514話「ピッキング」
──── ドアノブも無ければ鍵穴もない。開け方がわからない。
ガーネの言葉に、一同の視線は『ドアらしきもの』へと注がれた。
「おいカルセ。前来た時はどうやって入ったんだ」
「……申し訳ございません、わたくしの記憶を辿ってみたのですが……『あんな入口』、そもそもあったかしらと思いまして…蓋のような入口だったような記憶なのですが、わたくしの記憶の景色と結びつかなくて。泉の真ん中にぽつんと神殿があったというのは、記憶しているのですが……」
ガーネは少し遠巻きに神殿を眺め、腕を組んで考え始めた。
視認出来る範囲になんの痕跡も無く、入り方がわからない。そも、視認しているアレが『入口』なのかどうかすらわからない。カルセの『記憶の入口』とは異なるらしい。
八方塞がりな状況に頭の中で構想をまとめているところにディアマントがとてつもなくいい閃きをしたと言わんばかりの顔でぽんと手を叩いて声を上げた。
「前にガーネがしておった、『ピッキュン』をしたらよい!」
ディアマントの言っている内容が皆目理解出来ずに、ガーネだけでなく全員もれなく首を傾げた。
「……え?なんて?」
「『ピッキュン』じゃ!」
「は?え?俺そんな未知の魔法使ったことないけど。なにその間抜けな呪文」
「しておった!カチャカチャってやったら開いたではないか!ラズリのピンで!フローストで!!あと妾が数年がかりで施した禁書庫の封印もピッキュンしておったではないか!」
「……………………ピッキング?」
「…………妾、さっきからそう言っておる」
「おかしいな、俺耳疲れてんのかな。まあいいや、ピッキングは出来ない」
「なぜじゃ!」
「鍵穴が無ェからだよ。ついでに言うと術式とか結界とかそういう気配もない。それと、『入口周辺の土の擦れ』とか、『苔の剥がれ』とかそういうのが無い」
「ガーネ!僕どういうことか全然わかんない!」
「例の真新しい結界杭を仕掛けた奴はここの神殿に『来ていない』のか、『見えてるアレが入口ではない』ってことだろうと俺は思う。つーことで、こういうのは専門家がいるだろ。──── スメイラ、本領発揮しろ。『お前の土俵』だろ」
やっと専門分野で日の目を見せてやれると何故か自分が得意そうな顔をしてガーネはスメイラを見つめると、スメイラもそれに応えるようににっこりと笑みを浮かべた。
「任せて。でもちょっとだけ、調査時間時間もらうよ」
「…ガーネ。補佐官殿の『土俵』とは…?」
ディアマントの隣で、アメジとラズリ、サイフィルを引き連れて改めて神殿周辺調査に向かったスメイラの背中を見つめるガーネに、ジェレイドは少し不思議そうな顔をして問いかけた。
「忘れたのか。俺の補佐官のあの女は、現役職は『王権委任遺物管理官兼特務総監補佐』。アイツの専門は『遺跡・遺物』だ、スメイラに任せりゃ問題無い」
「……よその部署だが、君は随分と仲間を信頼しているのだな」
「ハァ?仲間?冗談だろ」
「え」
「お前の隣にいるカルセも含めて、特務は俺の『配下』だ。それ以上でもそれ以下でもない」
ジェレイドがちらりと隣のカルセを横目で見るものの、何となく直視する事が出来ずに返答に困りディアマントへと視線を向けた。
ディアマントはガーネの傲慢な返答を聞いて、誰よりも満足そうに笑みを浮かべていた。
「ところでカルセ」
「はい、ガーネ様」
「お前が来たの250年前って言ってたか」
「ええ、大体そのくらいですわ。前後あるかもしれませんが」
ガーネが顎先に手を当てひとつの仮説を立てて考えながら周辺を見回し、ディアマントとヘルソニアへと視線を向けた。
「陛下たちは地図ってご覧になりますか」
「……見なくはないが」
「記憶力は?」
「悪くはない、と、思う」
「昔の……250年くらい前の、この一体の地形ってどんなでした」
「…こんな場所など限定的に記憶しておると思うか?その時なにか事件や大きなことがあればまた別かもしれぬが、妾とて何年生きていると思っておる」
「知らん、お前いくつなの」
「女に年齢を聞くなバカモノ」
「あ、……ほーん。…へぇ」
「なんじゃ」
「お前、自分の年齢わかんないんだろ」
「わかるもん!!」
「じゃあいくつだよ。ババァなのは今に始まったことじゃねぇんだから」
「ババァではない!妾はお姉さんじゃ!!」
「あっそ、で、いくつなの」
「よんせん…ええと、……忘れた」
「…………」
「わからないのではない。忘れたのじゃ。でも身体は23じゃ」
「あっそ。その割には随分と小娘だな」
話が横道に逸れたところで、ガーネはディアマントから少しだけ離れて周辺の木々や岩などを見回した。
「…カルセ、覚えてたらでいいんだが」
「はい」
「250年前にここに来たのは、何月だ。季節は覚えているか」
「ええと…確か、雨季明け…だったかと。そう、そうですわ。たしか数百年に一度の大豪雨の年だったと、当時の司祭様が仰っていましたわ」
ガーネはその言葉で半ば確信を得ると、スメイラに視線を向けた。
「スメイラ、聞こえてたか」
「聞こえてた。私も今その懸念を考えてたところ、多分君の推測と相違ないと思う。あの部分、多分あそこまで水来てたかな。さすがに年代まではこの時点ではわからないけれど、比較的新しいと思う。それと雨季と周辺の水のお陰で、あの苔があるのかな。上の……あそこの、入口みたいなところの真上。土台みたいに、屋上っぽくなってるじゃない。その上にまたなにか神殿の装飾みたいなのがあるから、上見た方がいいかもね」




