50話「配置」
「あーあ、食った気のしねぇ飯だったな」
誰も、すぐに返事が出来なかった。それが聞き慣れた『いつもの声』だったからだ。
『女王主催の晩餐』もつつがなく終わり、解散した直後。
ガーネの部屋に移動し、すっかりいつもの調子で声をかけられ、安心感やら肩透かし感やらで一同は閉口した。そんな様子を知ってか知らずか、ガーネは着ていた官装をいつものように雑に脱ぎ捨ててシャツのボタンを緩めながら近くのソファにどっかりと腰を下ろした。
「…?なに、お前ら。変な顔して」
「なに、じゃねーよ!怖いよ!お前こそ変だよ!」
「お前はいちいち喧しい野郎だな、どつき回すぞ」
その『いつもの通り』の返答に、スメイラは安心したように、しかし何処か不安そうに肩を竦めた。
「…遺物の、影響は?」
「あ?あー、物理的に距離離されて少ししたら平気。暫くは吐きまくって大変だったけど。ヘルソニア様が禁書庫に安置したんだろ」
「そう、ならとりあえずは安心…かな。ヒヤヒヤしたよ」
「僕はお前が怖いよ!なんなの!何者だよ!やだよ!」
「うるせーな誰かコイツ追い出して」
カルセが小さく笑いながら、頭頂部で主張する耳を揺らした。
「でも、大事なさそうで安心しましたわ。あまりお役に立てず、申し訳ございませんでした」
「…さて、で。お前ら、女王が言ってた『近日中の招集』までの間どうすんの」
晩餐の儀が終了した直後、『近日中に招集をかける。好きに過ごして構わぬが、王都内にいろ』とのお達しがあった。
「…じゃあ、私は数日留守にしてて仕事も溜まっていそうだし、一旦研究室に戻ろうかな」
「わたくしは、せっかく数年ぶりの王都ですので王都の司祭様のところへご挨拶に伺おうかと思います」
「僕は…こう見えて一応正式所属はしてないけど、王立鑑定士団の仕事もフリーで受けてたりするから、ちょっと王都内で出来る仕事でもこなそうかな。特になかったらせっかくだし観光でもしようかな〜ガーネお前偉い人なら奢れよ」
「お前なんかカツアゲに遭ってしまえ」
「ひどい…」
ガーネは有無を言わさず、『城にいろ』とのことで体の良い軟禁扱いは継続である。
数日は、それぞれの『日常』を過ごしていた。
────二日後。
予定通り、今回の遺物『仮称:封鍵』改め《禁書庫最深部収蔵指定異界遺物第零号『封鍵』》に携わったメンバー、ガーネ・スメイラ・サイフィル・カルセが改めて謁見の間に呼び出された。
「陛下、参りました」
全員が膝をついて最敬礼の姿勢を取っていたが、「楽にしろ」との号令でゆっくりと立ち上がる。
正面の玉座に座るディアマントをまっすぐ見つめ、言葉が紡がれるのを静かに待った。
「ご苦労。では早速ではあるが、改めてお前たちに此度の件について申し伝える。────『封鍵』を、正式な『異界遺物』として認定する。サイフィルの鑑定通り、これは『この世界の物』ではない。存在してはならぬものじゃ。お前たちも目の当たりにした通り、国は混乱に苛まれ、崩壊する」
ディアマントはそこまで言うと、再び忌々しいものを思い出したのか少しだけ眉が寄った。
「この『異界遺物』…異端なる均衡、『邪教』の一派が仕向けたものじゃ。今回はたまたまお前たちが居合わせて対処できたが、後手に回ると厄介極まりない。そこでお前たちに、新たな任を課す。本件は決定事項、異論は認めぬ」
そう前置きをした上で、ディアマントはそれぞれに新たな任を課す。
スメイラは、現『王立大図書館附属遺物学術研究院 第一調査部統括官』の立場から『王権委任遺物管理官』。
サイフィルは、現『王立鑑定士団 特別参画鑑定士』から『王命特使付鑑定官』。
カルセは『聖女』もとい『王都大聖堂所属祈祷聖務官』はそのままに、ガーネに常に同行をする専属聖女の扱いへ。
それから、肝心のガーネは、今までの『女王直下』の立場は変わらずではあるが、改めて『王命執行最高責任者 兼 異界対策統裁官』としての任を下された。
要するに、とガーネが口を開いた。
「…つまるところ、スメイラは異界遺物専属の調査統括、カルセは俺に同行、サイフィルは俺の忠実なパシリということでよろしいですか」
「僕だけ認識おかしくないですか」
いつものガーネの軽口も気に留めた素振りも見せず、ディアマントは視線をガーネにまっすぐ向け直す。
「本件はガーネに一任する。ガーネの命に従い動け」
「拝命、賜りました」
「ガーネ、お前に課している任務の内容は変わらぬ。元々この案件はお前の管轄じゃ。その上で、想定よりも早く多少厄介な形で妾は連中に喧嘩を売られておる。この意味が、わかるな?」
「無論です────連中を抹消して、陛下の憂いを取り除きます」
ガーネの妙に冷えた低い声が、謁見の間に静かに響いた。
ディアマントはその返答に満足そうな顔で立ち上がると、一歩前へ歩み出た。
「妾の為に、存分に暴れて参れ。根絶やしにしろ」
女王の静かな命令に、ガーネは静かに数歩前に出て足元で膝をついた。
「────フン、遅い。犬」
「申し訳ございません」
ディアマントはそっとガーネに手を差し出す。
ガーネは当然のようにその手を取り、忠義を誓う口付けを女王の手の甲に落とした。




