47話「楔」
「やはり仕掛けてきましたね、陛下。しかし想定通り、これで『直接手出しは出来ない』ものはほぼ確定かと…」
「向こうも粗末な手駒は、いくつか用意はしておるようだがな」
与えた部屋に意識のないガーネを運ばせ寝かせたところで、ディアマントとヘルソニアは私室に向かって廊下を進んだ。
人を払い、二人きりの廊下には二人分の声しか響かない。
ディアマントは自らの私室に入ると、ガーネの血に染まったドレスを肩から外して脱ぎ捨てた。
肢体が露わになり、ヘルソニアが側仕えの侍女代わりに着替えを用意するのを待つ。
「妾の持ち物に気安く手を触れて奪おうとした報いには、必ず誅を下す」
「そうですね」
ヘルソニアが薄い夜着を手にディアマントに近寄り、恭しく身に纏わせた。ディアマントはソファに腰を下ろし足を組むと、苛立ちを隠すこともせず薄暗い部屋の中で金色の瞳をぎらりと輝かせた。
「アレらは……特に『アレ』は、妾のモノじゃ。奪って許されるのも、壊して許されるのも妾だけ。愛を乞うのも妾に向けるものしか許さぬ。────絶対に許さぬ」
ヘルソニアは愛おしそうに目を細め、ディアマントの前で膝をついた。
「ディアマント様、私は貴女様に心酔し、貴女様をお慕いして実に4000年以上の歳月が過ぎました。貴女の願いも、想いも、野望も、所望するものは全て貴女に捧げる為に私はお傍におります。その為の手立ては、惜しげも無く貴女の為に使わせていただきます」
「ふん、何を今更。お前も妾のモノじゃ。……存分に働け、妾の為に」
「なんなりと、仰せのままに。我が女王陛下」
ヘルソニアはゆっくり姿勢を正すと、改めてディアマントに深々と頭を下げる。
ゆっくりと顔を向け直すと、先程までとは表情を変え手にしていた封鍵をディアマントに差し出した。
「……とりあえずの当面の問題はコイツじゃな」
差し出された鍵を手にすると、忌々しさを思い出した様子で眉間に寄る皺が深くなる。
目を細め、その鍵の『本質』に睨みを利かせた。
「……連中、ガーネたちの『内側』を無理矢理開こうとしたか」
「どうやらそのようで。…これは、ある意味では彼らにも我々にも相性の良くない仕掛け方をされましたね」
「妾たちには『探知』出来ぬな、これは。向こうの理に属する物は、こちらの理では測れぬ
…癪だが、あやつらを使うしかあるまい。そのために一段、こちら側からも『ズラす』必要があるな。まあ良い。もともとその為に『楔』は打っておる」
「ガーネはいかがいたしましょう」
「中途半端に開かれたせいであのザマよ。…だが、アレの『性質』の方が一段上だったな。あの男は今一度妾がしっかりとわからせてやるわ。……アレは、妾が手を下さずとも勝手に妾に落ちる。アレの一番の理解者は、妾だけじゃ」
ディアマントは改めて鍵をヘルソニアに投げ渡し、夜着の裾を優雅に翻してゆっくりと立ち上がった。
「妾の所有物たちに、此度の『労いの晩餐』でも催してやろう」
窓を開けると夜風がふわりと舞い込み、長い銀髪を揺らした。
「褒美に────もう少しだけ、『妾に触れられる側』へ上げてやる」




