444話「スメイラの逆襲」
特務全員がテストの全行程を終え、着替えて訓練場に集まりガーネの言いつけどおりの最低限のランニングと筋トレを済ませたところで、ガーネはラズリを呼んだ。
「なによ」
「お前を今日どうするか考えてる。例えば俺が敵だとして、もしこうやって掴みかかられたらどうする」
ガーネがおもむろにラズリの腕を掴み、刃を出していないナイフを振りかぶった。ラズリは咄嗟に掴まれていない方の腕をガーネの胸元に翳し、一瞬だけ霊力を掌に集めて留めて見せた。
「相手の出方にもよるけど、こうやって霊力流して心臓潰すかしら」
「おっかね、お前は合格。反応の速さも問題ないな。何より小せぇから男に掴まれたら簡単に懐に入り込めるな、よし」
「なによ」
「アメジは魔導師長のとこ。ラズリは巫術官長のとこ行け。話は付けてある。今日からは実践だ」
「えー、あたし今更教わることなんてないんだけど」
「馬鹿かアメジ。年の功は侮れないぞ。魔力量だけで見ればお前の方が上かもしれないけど、経験が違うんだ」
「そうよアンタ、そうやって驕ってると足下掬われるんだからね。行くわよ」
なまじ今まで『筆頭魔導師と同等かそれ以上』と言われ、『女王認定魔導師』の称号を得ている自負があったためかガーネが思っていた以上にプライドが高かったらしく少しばかり不満そうにはしていたが、アメジの実力も共に実践で共闘した魔導師長とでは、先程伝えた通り『魔力量だけ』で見ればアメジの圧勝ではあるだろうが恐らく普通に捻じ伏せられるだろうと確信があった。
逆にラズリの方が素直だったのは意外であり、ガーネは感心した顔で魔導師長と巫術官長の元へ向かった2人の背中を見送ってから残った3人に向き直った。
「さて、お前たちも今日から実践だ。まずは『最低限』、敵に襲われた時の対処は逃げ方から。スメイラ、お前見本」
「え、わ、私?痛くない?」
「今は練習だから痛くねーよ。さっきのラズリと同じだ、こうやって腕掴まれたら…ラズリは術者、カルセも魔法が使えるが、魔法も霊力も扱えないスメイラとサイフィルは身体を使うしかない。さ、どうやって『逃げる』?」
ガーネがスメイラの腕を片手で掴み、スメイラも抵抗するように腕を引いてみたり身体を捩ってみたりするものの、想定以上にびくともしない様子に困った顔をしてガーネを見上げた。
「ぶ、武器は?」
「都合よくお前がなにか持ってるなら使っていいけど」
「む、むりだよ!ガーネくん腕の握る力ヤバいって!」
「俺より強いのなんざいっぱいいるだろ、俺の握力だってせいぜい90だぞ」
「せいぜいってレベルじゃない!!エイミーちゃんのことゴリラって言えないよゴリラ!!」
「なんて失礼な女だ、へし折るぞ」
「こわい!」
スメイラは少し考えてガーネの腰元のホルスターに装着された警棒に手を伸ばしそれを奪おうとするものの、体格差と腕の力に負けて思うように抵抗も出来ずにいた。
「お前さ、訓練だからいいけど俺なら腕掴んだ瞬間にお前の首絞めて折り殺してるぞ」
「折り殺すって初めて聞いた!こわ!やだ!!」
「そういうのも想定しろって話だ。いいか、カルセもよく聞け。まずこういう時は相手が男だったら真っ先に股間狙え、容赦なく蹴り上げろ。潰せ」
「わかった!」
「危ねぇ今じゃねぇー!バカ女!!」
スメイラの蹴りがガーネの言葉通り容赦なく股ぐらを狙うように振り上げられるとガーネも身の危険を感じてスメイラの足を押さえた。
「だって容赦なく蹴り上げろって」
「そうだな言ったな!俺が悪いな!」
「ガーネ、……僕、なんか…股間が痛い」
怯えた顔のサイフィルが何も攻撃を受けていない股間を押さえてガーネを見遣り、ガーネも思わずと言った様子で小さく頷いた。
「大丈夫だ俺の方がなんとなく痛い。…サイフィルこの女共危ねぇ、衛兵んとこ行って訓練用の防具借りて来い。俺の分も」
「わ、わかった」
*****
「よし、じゃあ今日はここまで」
トレーニングとはまた別の実戦形式での訓練に、一同普段とは異なる緊張感と疲労にぐったりと床に座り込んだ。
「えぇと……掴まれたらぱっと手を開いて自分の方に寄せて肘を上げる…小指を掴む…それから…」
「そうだ、こういうのは反復が必要だからな。やってないと咄嗟には出来ねぇから、『死なない行動』として今日のは日課のトレーニングに追加しろ」
「……ガーネ様、書類仕事教えて下さった時も思いましたが…やはり教えるの上手ですわよね」
「そうか?あ、カルセ。シャワー浴びて着替えたらちょっとお使い頼んでいいか。近衛に行って、ジェレイドに『会談中の特務の配置どうするのか』って確認して来てくれ」
「え?わたくしがですの?それは別に構いませんが……ガーネ様やスメイラさんを差し置いてわたくしがそのような確認をしてもよろしいのですか?」
「スメイラは別件頼んでるのと、俺はこの後侍女長の買い物に付き合う約束をしている」
「かしこまりました」
ガーネはスメイラに目配せをして、スメイラも了承したように小さく頷き隠し切れない笑みを零しながら立ち上がった。
その様子を見てサイフィルは首を傾げるものの、さっさと自分の部屋に引き上げてしまったガーネの背中を眺め、スメイラとカルセと同様にシャワーを浴びに行ってしまったため、何も聞けずに自分もシャワールームへと向かった。




