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断罪ディストーション  作者: 梦月みい
第三十九章『勘査』

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475話「友好と『情報屋』」

「いらしゃいまセー、…っ!?」

以前と同じように若干の訛りがある店主に出迎えられたが、店主もディアマントとぞろぞろと入ってきた護衛に『噂の滞在中の女王陛下がこんなところになぜ』という顔で表情を強張らせた。

しかし、およそ1か月前に熱心にメイジーエ語を練習していた妙に顔の整った男たちを見て店主は「あっ!」と声を上げすぐに嬉しそうにした。

「プナ・アーガッチャ・イティ・マヤー・ウクェー、トヴァム・サトゥヤム・エーヴァ・プナ・アーガタハ。プナ・メールァネーナ・サントゥスタ・アスミ!」

「が、ガーネ。なんて?」

「また来てねって言ったら、本当にまた来てくれたんだね。また会えて嬉しいって」

店主のメイジーエ語に圧倒しながらディアマントが困惑した顔でガーネを見上げると、ガーネは即時通訳して言われた内容をディアマントに伝え、店主はガーネに近寄りとても友好的にメイジーエ式にガーネにハグをして腰を3回叩いた。ガーネも同じようにハグを返し腰を叩き返すと店主は非常に嬉しそうな顔でガーネを見た。

「タヴァ・アヌグラハーム・サヴィークルィトゥヤ・アーガタハ・アスミ。ママ・サハチャラーハ・バハヴァハ・サンティ・ヤドゥヤーピ」

ガーネが以前よりも格段に流暢になったメイジーエ語で『お言葉に甘えて来た。連れがぞろぞろいっぱいいるけど』と伝えると、店主は改めて驚いたように目を見開いた。

「お兄サン、すごく言葉上手なった!レンシュ、いっぱいしタ!?」

「アルパマ・エーヴァ」

ガーネがジェスチャー付きで『少しだけ』と返すと、店主は機嫌良さそうに声を上げて笑った。


「あ!これ、お兄サンが奥サンに買ったショールとリボンだネ!奥サンすごくきれいな人!え!?あれ!?奥サン女王サマ!?」

「お、おおおおくさん!?」

ディアマントが面食らったような顔をしてガーネと店主を交互に見るも、ガーネはさして気にした様子も無く肩を竦めた。

「女王陛下の御前だ。今日は俺は『王室近衛騎士』として来ている。ついでに、嫁じゃない。『アドゥナー・ヤーヴァト・ナ』…内緒だぞ」

「へぇ!お兄サン、女王サマ愛してる!?」

「愛してるよ」

「なら大丈夫!応援する!」

「ははは、ありがとよ」

「???ガーネ、なんの話じゃ」

合間に挟まったメイジーエ語のせいでガーネが何を言ったのかがわからずにディアマントは困惑したが、鼻で笑ったガーネにあしらわれた。

「ほら、陛下店内見せてもらってください。この店は多少観光地価格で盛ってはいますけど、相当良心的だし品質は間違いないです。下見で確認した俺が保証します」

「うむ!触っても大丈夫なのか!」

「ダイジョブ、欲しいのあったら声かけてくれたら取ってあげまス。ゆっくり見てくだサイ」

「お前らも、店内見ていいぞ」

ガーネが特務の面々や侍女長・女官長らに声を掛けると、一同はわいわいと店内を見て回った。


「プラシュヌム・プラシュトゥム・イチチャーミ。アンタラ・ジャガティ・タヴァ・プラバーヴァハ・キーヴァーン・アスティ」

ディアマントたちが一度侍女長たちと店内を散策する間、ガーネは本命である店主に近寄りメイジーエ語で声を掛けた。その内容に、店主は一瞬だけぴくりと顔を引きつらせたものの、すぐにまた人の良さそうな表情に戻りガーネにニコリと笑みを向けた。

「アハハ。……アハム・トゥ・サッチャリトハ・サァーダァーラナ・ナーガリカハ・アスミ、キム・ナ?」

『聞きたいことがある、お前は裏社会にどの程度顔が利くんだ』という問いに対し、『善良な一般市民ですけど?」とにこやかに返答され、ガーネは腕を組んで目を細めて視線を向けた。

周辺には敢えてわからないようにメイジーエ語で会話を続けることにし、少しだけ考えてから再度口を開いた。

「そんな善良そうなツラしなくたって、こちとらそういうのは『匂い』でわかる」

「フーン、お兄さんいい人そうに見えてたけど、メイジーエ人差別する?やっぱり」

「いや、メイジーエ人だからとかじゃなくて『お前が使えそう』だという判断で聞いてるんだ。俺は『グリーチェウト家』の嫡男…現当主だ、と言えば、お前はどういう反応する?」

「へぇ?あの噂の?…なら、話が変わってくるかな。どの程度って言ったら、『まぁそこそこ』かな。こういう商売してて、この規模の店構えるとなったらやっぱりそれなりにね」

「店構え見たらなんとなくわかるっつーの」

「なのに女王サマ連れてきたんだ?」

「それはそれ、これはこれってやつだよ。報酬は今日の連中の買い物全部、販売価格の3割り増しでどうだ」

「上手いラインついてくるね。いいよ、何聞きたいの?」

「オエィセ区のダンダナ教の礼拝所の導師について」

「あぁ、『アスリタ・スーリャ』?お兄さんたちが前回来てた5日後くらいかな、飛んだよ。行き先まではさすがに知らない」

「……ほー。あの野郎、どこでどういう繋がりがあるのかは知ってるか」

「ワタシ、メイジーエ人だけどあんまり宗教に興味関心がないからこれは又聞きの情報になっちゃうけど」

「構わん」

「ヴェルーティン王国の中で『邪教』って呼ばれてる団体の、幹部の眷属ってウワサ」

「ほー。やっぱりな。アスリタのボスはどんな奴かは知ってるか」

「んー」

店主は一瞬押し黙って店内を見回し、ディアマントの後ろ姿を見てから人の悪い笑みを見せてガーネに視線を向け直した。

「3割じゃここまでかな」

「ハ、商売上手なことだな。いいだろう、『販売価格の10割』でどうだ。ただし、割増分は俺に回せ。女王の買い物は俺が会計する予定だから、俺に付けろ。そのくらいの小細工は協力してくれんだろ。大々的にやると『国費で収賄』だからな」

「勿論。…どんな人物なのかまでは知らないけど、メイジーエ人の『女』だね。どこかの獣人族との混血って噂はあるけど、見たことがないし噂レベルだから真偽の程は定かじゃない。ただ…」

「ただ?」

「喉元に入れ墨が入ってるって噂。お兄さん知ってるかな、喉の入れ墨はメイジーエでは『霊能者』。皇族を抜いた、国民の最高位。中でも『瞳の入れ墨』は、霊能者の中でも一番力が強くて、まぁワタシみたいな『宗教アンチ』から見たら『一番思想が歪んでる』称号でもある。思想が歪んでるのはワタシの感覚だけど、でもそれはメイジーエではわりと当たり前というかメイジーエの思想に『忠実』というか、ヴェルーティンに来たからこそ余計にそう見えるけど端的に言えば『ヤバい』ってこと」

そこまで聞いたガーネは、七律冠第七席『貞節』の使者、エリウ・トゥヒューカ・スコルピの特徴に合致するなと結びつけた。

メイジーエ人の女、猫族との混血、喉元には『目の形の入れ墨』があった。

「…ほう、成程な。お前、俺に直接飼われる気はあるか」

「アハハ、条件次第かな」

「陛下はこの店の織物は相当気に入ってる。俺が口を利いて、この店を王室御用達にしてやることはできるかな。それと、『仕事』の度に俺のポケットマネーで別報酬」

店主は頭の中で色々と算盤を弾いて、ガーネに視線を向けた。

「御用達の話は、どの程度信用出来る?今すぐこの場でって話じゃ当然ないでしょ」

「まぁそうだな。まだ王城内でも、今日随伴している責任者クラスの連中と国内の高爵位貴族くらいしか知らん話ではあるが、俺は女王と私的な交際関係にある。俺が言えばあの女は言う事を聞く。現に、あの女の俺を見る目と態度を見ればわかるだろ?俺にべた惚れだ。それと、さっき言っただろ。嫁じゃない、『今はまだ』とな」

「…いいよ、その話乗った。商売人はやっぱ人を見るからね。お兄さん相手なら信用出来る。『ヴィシュヴァ・アヌラガ』、ワタシの名前」

「ガーネ・ディーム・グリーチェウト。肩書はヴェルーティン王国王室近衛騎士兼王命執行最高責任者兼異界対策統裁官兼特務総監」

「長い長い」

「近衛騎士で特務総監。誰も正式名称でなんか呼ばん、何かの式典の時くらいだ」


ここまでメイジーエ語で会話を繰り広げ、想定どおり周辺の随行者には誰一人として内容は理解されないまま、ガーネとヴィシュヴァはメイジーエ式に『契約締結の契』として右手の拳を互いに軽く合わせてから握手を結んだ。

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