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断罪ディストーション  作者: 梦月みい
第八章『調律』

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44話「同期不全」

「とーちゃく!僕とスメイラさんの出会いの地ですね!」

「カルセさん、私とりあえず宿の部屋押さえてくる。ガーネくんとそこの眠り姫寝かせなきゃ」

「そうですわね、わたくしは馬車の穢れを浄化しておきますわ。ガーネ様、スメイラさんがお戻りになるまで一度お祈りいたしますのでそのままで」

「え、え、無視…?」

村に到着し、ガーネは馬車ごと祈りの洗礼を受ける。

しかしどうにも皮膚の表面と内臓がちぐはぐになるような、骨格が入り乱れるようななんとも言えない感覚は消えてくれなかった。

簡易的な祈りを終え、馬車を降りるもガーネの顔色は悪いままだった。


「…ガーネくん、平気?」

「あんな道の悪いとこ全速力で爆走された中でちょこまか動く狼連中相手にしたら酔いも悪化すんだろ…悪い、ちょっと休ませて…」

ふらふらと宿に向かうガーネの背中を見送り、スメイラは悩ましげに息を漏らす。

「……サイフィルくん、ガーネくんとあの『封鍵』の様子、どう?」

「正直、変わらず。かな…あの遺物がガーネに影響してるのは間違いないとは思うけど、アレがガーネに悪さしてるような感じも、ガーネが悪い影響受けてるようにも僕には『視えない』から…あんな物体、初めてだよ」

「わたくしも…先程も申し上げましたが、祈りが届かずに滑る…と言いますか、鈍いと言いますか…何かがずれるような…、うまくお伝えできず申し訳ございません…」

「…とりあえず、どう転がるにしても…あんなよくわからない危険なもの、至急禁書庫に安置しないと」

スメイラは小さく息を吐いた。

「ガーネくんには申し訳ないけど、一度休ませよう。出発はそれからだね」


誰も反対しなかった。

そうするしかない、という消極的な一致であった。


村はいつも通り静かで、異変など何一つ起きていない。

風も、水も、人の声も、普段と変わらない。


何一つ、変わっていないはずなのに。

三人とも、同時に言葉を失う。理由は、誰にも説明出来なかった。


「……少し…休もうか」

休憩、というよりも、確認に近い提案だった。


スメイラは押さえた宿の一室で仕事をしながら、カルセが魔法で眠らせた調査員の様子を見守る。

カルセは正体の知れない遺物が村の中にあることを懸念し、村の湧き水の近辺で祈りの儀式を始めた。

サイフィルは、別行動をしているうちにと『普通の』食事を買い込み、宿の部屋に籠もった。



「たまに『ちゃんとした』栄養素いれておかないと、肉体が持たないからな…」

小さく独り言を呟きながら、パンに齧り付いたサイフィル。

味はわかる。咀嚼もしている。飲み込めてもいる。

なのに、『食事をしている』感覚がない。満たされない。

「…なんだこれ」



「────…やはり、祈りの効果が…ずれる」

カルセは困ったように眉を寄せ、湧き水に両手を浸ける。指の隙間をさらさらと流れていく透明な水は、間違いなく神聖力が注がれて満ちている。

縋るように、願うように、カルセは円環の意匠を握り締めて再度祈りを捧げる。

「…どうしてかしら…」



ペン先が、紙の上で止まった。

書けている。文字も読める。思考も、している。

なのに考えが一切積み上がらず、崩れていく。

疲労ではない。不安でもない。

「……集中、出来ない」



────俺のことだけ、盲目的に好いていてくれている。

それは幻想でしかなくて、手からこぼれるようにいなくなった。

理由はわからない。ただ、意味がわからなくて、理解できなくて、わかりたくなくて、悔しくて、憎くて、だから

『殺してやろうか』


「────…ッ!!」

ドクドクと心臓が無理矢理に血液を送り出す拍動が、体内の異物を循環させて巡らせるように不穏に侵食する。

得体の知れない『悪夢』に飛び起きたガーネは、今見た光景が夢なのか記憶なのかわからず震える両手を見下ろした。

これが『いつもの夢』なら、なにか違う。

「う、…ッ!」

猛烈な吐き気に耐えられず、トイレに駆け込んで何度も吐き戻した。

吐いても吐いても、身体の中の異物感は消えない。

我が物顔で居座るような、不愉快極まりない感覚なのに、どうしてか収まりが良くて、やはり気持ち悪くて気持ち悪くて気持ち悪くて、気持ち良くて堪らなかった。



*****



夕刻、一行は完全に日が落ちる前にと御者に無理を言って出発することにした。

「……異物の影響とは言え、アイツの具合悪そうなとこなんてちょっと意外だよなぁ。一応人の子だった、ってことか。傍若無人な俺様戦闘狂め」

全員が明らかな異常を抱え、一際ガーネの様子がおかしいことは誰もが見て取れた。普段であれば蹴り飛ばされそうなサイフィルの軽口も、この時ばかりは誰も反応しなかった。

サイフィルなりの場を和ませようという斜め上の気遣いだったり、普段の調子で「ぶち殺すぞ」とガーネに凄まれるのをある意味期待して、という明後日の思惑がわからなくないほど、短くとも浅い付き合いではなかったからだ。

「…でも、ガーネくんがこの状態だと『なにか』あった時の対処に困るね…かと言って、ここで一晩明かすのは一般人に被害が出る可能性を考えたら避けるべきだ。ガーネくん、申し訳ないけどあと3時間程、頑張ってちょうだい」

「……心配すんな、動けはする」

そう返したガーネの顔色は明らかに血色感が失せ、何度か吐いたらしく声が枯れていた。

「…ガーネ、正直お前のその加護が無かったら、僕らだったら15分も持っていられない。本当に申し訳ないけど、もう少しだけ耐えてくれ」

「平気だ、……ちょっと普段より酔ってるだけ」



────『過去』なのか、『今』なのか、それこそ『前世』なのかわからない。

どの軸の『自分』なのか、今この場に立っているのは誰なのか、急に理解できなくなって突然納得する。

体内の違和感の次は、記憶がズレ始めた。知らない自分が見える。聞いたことのない声が聞こえる。なのに全部知ってるし、なにもわからない。

ただ、『左手で握った』感覚だけが、妙にクリアだった。

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