448話「リエーブ」
「母上」
「なんですかガーネ」
「なんで腕組んでるんですか」
「ルイを思い出すわ。ルイより大きいかしら。ガーネ、貴方背は何センチあるの?」
「181ですけどなんで腕組んでるんですか」
「あらそうなの、ルイより大きくなって。ところでガーネはお城の中でどのくらい偉いのかしら。みんなガーネに敬称つけてぺこぺこして、あんなに小さかったのに」
「小さくねぇんだよ!あんまり自分で自分のこと偉いとか言いたくないけど立場と肩書きだけ見たら普通に偉いんだよ!!なんで腕組んでるんだよ!!」
「いいではないですか。母様とのスキンシップです」
「そういう年齢じゃねぇんだけど!!」
「あらやだ、反抗期かしら」
「とっくにその時期は過ぎてんだよ!!」
「なら思春期?」
「過ぎてるっての!!いくつだと思ってんだ!!」
謁見の間でのやり取りに思わずと言った様子でヘルソニアが肩を揺らして笑い、ディアマントはむくれた顔をして脚を組んでガーネを睨んでいた。
「リエーブ」
「なにかしらディアマント」
「なぜガーネと腕を組むのじゃ」
「私の可愛い坊やだからよ」
「妾の犬じゃ」
「あらいやだ、わたしの可愛い坊やを犬呼ばわりだなんてとんだ小娘だわ」
「妾の男じゃ!」
「わたしの息子よ」
「ヘルソニア様、俺具合悪くなってきた」
「……」
「え、シカト?」
文字通りカオスとなった謁見の間で、警備で同じ室内にいた近衛たちはガーネを気の毒そうな顔で見ては視線が合ってとばっちりを喰らわないようにすぐに視線を泳がせ、何も言えずに視線だけが無意味に交差していた。
「おい、バチるな。いい加減にしろ。一応女王だぞ、一応」
「一応ではない!妾は女王じゃ!」
深々とため息を漏らしたガーネは額を押さえ頭の奥が痛むような感覚を覚えつつもリエーブの腕を離させてわざと見せつけるように最敬礼の姿勢を取った。
「陛下、奏上の許可を」
「……ふん、許す」
「母リエーブの、魔女としての登録の家名の変更の希望があるようです。旧姓から新姓へ、併せまして便宜上『死亡』の扱いにしておりましたので、戸籍の修正を」
「なんじゃ、そんなことか。面倒じゃ、ヘルソニアか侍従長に任せる」
「では侍従長に任せます」
「……え、……は、はい、…え?」
ディアマントが『面倒』と側近であるヘルソニアと侍従長に指示をし、ヘルソニアは呆気なく侍従長に業務の下請けに出した。困惑した侍従長を無視してディアマントは膝をついて頭を下げるガーネと隣でふてぶてしく立っているリエーブへ視線を向け、ガーネに立つように促した。
「ガーネ、面を上げよ。姿勢は正してよい」
「は」
「明日の評定、外遊前最後か。リエーブも同席させよ」
「げ、……え。なんで?」
「いやよ、わたし評定だなんて大嫌い。だって退屈なんだもの」
「命令じゃ、拒否は許さぬ」
「なら母様、ガーネの隣に座るわ。それなら出てもいいわ」
「ガーネの隣は妾が座る!!」
「あーあー誰でもいいよ席順なんかどうでも…」
げんなりしたガーネが疲れ果てた顔で呟き、しばらく似たような問答を繰り返してリエーブを連れて謁見の間を出た。
そのまま特務室へと戻り、官服を脱いで夜勤のため部屋で控えていたカルセに声を掛けた。
「出掛ける。そのまま上がる。疲れてる。任せた」
「か、かしこまりました。行ってらっしゃいませ」
「ほら飯行くんだろ、行くぞ」
「ガーネ、母様とお食事嬉しい?」
「はいはい嬉しい嬉しい」
*****
ラズリに予約させた店に入り、奥の個室へと通され席に腰を下ろした。
「店、ここで合ってる?父上と来たって店」
「ええ、お魚をね、ぴってしてじゅってして……こう…ほら」
ガーネは自分の母親ながら、話せば話すほどバカなのではないだろうかと不安な気持ちになり、先日受けさせられた未だ結果を聞いていないIQテストの結果が酷く不安になった。
幼少の頃に喋っていた母親はこんなに頭が悪そうだっただろうか、自分はバカではないと思って過ごしていたが本当にこの人は自分の母親なのか、それとも自分は実はバカなんだろうかと不安が頭の片隅で渦巻きつつ、それを誤魔化すようにメニューを眺めた。
「なに食うの」
「なんでもいいわ、相変わらず値段の書いていないお店ね。時価というやつなのかしら」
時価なのももちろんあるが、女性に渡されたメニューに値段が載っていない格式の店なのだろうと、メニューを閉じてウェイターに声を掛けた。
「適当に2人前、コースでもなんでもいい。任せる」
「かしこまりました。お飲み物はいかがいたしましょうか」
「何飲むんですか母上」
「母様シャンパンがいいわ」
「適当にシャンパン。銘柄も値段も、何も気にしないからいいやつ持ってきて。俺は水でいい」
「承知いたしました。ご用意いたします」
ウェイターはガーネの身なりを見たのか、そこそこの値段の張る冷えたシャンパンを持って来て目の前で開栓しグラスに注いだ。
「……うん、美味しいシャンパンだわ」
「そーですか、良かったです」
「ガーネ」
「なんだよ」
「外遊はどこに行くのかしら」
「西、オェイセ」
「ふぅん……西には聖域に神殿があるわね」
「まさしく、それの視察も外遊の目的の一つだ。ディアマントが評定に出ろって言ったのも、多分その絡みだろ」
「でしょうね。母様面倒くさいわ」
「俺だってめんどくせーよ…」
少しして高級そうな魚の切り身を目の前の鉄板で調理し始めたのをぼんやりと眺め、一方的に比較的どうでもいい話を振られ適当に返答するのを食事の間中付き合わされ、食べた気のしない夕食を終えた。




