508話「ロリータ」
ラズリの宿泊する部屋で治癒魔法をかけてもらったディアマントは、目敏く見つけたものをぴしっと指をさしてラズリに声を掛けた。
「ラズリ、ラズリ」
「……なによ」
「妾、これがいい」
「えー!?アタシのお気に入りなのに!」
「いやじゃ!これがいい!これ!妾これがいい!!」
「わかったわかった!!王都帰ったらなんかお礼してよね!!」
「うむ!」
にっこりと嬉しそうに笑みを浮かべたディアマントは、満足そうな顔で頷いた。
ラズリの部屋故にさすがに同席は控えたガーネは、この間にジェレイドたちと街中の散策ルートと時間などの確認をし、調整をしていた。
「隊列は縦だけじゃなく横にも厚めにしたい。そうなるとここの道は少し狭い」
ガーネが地図を指さして道をなぞりながら真顔で言うと、先程あんなことがあったばかりということもありジェレイドもエーリックも小さく頷いた。
「なら、こっち通ってこう向かうか」
「…そこを通ると、陛下の行きたがっていた博物館があるが…」
ジェレイドがエーリックの示したルートの先の博物館を指差すと、ガーネが腕を組んで返した。
「安心しろジェレイド。今日は休館日だ」
「明日行きたい!って言わないかな陛下」
「大丈夫、明日は神殿視察だ」
「……さすが、全部潰してくるじゃん」
「本音は、せっかくだし連れてってやりたいし見せてやりたいけどな。俺もちょっと興味あるし。……連れてってやるとしたら、明後日の帰る日かな。どうせ夜に出発だから、日中ねじ込めると言えばねじ込めなくもないし」
とりあえずはディアマントご所望のサボテンの砂糖漬けを購入しに向かうルートを確認し、『どうせ途中であれはなんじゃ!が始まるだろうし』と一同暗黙の上で一息ついた。
「……サボテンの砂糖漬けって、美味い?」
「ガーネ様お土産で買ってきて下さったじゃないですか、サボテンのシロップ漬け。周りをお砂糖でまぶして少ししゃりっとした感覚のものですわ。美味しいですわよ」
カルセがガーネたちの元に冷たいお茶と豆菓子を配膳し、ガーネはその茶菓子ですら嫌そうな顔をしてエーリックの前に押し出した。
「あー、あの得体の知れないやつ……なんでもいいけどさ、俺せっかく身体作り直してほぼ元に戻ったのにこの地域の飯が口に合わなすぎて痩せたんだけど」
「好き嫌いが多すぎでしてよ、いつも言ってますでしょう?」
「だってこっちの飯、辛いか酸っぱいかすーすーするかゲロ甘いかばっかなんだもん。全部嫌いなんだけど。なんだこの種」
「種じゃなくて豆のシナモン和えじゃねーの…」
「種じゃん」
少しして侍女長とラズリが部屋に入って来ると、街散策用に着替えていたディアマントがいつものように部屋に入ってきた。
「どうじゃ!見よ!似合うか!」
「……え、どうしたその服」
顔の腫れは相当引いて化粧でほぼ誤魔化せているとはいえ、若干の赤みは残っていた。
それを誤魔化すために、ラズリのゴスロリ服のボンネットを拝借し、それを選ぶ時に見つけて『着てみたい』とねだったゴスロリドレスを纏ってポーズを取っていた。
「アタシの服。『いやじゃこれがいい、これ、妾これがいい!』って聞かなくてしつこいから」
「あ、なんかウチの子がすんませんクソババァ」
「アンタ謝る気あるの?自分のカノジョでしょ?」
「ガーネ!似合うのか!似合うのじゃ!」
「それ似合うって言えって強制じゃん。あー、うーん、似合わなくは無いけど俺の好みではない」
珍しくガーネが褒めなかったことでショックを受けた顔のディアマントと、その様子を意外そうに周囲は見ていた。
「へ、へ、変なのか。お洋服はふりふりでとても可愛くて、妾着てみたくて、妾、ガーネに可愛いって言ってもらえると思ったのじゃ」
「だから似合わなくはないって言ってんじゃん、俺の好みじゃない。ロリータなら…あのー。なんつーの、アレ、もう少し白っぽい感じ?っつーのかな、カテゴリがわかんねぇけどなんかもっとシックな感じの…アレなんつーのラズリ」
「クラシカルロリータ?まあ、陛下はゴシックロリータの系統ではないわよね。メイク次第でそういう方面にも出来なくはないけど、確かに陛下はゴスロリとか甘ロリとかよりはクラロリの方が似合うかもね」
「ラズリはなんか顔のパーツをそういう方面で寄せて化粧してんじゃん、ラズリはもうその印象もあるから可愛いと思うけど、お前はなぁ…うーん。似合わなくはないけどやっぱ俺の好みじゃねぇわ」
「妾、初めてお前に褒めてもらえなくてガーンってなっておる」
「だからいつも言ってんじゃん、作ってくれた菓子でも飯でも不味かったら不味いって言うって。今日の服は単純にお前が着たら俺の好みじゃないってだけ、そのクラシカルなんちゃらだったら多分似合うんじゃねーの。まあいいや、行きますよ陛下」
ガーネがディアマントに手を差し出し、むくれた顔をしたまま肘に手を添えて歩き出した。
チラチラとガーネが隣で手を取って歩くディアマントを見て、何かに気付いた様子で「あっ」と声を上げた。
「なんじゃ」
「そも、俺『年下』って別に好みじゃないんだよ。だからだ。なんか、子供連れて歩いてるみたいだからあんまりそそられないのかもしれない」
「……そそる?」
「あれ、俺なにか変なこと言った?」
「そそるとはなんじゃ、おとこのろまんか」
「それはうなじだろ」




