476話「王室御用達」
「まぁ陛下、よくお似合いですわ」
「こっちとこっちならどっちが似合う?」
「うーん、そうですわねぇ…お肌が白いので、どちらかというとこちらの彩度が高いお色味の方がお顔がよく映えると思いますわ」
色鮮やかな布を次々顔周りに当てて鏡の前で吟味するディアマントに、侍女長とカルセがにこにこと笑みを浮かべながら傍で見守っていた。
時折カルセが少し離れた場所にいるガーネと店主の会話を持ち前のうさ耳由来の聴覚の良さで拾ってはいるものの、会話が流暢過ぎるメイジーエ語で全く内容が理解出来ずにいた。
ただ、言葉のニュアンスやイントネーションからあまりいい類の話では無さそうであることと、店に入る前に『対応に入る』と合図をしていたため聞き込みか何かで話し込んでいるのだとカルセもショールやスカーフを手に取って眺めた。
「へー、こういうレース可愛い。アタシこれ欲しい」
「あ、先輩似合う!」
「あたしもこういうレースの付け襟どうかしら、似合う?」
「なんか窮屈そうで可哀想、付け襟が」
「ひどい!!」
「アンタ自分の体格考えなさいよ」
「僕この木彫りのナイフ欲しいなぁ、すごくない?めちゃめちゃいい鋼使ってて品質超いいよ!手入れして使えば一生物だよこれ!」
特務もそれぞれ盛り上がる中で、ガーネが名乗っているのが遠巻きに聞こえなんとなく空気感が変わったのに気付き、視線が自然とガーネとヴィシュヴァへと向いた。
握手を交わした後にガーネがディアマントの傍に寄ってくると、丁度ディアマントがドレスに仕立てるための布を選んでいるところだったらしく、ロール生地をいくつか並べて鏡の前で吟味していた。
「欲しいのあったのか」
「悩んでおる、どれも素敵じゃ。ガーネはどれがいいと思う」
「俺の好みで言うならこういうハッキリしたマゼンタピンクとかヴェルデグリーンとかコバルトブルーとか。お前肌白いし顔立ちハッキリしてるから似合うと思うけど」
「なら、今お前が言ったものじゃ!あとあっちにあった硝子の置物!妾、本で見て綺麗だったから欲しかったのじゃ、部屋に置きたい!」
楽しそうに店内を散策するディアマントを見守りつつ、ガーネは特務の面々にも視線を向けた。
「お前らはなに悩んでんの」
「アタシ、このリボン欲しいんだけどデザイン悩んでる」
「ラズリならこっちの太いレースの方。顔が可愛いから細いリボンより太いリボンのが顔に目が行く」
「なら、こっちにしよっと」
「ガーネくん!私も見立てて!」
「スメイラはなに欲しいの」
「スカーフ欲しいんだけど、色悩んでて…候補はこの黒いやつと水色のやつ。どっちが似合う?」
「スメイラなら黒」
「な、なんで?」
「美人だから、淡い色より黒い方が映える」
「……な、…なら、黒にしようかな」
「似合うよ」
「ガーネ様、わたくしも見立ててくださいまし」
「カルセはなにが欲しいんだ」
「わたくしも、陛下みたいなショールが欲しくて…こちらの黄色いものも素敵ですし、ピンクのものも捨て難くて」
「どっちも似合うけど、俺個人としては黄色のが好きかな。…ジェレイド、お前は『どっちが好き』だ」
そこでガーネはちらちらとカルセを気にしていたジェレイドに唐突に声を掛け、『クソヘタレ中略カルセ以下略』のチームメンバーであるスメイラ・ラズリ・エーリックは『うまい』と感心した顔で挙動不審なジェレイドを見守った。
「近衛総監様、わたくしにはどちらが似合いますかしら」
カルセも背景は知らないながらもガーネがジェレイドに話を振ったため、ちょこんと首を傾げて黄色とピンクのショールをそれぞれ顔周りに当てた。
「わ…わ、私は…ピンクが、華やかで、愛らしくて、か、か、かわ、可愛らしいかと…どちらもよく、お、…お似合いです」
「あら、ならせっかくですので普段あまり求めないピンクのものにしてみようかしら」
「ジェレイド、お前こないだから散々カルセに世話になってんだろ。お前がいいって推したやつなんだし、買ってやれば」
「まぁ、大丈夫ですわ。そんな、買っていただくだなんて」
ガーネが無言でジェレイドの脚を蹴り、置物を選ぶディアマントの傍に向かって行くと、その光景を見て察していたヴィシュヴァも妙に生ぬるく微笑ましい顔で会計場で手招きした。
「近衛のお兄サン、お会計コッチだヨ。プレゼントだね、包み紙はどんなのにしようかナ」
「え、えぇと…あの……お、オレンジで、リボンは赤でお願いします」
「オッケイ、ちょっと待っててネ。綺麗に包むネ」
にっこりと人の良い笑顔を向けて親指をぐっと立てて合図し、カルセの手元にあったピンク色の繊細なレース織りのショールを手にして包装をし始めた。
カルセの髪色のオレンジの包装紙に、カルセの瞳の色と同じ赤のリボンで丁寧にラッピングされた包みをジェレイドに差し出し、ジェレイドからカルセにそのまま包みを渡した。
「…ありがとうございます。大切にいたします」
すっかり赤面したジェレイドはそれ以上の返答も出来ず、会計を済ませてから逃げるように店外を警備へ行ってしまったが、『クソヘタレ以下略』は半歩ほど前進したかとここまでの道のりとガーネの相当なお膳立てに先の長さを感じて溜息を漏らした。
「で、陛下は?欲しいの決まったの?」
「これにする!あと、あっちのリボンも欲しい!それと向こうのショールも、いくつか欲しい!」
「はいはい。晩餐に合わせるならこういうレースのは?」
「欲しい!」
「なら欲しいの全部買ってやる」
「まぁ!特務総監様、また私費で!」
「良いんだよ、『グリーチェウト家当主からの個人献上』だ。特務、お前らも好きなの持って来い。買ってやる」
「え!いいの!?」
「おー、今持ってこないと買わないぞ、お前らはキリないから1人1つだからな。…侍女長と女官長も、欲しいのあったら持って来い」
「せっかくじゃ、言葉に甘えよ」
ディアマントも侍女長と女官長に対し小さく頷いて見せると、2人は少し遠慮したように先程見ていた商品を手にした。
「…でしたら、わたくしはこのストールを」
「私はこちらの硝子のグラスが気に入りまして…本当によろしいんですか?私たちまで」
「構わねぇ。俺は今、機嫌が滅茶苦茶いい。『欲しいもの』が手に入ったからな」
遠慮なしに持って来た特務一同の所望した商品とディアマントの欲しいものを計算させ、正規価格を提示される。その上でガーネは証書を取り出し、「一括」と短く伝え決済を促した。
「…あれ、ちょっと上手く出来なかった。この魔道具最近調子悪い」
「なら『こっちの証書』使え」
「………あ!上手く出来たヨ!証書読み取りの魔道具の不具合だったかナ。じゃあお兄サン、サインしてネ」
「はいはい」
そうして正規価格での証書決済分と、『10割り増し』の約束を履行するために敢えて別証書で決済させた分の『合計2枚』にサインをし、財布に証書をしまったついでにジェレイドが払った分のカルセのショール代金分の現金を出そうとしたが、ヴィシュヴァはそれを制した。
「ワタシ、野暮なことしなイ。アレは別だヨ」
「…そーか」
ふ、とガーネが笑って財布をしまうと、大量に購入した商品は迎賓館へ届けるように依頼した。
「他にも欲しいものがいっぱいあった!」
「欲しいなら言えば良かっただろ。どれ欲しかったんだ」
「もっと色々見たい!この店はガーネが言っておった通り、品質がとてもよい!」
「へぇ、そんなに気に入りました?なら、せっかくのご縁ですし、地域貢献も兼ねて『王室御用達』でもして定期的に商品買ったら良いんじゃないですかね。地域特性の強いものばかりじゃなくて、ラズリの買ってたようなレースとか汎用性の高いものまで色々ありますし」
「そうじゃな。妾、この店が気に入った!正式に御用達に昇格させるために、定期的に王城へ商品の納品をせよ。侍従長!」
「はい陛下」
先の約束通り上手いこと王室御用達まで見事に結びつけたガーネは、ヴィシュヴァと視線を合わせて悪どい笑みを浮かべた。




