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断罪ディストーション  作者: 梦月みい
第九章『眷恋』

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51話「微かな変調」

ガーネの歩調が、ほんの僅かに速い。

それだけのことに、妙な違和感が残った。


『あの一件』以来だ。何が変わったのかは言葉に出来ない。ただ、以前と同じではないことだけは確かだった。


思わず、スメイラは隣を歩くサイフィルの横顔を窺う。この男も能天気に見えて、状況が見えないほど鈍くはない。

視線に気付いたサイフィルは、わずかに肩を竦め、曖昧に笑ってみせた。

────やはり、同じことを感じているらしい。

先頭を行く背中へ、改めて視線を向ける。


女王直轄。

恩賞という名目で与えられた王命特務。────要するに、『逃がさない』ということだ。


サイフィルも、スメイラ同様にガーネの背中に視線を向けた。


謁見の間を出て、長い廊下を歩く四人分の足音だけが妙に厳かに響いている。

ふう、とごく僅かに小さく息を漏らし、サイフィルは声高らかに宣言をした。

「よし、飲みに行こうぜ!」

全員の足が止まる。

スメイラだけが、その意図を察して眉を下げた。

「まあ、楽しそう」

「でしょ?せっかくだしさー、ね?ガーネ!」

「一人で行け」

「親睦会!しようぜ!」

「一人でやれ」


振り返ったガーネの返答は『距離』ではなく、純粋な『面倒臭さ』であるとスメイラは理解し、どうしてかほっと胸を撫で下ろした。


「まぁまぁ、せっかくだし一杯だけ。ね、ガーネくんも」

「チッ、めんどくせぇ」

「よし決まり決まり!行こうぜ!ガーネの驕りな!」

「そうだねそうしよっか、一番お金持ってるし」

「サイフィルお前は川に突き落とすぞ」



*****



「さ!じゃあ何頼む!?何飲む!?」

全員一度、正装した姿から私服に着替え、王都の中の官庁街にほど近い酒肆に入る。

夜は役人や騎士が静かに杯を傾ける、大衆向けというよりは『仕事帰りの社交場』に近い店だった。

「じゃあ、私一杯目だしビール」

「わたくしは甘いお酒がいいですわ」

「じゃ、僕も生!ガーネは?」

「……オレンジジュース」


いかにも渋々来たと全身で表現するように足を組んで頬杖をついたガーネは、いつものようにジュースを注文しようとする。

それを見てにんまりと笑ったサイフィルがガーネに飲む前から絡み始めた。


「なんだよ〜飲めないの?」

「『飲めない』んじゃなくて『飲まない』んだよ、まずいから」

「んなこと言って、ガキだな〜ガキガキ、お子ちゃまでちゅねー」


ぴし、とガーネの額に青筋が立つ。


「お前に煽られんのだけは死ぬほどムカつくんだけど。……生」

「…ガーネくん、無理しない方が」

最早酒を飲む前から短気に苛立って目が据わっているガーネを正面で見て、スメイラは面倒なことになる前にと助け舟を出そうとした。しかし先程とは打って変わって本気で空気が読めないサイフィルによって注文は通されてしまった。


「じゃ、改めて『新生パーティー結成記念親睦会』にかんぱーい!」

「なんだ新生パーティー結成記念て。俺はお前とパーティーなんか組んだ覚えねぇぞ」

「ま、ま。ね?」

無理矢理にかつんとグラスを合わせられ、ガーネは仕方なく普段であれば絶対に飲まないビールを口にする。『せめてカルセと同じ甘いカクテル系統であれば』と内心思いはしつつも、逆に甘い酒の方がアルコールの独特の苦みやえぐ味を感じやすい。

口に広がる独特の苦みや渋みが滞在する前にと、一気に喉を通過させた。

わりとあっさりと酒を飲み進めるガーネに、スメイラは心配そうに目を向ける。

「……苦い、クソまずい」

空になったグラスをガン、と雑に机に置いてガーネはものすごく渋い顔で呟いた。

「そ、そんな何も一気に飲まなくても」

「だってちびちび飲んでたらずっとまずいだろ」

「あれれーじゃあもうジュースにしますかーお子ちゃまガーネ君!酔っちゃうの怖いのかな〜甘えん坊になっちゃうのかな〜泣き上戸になっちゃうのかな〜」

「ほーん、テメェはいっぺん殺されたいのか」


サイフィルに煽られるのは無性に腹立たしいらしく、どうやら『ガーネを酔わせたい』という見え透いた浅はかな煽りのもとで次々と酒を飲まされるガーネはどんどんと不機嫌になっていく。

「…お、お二人とも、そんなに飲まれて大丈夫でしょうか…わたくしなんて、二杯いただいただけで結構もう酔っておりますのに」

そう言うカルセは、二杯目を半分飲んだところで頬が赤く染まっていた。しかし、さすがは聖女というべきか、とんでもない酔い方はせず分別のある程度に押さえている。スメイラもいい大人なので自分の飲める量はわきまえている様子で、サイフィルと半ば無理矢理飲まされているガーネのように馬鹿な飲み方はしていない。

「僕?僕はさ、体質的にお酒酔わないんだよね。毒の一種だからか、体質的に耐性あって。……ま。隣のガーネきゅんはわかんない、け…ど……」

そろそろ酔いつぶれたかと期待して隣に目を向けたサイフィルは言葉を失う。

「……ガーネくん、ほんとに大丈夫?相当飲まされてるでしょ」

「ずっとまずいって言ってんだろ」

「そ、そうでは無くガーネ様」

「ガーネ、お前…酔わないの?」

酒の不味さにずっと渋い顔をして眉間に皺は寄っているものの、その顔色は一切変わっていない。顔色に出ないだけかとカルセも心配そうに声をかけた。

「だから、言っただろ。『飲めない』んじゃなくて『飲まない』んだよ。いい加減ゲロマズ過ぎて吐きそうなんだけど、もう満足したかサイフィル」

「ひゃい…すみませんでした…」

明らかに苛立ったガーネの眼光に凄まれ、サイフィルは素直に謝罪した。


大人しくなったサイフィルを無視して改めてオレンジジュースとつまみで口直しをして幾分か機嫌が治ったガーネを中心に、当面の動きについて改めて話しがはじまった。

「…とりあえずスメイラ、お前は研究院クビなんだろ」

「そういう言い方やめてくれない。表面上は栄転みたいな扱いでしょ、…表面上だけ」

ガーネの物言いからも、今回の恩賞に見せた処遇は口に出さないだけでここにいるメンバーには共通認識であると再確認する。

「俺も、本格的に『女王サマの飼い犬』だしな。…まあ、やることは正直変わんねーけど」

「ですが、わたくしはガーネ様の専属となりました。しっかりお祈りさせていただきますね!」


心做しか嬉しそうな顔のカルセに、ガーネも『聖女が欲しい』と言っていたことを思い出す。しかし、あの『異界遺物』と位置付けられたモノ相手では今一つ『聖女の恩恵』を感じることができていない。

────邪魔になるようなら


ガーネはふと、手が止まった。


────…俺は今、何を考えた?

自分の普段の思考とのズレを感じ、一瞬寒気が走った。


「…ガーネ様?」

「なんでもない。あとコイツは俺の正式なパシリだ」

誤魔化すようにサイフィルを指差し、隣のいけ好かない男にだけはしっかりと上下関係を言いつける。

「だからさ、僕だけ扱いおかしい…」

「スメイラの権限が広がったことで情報は入りやすくなるのか」

「うーん、多少は?わかんないけど」

「いずれにしても、情報がなきゃ動きようがない。俺も不本意だし癪だけど、連絡の取りようもなくなるから拠点は城に置くことにする」

「そうしてくれたら助かるよ。今までみたいにあちこちうろつかれたら、今までとはちょっと変わるしね」


一旦、スメイラからの情報待ちという事で結論づけて店を出ることにした。

「すみません、勘定。これで」

ガーネは当たり前のように伝票と証書を店員に渡して会計を済ませると、上着を羽織りながらさっさと店を出てしまった。

「お、お待ちくださいガーネ様!」

「あーあ、サイフィルくん。ガーネくんに『ほんとに』払わせちゃったね」

「……ぐぬぬ…」


一番年下のガーネにしれっと美味しいところを持っていかれたようで、サイフィルはなんとなく気に入らない気持ちが入り交じる。

ガーネを追いかけて店を出ると、平和には終わってくれない叫び声が聞こえた。


「引ったくり!!誰か、その男掴まえて!!」


女の声が聞こえるや否や、ガーネはあれだけ酒を飲んだとは思えないほどに反射的に声のした方向に走り出した。


「おい!テメェ待ちやがれ!」

男に追いつくや否や、ガーネは男の首根っこを掴んで引き倒して身体を拘束した。

少し遠くの方で、たまたま近くを巡回していたらしい警察官を呼ぶ声を聞き『引渡しが面倒にならなくて良かった』と思ったところで、足元で押さえ付けている男が漏らした一言にガーネの表情はすっと失せた。

「クソ、『こんな事』くらいで…!」

「……こんな事?」


本職が警察官であるガーネにとって、犯罪の大小は関係がない。

暴れて逃げようとする男の肩を押さえ手首を捻った感覚が、重い。

その直後、左手で押さえた男の肩付近から関節の外れる音と感触が響く。それと同時に、足元で男の悲鳴が聞こえた。

「──── あ。やべ、やったわ」

自分の手元を見て、普段よりも力が入りすぎた事に時間差で自覚した。

どこでどう加減を誤ったか、自分でもわからない。

「悪い、ちょっと強く入りすぎたな。でも暴れんなよ」

腕を強く捻り過ぎて『外した』肩を見て言いながら、スメイラたちと追いかけて来た警察官に男を引き渡した。


「お疲れ様です。現行犯で……すんません、引き倒した時に肩『外れ』ちまったみたいで。ちょっと強く入りました。後で報告書書いて上げときます」

妙にへらっと笑いながら、ガーネは男を引き受けた警察官へ自分の警察手帳を見せる。

相手もガーネが警察官だと知って、「気を付けろよ、医務室回しとく。報告よろしく」とだけ返され簡易的に処理した。


「え、え、ねえガーネ」

「うるさい」

「まだ何も言ってない!お前まさか……ま、まさか……『その歳で』お巡りさん…?」

ガーネは『何を今更』という目をサイフィルへと向けたが、思い返せばスメイラにもカルセにも、自分の事はさほど語って来なかった事を思い出す。


「今はうちの可愛い女王陛下の犬なもんで身分凍結中、の扱いだけどな。本職はこっち」

改めて見せつけるようにサイフィルへ警察手帳を提示してから胸元にしまい直した。

「解せない!!」

「何がだようるせーな、留置所ぶち込むぞ」

「お前みたいな天上天下唯我独尊を地で行くようなクソ野郎が!顔も良くて!背も高くて!挙句その歳でモテる職業の上位にある警察官とかなんて俺は認めない!!」

「なぁコイツうるせーんだけど。始末していい?」


「…………、……ガーネ…?」

騒がしくしていたせいで、少し離れたところで荷物の確認と事情を聞かれていた被害者がこちらに気付いた様子で声を掛けてきた。しかし、的確にガーネの名前を呼んでいた。

「お知り合いでした?なら、後から必要あれば連絡します。今日はこれで、お気を付けて」

「お疲れ様です」

引き上げる警察官と互いに敬礼を交わし、ガーネは女に向き直った。

「久しぶり」

「う、うん……久しぶりね。こんなところで会うとは思わなかったわ」

「おー、元気だったか」


何とも言えない二人の空気感に、三人は戸惑い露わに顔を見合せた。

※未成年の飲酒は法律で禁止されています!

この世界の成人は16歳なのでそういう設定ということでお読み下さい。未成年飲酒を促す意図はございません。

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