512話「強行」
船から飛び込んでおおよそ20秒前後で川底へと到着したガーネは、『上で見ていたよりも思ってたより深かったな』と振り返りサイフィルの様子を確認した。
多少潜れはするとの言葉の通り、訓練を受けたわけでは無いためにガーネより数秒遅いペースで着いて来てはいることを確認し、ガーネは口に咥えた魔法石の明かりを頼りに結界杭を探した。
潜った地点から数m先、カルセが解除した結界の丁度真下辺りの運河中央に1箇所、そこを起点に等間隔で数箇所の杭を確認して再度振り返ると、ぶくぶくと息が続かなそうな様子で空気の泡を漏らしながらなんとかガーネに追いついたサイフィルを見てガーネは指で『上がれ』と合図を出し、共に一度浮上した。
「……ッブハーっっっ!!し、しんじゃ、しんじゃう!!」
「死なねーよこの程度で」
サイフィルの声に運河を船の上から覗いていた一同は心配そうな顔をしており、それぞれ声を掛けた。
「ガーネ、大丈夫か」
「ガーネくん平気?」
「ガーネ明かり足りる?」
「ガーネ様杭はありそうでして?」
「いやぁんガーネ様っ水も滴るいい男っ!こっち向いてぇ!」
「あれー!?なんでみんなガーネの心配ばっかりするの!?僕も一緒に潜ってるんだけど!?」
ディアマントはさておき勿論特務の『それ』はわざとであるが、まんまとサイフィルはショックを受けた顔をして船の上を見上げて叫んだ。
「そりゃお前あれだ、日頃の行いと人徳ってやつだろ。とりあえず、杭はあった。もっかい潜って見てくる。…サイフィル、お前は息整えたらもう少し息いっぱい吸い込んで潜ってこい。一気に加速すると水圧かかるから途中耳抜き忘れんなよ。ポイントはここからもう少し先のあの辺り。何本かあるから変なのないか確認してあったら教えろ、いいな」
「わかったけどさ!僕も心配され、って潜るのはやいんだけど!!」
サイフィルが喋っているのを無視して再びガーネが水の中に潜って行く。サイフィルもガーネの言いつけ通り、呼吸を整えてから改めて深く息を吸い込んで水に潜った。
再度潜水したガーネは結界杭へ向かい、違和感がないかを確認するため1本ずつ確認した。少ししてサイフィルが潜って来てガーネの隣で杭を確認し、ガーネが違和感を覚えた1本をサイフィルもそれを見て指を差したところで息が続かなくなった様子でそのまま浮上していった。
魔法石の明かりを照らし違和感の種類を特定しようと凝視して、杭に指を引っ掛けて力の流れを調べ始めた。
「ぷはー!」
「おつかれー、浮き輪投げるわよ」
ラズリがロープ付きの浮き輪を投げ、サイフィルが浮き輪を掴みアメジが引っ張り上げた。
「……あれ?ガーネ様はサイフィルちゃん」
「まだ潜ってる…つかれた、しんどい…潜水2回はキツイよぉ…」
「え?まだ潜ってんの?1分半は経つけど!」
「ガ、ガーネが死ぬのか!スメイラ!」
「死ぬと決まったわけではありません落ち着いてください陛下!」
2分程経過してガーネが水面に浮上すると、ディアマントが酷くほっとした顔で手摺りを握った。
ラズリが先程と同じように浮き輪を投げると、ガーネがそれを掴んでアメジが引き上げた。
「んんんーッガーネ様重たい…!」
「鍛え方が足りねぇ、お前より体重軽いだろーが」
無理矢理引き抜いてきた杭を床に放り投げ、カルセからタオルを受け取ると雑に顔を拭いた。
「魔導師長、解析しといてください。見れる範囲でいいんで。俺ちょっとズボン絞ってくる」
サイフィルと共に洗面所の方へ向かい、ディアマントが抱えていたガーネの服を持って後ろを追いかけていく。しかし、ガーネだけでなくサイフィルもいることから呆気なくガーネに「あっち行ってろ」と言われてむくれた顔をした。
「なにその顔」
「妾にあっち行けって言ったな!」
「言ってねーよ」
「ではなんと言ったのじゃ!」
「あっち行ってろって。あっち行けは言ってない」
「へりくつじゃ!!」
ディアマントの前では正直今更ということもあり、面倒になってサイフィルを衝立の向こうに追いやってからずぶ濡れのズボンと下着を脱いで力いっぱい絞って皺を伸ばして、タオルで身体を拭った。湿っぽい下着とズボンを履き直し、ディアマントの手からシャツだけ受け取って袖を通した。
「あー、脱がない方が良かったかな……湿っぽくて気持ち悪い」
「この暑さならすぐ乾くのではないのか」
「それを期待してる。……サイフィル、ズボン貸せ絞ってやる」
もたもたとズボンを絞っているサイフィルの手から水の滴るズボンを受け取り絞ってから投げ返し、ディアマントを連れて甲板に戻った。
「師長、どうですか」
「うん……妙に新しいな。他の杭もこんなに綺麗だったのかガーネ」
「いや、他のはもっと錆びて藻がついてましたね。で、それ刺さってた箇所に術式が。パッと見ですけど『封鎖』の系統ですね。だからやっぱり『こじ開けられた』んじゃないかなーと推測します。結界監査ちゃんとしてみないとなんとも言えませんけど」
「そうだな……杭だけではなんとも言えないが」
「戻って道具取ってきて監査してから進むか、強行するか」
「強行じゃ。時間が惜しい」
ディアマントの判断にガーネは僅かに不安そうな顔を見せたものの、それを見たアメジがガーネの肩をぽんと叩いた。
「大丈夫よぉガーネ様。楽観視するわけじゃないけど、あたしもラズリちゃんもいるし。それに、『ガーネ様の指示であたしもラズリちゃんも魔導師長と巫術官長に扱かれてる』し?一皮剥けてるのよ!何より魔導師長も巫術官長もいるわけだし」
「進捗は聞いてる。信用してないわけじゃない。ただ、陛下の身の安全を考えたら懸念は潰したいだけだ」
「ていうかガーネ、言っとくけど保有量だけで考えたらアンタが一番バケモノだけど、扱いとかその辺加味したらアタシらの方が強いわよ。わかってる?」
「わかってるからこそ託した配置があるだろうが。そうじゃねぇ」
一同はガーネが珍しくなぜそこまで腰が引けているか理解していた。
ちらりとディアマントのまだ薄らと赤みの残る左頬に視線を向け、『強行』の指示を出したディアマントは呆れた顔でガーネを見た。
「ガーネ。その方面であれば、今のこの面子ではヘルソニアが一番『使える』。妾は次点じゃ、お前は一番カスじゃ」
「わかってるっつの」
「砂時計の砂が『上げられる』ようになった程度ではお前はまだまだ使い物にならぬ。妾は飼い主として、お前を守ってやる。よいな」
「良くねーよ小娘」
「行くのじゃ!!妾が行くと申したら行くのじゃ!!絶対絶対行くのじゃー!!!」
「うるせーな小娘…」




