509話「不満」
「妾、やっぱり博物館行きたかった。あと、通りの向こうの機織りももっと見たかった」
「陛下もしつこいですね。今日は無理と言ったでしょう」
「ヘルソニアのばか!…ガーネっ」
「俺に言われても休館日は無理、どうにも出来ない」
「ガーネのばかっ!」
「心外過ぎる…」
案の定途中で見つけた博物館に行きたいと駄々を捏ねて休館日という現実をつきつけられて数十分の街散策を終えて迎賓館へ戻り、着替えを済ませて夕食を摂っている最中まで、ディアマントは不機嫌そうにむくれたまま文句を垂れていた。
「陛下は博物館でなにをご覧になりたかったのですか?先程ガーネ様もご興味あると仰っていましたが」
「げ、カルセ余計なこと言うなよ」
「妾、博物館で鉱石をたくさん見たかったのじゃ!ここは大きな霊脈があるから、ガーネがくれた桃霞石や瑞月真珠のほかにもたくさんいろんなものがある、そういうのが展示されておると本にあった!」
「まぁ、そうなんですのね。ガーネ様はちなみになにをご覧になりたかったのですか?」
「別展示会場の拷問具」
「え?」
「拷問具」
「え??」
「拷問具展示されてる、ちょっと興味ある」
ガーネは鶏肉のソテーを警戒した顔で一口食べ、想定外に酸味のある味付けに眉を寄せると隣のカルセの皿に鶏肉を横流しし、別の魚を食べてみると見た目に反して辛酸っぱい味に真顔になって斜め前のディアマントの皿に魚を乗せた。
「ガーネ、これはなんじゃ」
「魚」
「そうではない、なぜ妾の皿に乗せた」
「そこのスペースが空いてたから」
「そうではない、なぜ食べずに妾の皿に乗せる」
「お前、こういう味付け好きかなぁって。嫌いだった?」
「とても美味しい。妾、この魚が今日の夕餉の中では一番好きじゃ」
「ほらな」
「……ガーネは今日の夕餉、どれが一番美味しかった?」
「全部嫌い」
*****
夕食後、ディアマントは湯浴みや寝支度を済ませると当然のようにガーネを部屋に呼び付けるため侍女長を遣わせた。
別室で特務と打ち合わせをしていたガーネは、侍女長が来たことで要件を何となく察しながら手元の書類を要件を言われる前に片付け始めた。
「……特務総監様」
「なんだ」
「あの、陛下がお部屋に来いと仰せで…トランプをして遊びたい、と」
「わかった、今行く」
トランプは建前かと理解した上でガーネが立ち上がると、ディアマントの部屋へと向かって扉を叩いた。
返事を待たずにそのままドアを開けると、ディアマントがどこか安心したような顔で小さく息を漏らしたのを確認して近くに歩み寄って膝をついた。
「お呼びですか、お姫様。トランプ?」
「う、うむ。トランプで遊ぶのじゃ」
「仰せのままに。何する?」
「ばば抜き!」
「…………2人で?」
まあいいか、とテーブルにあったトランプに手を取り、敢えてディアマントの隣に腰を下ろすとガーネは慣れた手付きでトランプをシャッフルし、それぞれにカードを配布した。
互いにカードを確認してペアになっているものを場に捨てていくと、あっという間に数ペアずつになってしまい、ディアマントは手札を見てハッとした顔でガーネを見た。
「ふふん、ガーネ!お前、ばばを持っておるな!」
「2人なんだから、お前が持ってなかったら俺のところにあるだろうが」
それもそうかという顔でディアマントがガーネの手札を引き、ガーネはディアマントの手札を引いていく。揃えば場に捨て、を何回かしたところでディアマントの手元にジョーカーが来てしまった。
慌てて残り少ない手札を手元で混ぜると、ディアマントはガーネに向かって手札を差し出した。
ガーネは少し考えるようにディアマントの手札の3枚の背面を眺めてからディアマントの目を見つめた。
「はやく引くのじゃ!」
「真ん中?」
「それは秘密じゃ」
「じぁ右」
「内緒じゃ!」
「左か」
「教えぬ!!」
「じゃあ、これかな」
ガーネが左のカードを引き、自分の手札とペアになったものを場に捨てて残り1枚となった手札を差し出した。
「……イカサマをしたな!」
「あ、バレた?」
どう足掻いてもガーネの勝ちは変わらないため、ガーネはディアマントの手札のペアになっている方のカードを抜き取り場に捨てるとディアマントの手元にジョーカーを残した。
「今日はどんなイカサマをしたのじゃ」
「今日はって、毎度俺がコスい真似してるみたいな言い方。今日はアレだ、お前の目にトランプの模様反射してたから、真ん中がジョーカーなの見えた」
手を伸ばして昼間までと違ってゆったりとサイドに結わえた髪に触れて撫でてからすりっと指先で左頬を撫でた。
まだ薄らと赤みが残るそこを見て眉を寄せると、ディアマントは子猫が気まぐれに戯れるようにガーネの指先に頬を擦り寄せた。
「まだ気にしておるのか」
「そんな簡単じゃねぇんだよ、みんなが言わんとしてることもわかるし。でもどうしてもあと0.5秒早く踏み出してたらとか、あの野郎の目の色が変わった瞬間にせめて半歩だけ踏み出してたらとか、…そしたら、防ぐことは出来なくても盾にはなれたのかなとか」
「妾、お前のそういうところは短所だと思うぞ」
「心の問題だからどうしようもねぇわ、…多分、叩かれた対象がお前だから……俺の…世界で一番、大事な女だから」
「……ガーネのばか、イカサマ男」




