491話「お姫様」
ディアマントの着替えやヘアセット、化粧直しなどの身支度を終え、侍女長が部屋の前で待機するガーネへと声をかけた。
ガーネが侍女長と入れ替わりに部屋に入り、侍女長は警備『その他一切』をガーネへ託して自身の支度と侍女長としての全体の確認に一度下がっていくのを見届けてから、後ろ手に部屋のドアを閉めてディアマントのいる奥の部屋へと向かった。
ガーネが部屋に入るや否や、ドレスの裾を持っていつものようにくるりと回ってポーズを取るディアマントにガーネは『一番最初にこの可愛い姿を見る権利』を全身で享受してしみじみと呟いた。
「はー、かっっっわいい。どこの国のお姫様?」
「ふふん、この国の女王じゃ!」
「なんだこのドレス。細い肩見えてんぞ」
「オフショルダーじゃ!」
「腰ほっせーなァ、まぁた締めてんのか」
「今日はそんなに締めておらぬ!」
「そのルビー、どこの男に貰ったんだ。随分センスいい野郎だな」
「妾の犬じゃ!」
繊細な光沢のあるレースをふんだんにあしらった上品なアイボリーのプリンセスラインのオフショルダードレスに、編み込みを組み合わせたギブソンタックで上品に髪を纏め上げてルビーとダイヤをあしらったティアラを冠していた。
アクセサリーはガーネが贈ったピジョンブラッドルビーのネックレスとピアスを身に付け、ドレスやディアマントの美しい顔を最大限に引き立てていた。
「可愛い。この可愛いのにはどんな男がいるんだろうなーこんな可愛い女のことベッドでグズグズに抱き潰すような我慢の利かない、きっと悪い男なんだろうなー」
「うむ!頭はいいが、性格と口がとても悪い男じゃ!」
「へぇ、なんでそんなのと付き合ってんの」
「顔がいいからじゃ!顔がかっこいいのじゃ!」
「お前、そこは『好きだから』だろうが」
「ならお前はなぜ妾と付き合っておる」
「可愛いから」
「好きだからではないのか」
「ははは。さてそろそろ時間かな」
「ガーネッ!!」
「さ、行きますよ陛下」
ガーネがディアマントに手を差し出し、ディアマントはむくれた顔のまま手を取った。
そのまま手を握られてクイッと引っ張られると、ディアマントは思わず前につんのめってガーネの懐に飛び込む形になったところで、ガーネがそっとディアマントの身体を抱き締めた。
「なんで付き合ってるかって?愛してるからだよ」
「…ふふふ」
あっという間に機嫌を直したディアマントの化粧が崩れないように額に軽く口付けてから、改めて手を取って部屋を出て馬車寄せまでエスコートした。
「まぁ、陛下のドレス素敵ですわ。ルビーがとても美しいですわ」
「美しい妾が身につけるとそれだけでドレスも宝石も引き立つのじゃ」
「お前、もう謙遜やめたのか」
「わたくしもドレス久しぶりなので、少し緊張いたしますわ。いかがでしょうか」
馬車寄せに向かう途中で鮮やかなエメラルドグリーンのAラインドレスに真っ白なレースのリボンで髪をまとめていたカルセがドレスの裾を持ってディアマントにカーテシーをして見せた。
「似合うが、妾ほどではない。妾が一番美しく愛らしい」
「ええ、おっしゃる通りですわ。…ガーネ様、いかがですか?」
「似合うんじゃねぇの。な?ジェレイド」
「どうでしょうか。エスコートしていただくのに、不足はないかしら」
「と、そ、か、エッ、みっ」
ガーネの想像ではあるが、恐らく『「と」てもよくお似合いです、「そ」んな不足だなんて、「か」わいいです、「エ」スコートさせていただけるだなんて、「身」に余る光栄です』辺りだろうかと推測し、相変わらずなジェレイドの様子に肩を竦めたディアマントが、ガーネの袖を引いて耳元に口を寄せた。
「踊らせるか、あの2人。ガーネよどう思う」
「いいんじゃない。あの状態で踊れんのかは知らんけど」
小声で小さくやり取りをしている姿を見たカルセが、微笑ましそうに2人を見て首を傾げた。
「お似合いで羨ましいですわ」
「どれがじゃ」
「全部です、ドレスもアクセサリーも、隣に立つ殿方も」
「ふふん。一番はこの妾の愛犬じゃ」
ディアマントが得意気にガーネの腕に抱きつきながら笑みを浮かべた。
「なんでもいい、辺境伯はさておき皇国の連中も来るんだ。さっさと乗れ、遅れるとまずい」
ガーネが先程までの甘い雰囲気を容赦なく切りジェレイドに顎で示すと、ジェレイドが慌てて表情を切り替えて先に馬車へ乗り込んで車内の確認をしてから扉口から手を差し出した。
「ヘルソニア様」
「ああ」
ヘルソニアがジェレイドの手を軽く取ってさっさと車内に乗り込み、着席を確認してから再度手を差し出した。
「カ……聖女様」
「ありがとうございます、ジェレイド様」
カルセもジェレイドの手を取りドレスの裾を持ちながらゆっくりと車内に乗り込んで着席をすると、ガーネがディアマントに向き直って手を差し出した。
「女王陛下。お手をどうぞ」
「うむ」
ガーネの白手袋越しの手にグローブを嵌めた手を重ね、慣れた流麗な所作でドレスの裾を持って車内へと乗り込んだ。
ディアマントが着席したのを確認してからガーネは最後に周辺を確認し、馬車へと乗り込んでディアマントの正面の席に腰を下ろしてジェレイドが客室の扉を開いた。
合図でゆっくりと馬車が辺境伯邸宅に向かって動き出した。




