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断罪ディストーション  作者: 梦月みい
第三十九章『勘査』

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506話「ことば」

皇国使節団の見送りの時刻。

化粧を直したディアマントは、多少マシになった状態の頬のまま、馬車寄せの前にヘルソニアやガーネたちと整列をした。

ガーネは普段よりももう半歩近くに控えており、皇国側も緊張した顔で一礼をしていた。

「……女王陛下、改めて今回の件は皇国として謝罪を申し上げます。帰国後早急に、父である皇王陛下へ報告をいたします」

スリラハが高飛車な態度を潜めて深々とディアマントに頭を下げ、スリラハの傍に控える護衛とタマスも主であるスリラハ以上の角度で頭を下げた。

少し遠くにラヴィハの姿を視認し、どういう感情なのかラヴィハが傍に歩み寄って来るとスリラハも少しだけ苛立ったような顔をしたが、皇位継承権の序列が邪魔をしているのか表立ってなにかを言うことは出来ない様子で目を細めた。

「…ディアマント様」

「ここから先は私がお伺いします」

ガーネがすかさずディアマントの前に出てディアマントを自分の背中の後ろに隠すと、ラヴィハはにこりの人当たりのいい笑顔を浮かべてガーネを見た。

「………ニカシュタ・ヴァルガスィヤ・サイニカ・マートラハ」

小さく呟いたラヴィハの言葉に、スリラハはあからさまに小さく肩を竦め面倒そうな顔をした。

ガーネは言われた言葉を理解して目を細めると、ラヴィハを真っ直ぐに見つめて毅然とした態度で口を開いた。

「エータド・ラージュニャーハ・ウパリ・プラタマ・プラハーラ・ルーペーナ・グリヒャテー。イタハ・パラム・ラージャ・ラクシャカハ・アハム・プリッチャーミ。マー・バイシーハ。ニカシュタスィヤ・アピ・ジャナスィヤ・スヴァーミ・ラクシャナ・カーリヤム・アスティ・エーヴァ」

ガーネの口から流暢すぎるメイジーエ語の反撃が来ると、ラヴィハもスリラハも目を見開いた。

先程は『制圧した』と、『さっさと引き取れ』程度の言葉であったため警備上最低限の単語を学んでいただけかと思っていたところに、ラヴィハの嫌味が正確に届いただけでなくそれに対して外交上満点の返答を返してきたのである。

スリラハはそれを理解すると、自身たちの失態で不利な状態であるにも関わらず、思わずといった様子で笑みを浮かべた。

「やはり、貴方のこと…殺さずにいて良かったですわ。お前たち、早くお兄様を馬車に乗せて。これ以上皇国の恥を晒さないで」

スリラハの命令でラヴィハが護衛に引き連れられて馬車に乗り込むと、タマスがスリラハの背後から数歩歩み出てガーネの前で一礼をした。

「…クヴェリニッグ ハーヴァ 『ウップハヴ・アヴ・インシグラ』オッグ 『ラグナロク・アヴ・ブロウムストラ』サズ? イェグ トルーイ ズヴィ ヴァルラ アズ ソヌル 『ウップハヴ』セ オルジン スヴォナ ストウル。 ヴィンサムレイガスト スキラズゥ クヴェズユ ティル ゼイラ、 セールスタックレガ ティル 『ブロウムストラ』」

「…………はぁ…?」

この2日で初めて聞いたタマスの声と、『発言の内容』に、ガーネは思わず目を見開いた。

ガーネが返答を返す隙を与えずタマスが再度一礼すると、タマスの合図に従って随行者一同が地面に膝をついて座り手をついた。

「それでは、今回はありがとうございました。また改めて、ご連絡申し上げます。お世話になりましたわ」

「……道中、気を付けて」

ディアマントも儀礼的に返答を返し、スリラハが馬車に乗るために踵を返した。その瞬間に、よく訓練された寸分の乱れもない動きでメイジーエの随行者一同が、地面に額を擦り付けるように頭を下げた。その花道の中を通過してスリラハが馬車に乗り込み、皇族車が発車して数秒経過するまで一同は微動だにしなかった。

侍従長と通訳と他数名の衛兵と近衛は、出迎えの際にこの光景を見てはいるが、侍従長たちも含め王国側はその『異質』過ぎる光景を目の当たりにして、全員が小さく息を飲んで皇国の馬車を見送った。


「……改めて、とんでもない国であったな」

ヘルソニアが小さく呟くと、ガーネは息を漏らしてからディアマントに手を差し出した。

「陛下、用も済みました。お部屋に戻ってお顔を冷やしますよ」

「うむ」

ガーネが先にディアマントを連れて侍女長とラズリと共に下がって行くと、ヘルソニアは一応いた通訳に目を向けた。

「ガーネとラヴィハ、何を話していた」

「は、皇子の方が特務総監様に対し、『軍人風情の下級階層の者が』と…特務総監様はそれに対し、『本件は女王陛下への暴行事件として扱っております。これより先は近衛騎士である私がお伺いいたします。ご安心ください。下級の者にも、主君を守る職責はございますので』と返されていました」

「あの導師は?ガーネに何を言っていた」

「それが、申し訳ございません。『メイジーエ語ではなかった』ため聞き取りができず、理解出来ませんでした。何語なのかも分かりかねます」

「…そうか、ならそちらはガーネに直接確認する。…陛下が、買い物をご所望されている。すぐは出発しない、短時間で済ませる。各自準備をせよ」

「はっ」

ヘルソニアの指示で一同は馬車寄せから動き出し、それぞれの持場へと戻った。

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