちょいのお前の力で動いたら世話ねーよ」
「妾が!妾がーっ!!妾出来る!妾もやる!!妾もー!!」
「ここでその妾タイムやめてくんない、2人だけのときにしてくれって言ってるだろいつも…まぁいいや、はいはい、わかりました、はいどーぞ」
「面倒そうにするでない!」
「めんどくせーじゃん。アメジ、お前こっち押せ。教官もここ押して」
ガーネと祭壇の間に入り込んで何故か自分も出来ると得意気な顔をしているディアマントはそのままに、ガーネとアメジ、エーリックで祭壇の台座に手を掛けた。
「せー、のッ」
大の男3人がかりでようやく台座が重く引きずられる音を立てて動き、霊紋が露出して3人は顔を見合わせた。
「妾の力で動かせたな!」
「ハイソーデスネ」
もはや面倒そうに雑にディアマントをあしらいながら、ガーネはしゃがみ込んで霊紋の文字を確認した。
「魔法陣?」
ラズリがガーネの手元を覗き込み、アメジが小さく首を振る。
「魔法由来のものじゃなくて、霊力とか霊術を発動させるやつね」
「霊紋?」
白綿獣の明かりだけでは心許なくガーネが魔宝石を叩いて手元を照らし、指先で掠れた文字をなぞって読み始めた。
「随分古い霊紋だな」
「妾にも見せよ」
「どーぞ」
ディアマントがしゃがみ込んで文字を眺め始めると、ガーネも手元の魔法石で文字を照らした。
「…均衡ヲ、……司、リシ…社、ノ…、……封…ズル…?」
「掠れて読めねぇけど、多分これがリエーブの言ってた『律衡家本家嫡流の血が必要』ってやつじゃないのか」
「えぇと…律衡ノ証ヲ、示、…流、赤ノ…、……だめじゃ、古すぎて読めぬし機能しておるのかこの霊紋は」
ディアマントが試しに紋に触れて霊力を流してみるも、当然なにか反応をすることもなく眉を寄せた。ヘルソニアもその霊紋を見つめて目を細め、ガーネへ視線を向けた。
「ガーネ、リエーブの言っていた『本家嫡流の血』、比喩ではないのではないか」
「あー、『そういうこと』です?」
ガーネは腰のベルトに隠しているナイフと取り刃を起こすも、少し考えてナイフを左手に持ち替えて右手の人差し指に軽く刃を滑らせた。
浅く皮膚が割れ、血がじわりと滲み、それを確認してからガーネは右手を霊紋へと翳した。
ガーネの血と霊力に反応した霊紋が淡く光り、どこかで何かが動いた音と振動が響いた。
「…どこじゃ、どこで何が動いた」
「カルセ、音のした方向どっちだ」
「…丁度、入ってきた方向の…下層近辺、ですわ」
「ならどこかで降りる場所があるってことか。部屋の中、変わりは?」
「…なさそう、だな」
魔導師長も周辺を見て小さく呟くと、一同無意識にまだ見ていない『右の部屋』の方向へ視線が向いた。
「とりあえず、右の部屋見てみるか」
ガーネがディアマントに無傷の左手を差し出して立たせると、ディアマントは思わずガーネの右手を取って浅く切れた親指を見つめた。
「血まみれじゃないし、左手じゃないし。…予知、外れましたね陛下」
「……妾、予知を外したことはないのじゃ。もちろん、意図的に未来を変えたことは何度もある。お前を統裁官に任じた直後の、名代がそれじゃ」
「似たようなもんじゃね?お前が未来を予知してそれを俺が知ってたから、未来が変わったんだろ。俺が22、3で多分死ぬって言った時もお前散々言ってたじゃん。未来は簡単なことで変わるって」
親指の傷を軽く舐めてから肩を竦めて見せると、ディアマントは少し安心したような顔で小さく息を漏らした。
一同が改めて右の部屋へと向かうと、白綿獣もふわりと一緒についてきた。
サイフィルが扉に術式などの異常が無いことを確認してドアノブに手を掛け、ガーネは先程と同じように白綿獣に『中を照らせ』と命令した。
開いたドアの隙間からスイッと入り込んだ白綿獣の明かりに照らされた室内は特になんの変哲もなく、おそらく儀式の際の前室かなにかの用途の部屋かと想定された。
奥まで続く廊下があり、扉が幾つか並んでいた。順に入って行くと、用途がトイレと想定される部屋、身を清める為と思わしき排水溝のある部屋、台所のような竈や水汲みの井戸らしき設備の名残のある部屋と、控え室か寝泊まりを目的とするような部屋や広間があった。
「何も、ないな」
ディアマントの呟きが石造りの壁に吸い込まれるように響き、最奥の部屋をぐるりと見回した。
「なら……さっきの音の出処探すか。他、降りれそうな場所とかなんかあるか?蓋的なのとか、隠し扉とか」
「うーん……無さそう…かな」
「……、……ガーネくん」
「なんだスメイラ」
「外の、『扉』は?」
「扉?」
「鍵穴も、何もなかった入口っぽいやつ!」
「……あー…、……行ってみるか」
一同は来た道を戻り、一度外へと出てみた。
白綿獣は外の世界へはついてきたがらない様子で暗がりの中で停滞し、神殿の中に残った。
ワイヤーを引っ掛けて登ってきた数段の階段の、真下。
一番最初に見つけた入口と思わしきものは、今ガーネたちが立っている真下に位置していた。




