518話「『シロモコ』」
「……あ!ここ!ガーネ様、わたくしここ覚えております!…この広い階段を降りたところに天井の高い広間がございまして、真正面が礼拝堂でした。向かって左右にもお部屋があったんですが、正面の礼拝堂までは、当時の司祭様と入りましたわ。左右のお部屋は入らなかったので、どんなお部屋かは分かりかねます。……もう少し、周辺明るかったと思うんですけれど…こんなに暗かった印象はございませんわ」
カルセが階段の先を指差して言うと、ガーネは自分の手にあった魔法石を階下まで蹴り転がした。
こん、こん、からんと軽い音と共に階段を転がり落ち周辺を照らす。
カルセの言葉通り、階段を降りた下にはかなり広めの空間があり、部屋へ続く扉もありそうな雰囲気はあった。
「スメイラ、明かりどのくらい持ってきてるんだ」
「足りないよりは余った方がいいと思って、かなり持ってきてるよ。どうせ荷物持ちエイミーちゃんだし」
「えー、スメイラちゃんも最近あたしの扱い雑じゃない?」
12人分の足音の階段を降る音が響き、問題の広間へと降り立った。
「…なんか、すごい、相変わらず『何もない』ね」
「霊脈由来なのか、場所要因なのかはハッキリしねーけどな。大体高位地霊くらいは住んでるもんだが、地霊ですらいないとなるとここが霊脈の『吹出口』なのかな。地霊のいない土地なんて初めてだ」
「え?そんなことないでしょ」
ラズリが反応して口を挟むと、ガーネはどれの件を言っているのかと振り返って首を傾げた。
「お前らと一緒の時にそんな特殊な土地行ったか?」
「特殊な土地っていうか、アンタが消したんじゃない。地霊様ごと」
「そんな物騒なことしたっけ」
すっとぼけたガーネに向かってディアマントは少し前に特務と共にフローストに行った時のことを思い出し、『出力音痴』のガーネをじとりとした目で見上げた。
「ガーネお前、フローストで魔獣を散らす時に土地の精霊地霊ごと燃やしおったぞ。さすがの妾もそこまでしなかった」
「山消すのとどっちがまし?」
「山を消す方がましであろう。地霊も精霊も、その土地の霊力や魔力を餌に成長して暮らしておる。使役してそこそこのものに育てるには、数百年単位の時間がかかる」
「興味ねーや。俺そこまで生きてないし。大体、俺に消される連中がヤワなんだよ」
フンと鼻で笑ったガーネが魔宝石を数個叩いて光らせると、雑に周辺に蹴り転がして部屋の全貌を確認した。
カルセの記憶通り、正面に一番荘厳な大きな扉があり、左右には別の扉があった。
「どこから見る?真ん中?右?左?」
結果全て見る積もりではあるものの、『どこから見るか』と言われると左右真ん中とそれぞれ意見が割れた。
「よし、じゃあディア。じゃんけんしよう」
「じゃ、じゃんけん?」
「俺が勝ったら右、お前が勝ったら左、あいこだったら真ん中。…じゃんけん」
「ぽ、ぽん!」
ディアマントがパー、ガーネがグーを出してディアマントの勝ちの結果だった。ディアマントはぱぁっと嬉しそうな顔をして自分の掌を見てにんまりと満面の笑みを浮かべた。
「はぁ?可愛いな。ただの場所決めだっつの。じゃあ左のドアから行くか」
ガーネの声掛けで左に向かって足を向け、ガーネが警戒がちに銃を構えながらそっと扉を開いた。
きぃ、と甲高い錆びたような音がし、数拍置いてからガーネは銃の先端でドアを押し開いた。
「わーっっっ!!!!」
「うるせーな32点!!びっくりすんだろが!!」
サイフィルの叫び声とガーネの怒鳴り声に全員ビクリと身体を跳ねさせ、部屋から飛び出した大量の魔獣の群れにそれぞれ戦闘態勢を取った。
「し、『白いものが大量』じゃ!!」
ディアマントの予知が早速的中したかと思った瞬間、ガーネはディアマントの口と鼻を手で覆って声を張り上げた。
「攻撃すんな!毒粉撒かれる!!『シロモコ』だ!!」
左のドアから現れた魔獣・『白綿獣』、通称『シロモコ』。
真っ白な綿毛のような丸くふわふわとした生き物は、遺跡や洞窟などの人気が無く暗いところに群れで生息し、時折訪れた人間や魔獣の魔力を吸って生きている、通常はほぼ害のない魔獣である。
魔力を吸うと淡くぼんやりと発光し、周辺を照らす。
ただし、自分の身に危険を察知すると毒粉を撒き散らし、吸った量にもよるが下手をすると半日程度で死んでしまう程度の毒性がある。
訪れたものに明かりを提供する代わりに魔力をもらう、持ちつ持たれつで生きている小さな魔獣だった。
白綿獣から毒粉の噴出がなく、周辺を漂って明かりを灯す魔獣を見てガーネはディアマントの鼻先から手を離した。
「し、しろもこ!妾、初めて見た!本で見たことがある!ほわほわじゃ!!本の挿絵の通りじゃ!!」
ディアマントが初めて見る光景に目を輝かせてぽわぽわと明かりを照らす魔獣を見上げた。
「クソ、埃ごときに魔力吸われてんのも滅茶苦茶癪だが…明るくなるならまぁいいか」
「ほこりではない、しろもこじゃ。ゆきちゃんとどっちがほわほわか!」
「……ガーネ様!この光景、覚えがありますわ!こんな感じの、ぽわっとした明かりが灯っておりました!」
カルセがシロモコを見て当時の光景を思い出した様子で声を上げ、『妙に暗かったのは白綿獣の存在前提か』と納得した様子で天井付近で空間を照らしながら漂う魔獣を見つめていた。
しかし、それならそれで、ガーネには別の懸念が生まれた。




