443話「テスト」
「妾が試験監督じゃ!」
「暇なの?」
小評定の間に集められた特務一同は、妙に張り切った顔のディアマントが前方中央に立ち腕を組んでいるのを見てガーネ以外は緊張したような面持ちになり、ガーネは『出た出た妾タイム』とげんなりした顔になった。
「妾がやる!」
「あっそ。じゃあ妾もテスト受ければ」
「妾は受けぬ!妾は監督じゃ!」
「お前、約束忘れんなよ。どエロい下着で一晩抱き潰しだからな。忘れたとは言わせねーぞ。約束反故にしやがったらわかってんだろうな」
「やかましいクソガキが!ガーネ、お前はカンニング防止に一番前じゃ!」
「なんで俺がカンニングなんて低俗なことするんだよ」
特務とディアマント、ヘルソニアしかいない室内でそれぞれバラけて座らされ、今回一番面白がっているヘルソニアが率先して問題用紙と解答用紙を配布した。
「国語、数学、理科、社会の4教科だ。基礎学習院1年生から官職課程及び学術課程の最難関院の入試問題まで満遍なく網羅されている。さすがに学力に差があり過ぎると思ってな、まぁこれは半分お遊びだ。好きな教科から始めて構わないが、4教科全て合わせて持ち時間は2時間。1教科30分目安程度で問題を組んでいる、時計は適宜確認しろ。それでは、開始」
ぱらりと紙を捲る音と鉛筆が走る音が妙に懐かしい感覚を覚えた。
とりあえずは全教科分の解答用紙に名前を書いたガーネは、一番上の国語の問題用紙を開いた。
『「ねこ」とおなじなかまをえらびなさい。①いぬ②いす③みず』
「え、バカにしてんの?」
「ガーネやかましい。静かにやるのじゃ」
「すんません」
『つぎのぶんをよみなさい。「いぬがにわをはしる」はしる、のいみとしてただしいものをえらびなさい。①たべる②ねる③かける』
「え?舐めてる?」
「ガーネ!試験中は静かにするのじゃ!」
「すんません」
『次の文の主語を答えよ。「昨日図書館で借りた本を私は読んだ」』
『次の文章を読んで筆者の主張を八十字以内で要約せよ。』
ページが進むに連れて数年前の官職課程の入試問題相当の難易度に上がっていき、ガーネは『フーン』と小さく漏らしながら鉛筆を走らせ、国語の解答を全て終えると時計を確認した。
10分と少し経過している短針を見て、そのまま国語の答案用紙を伏せると次に置かれていた数学のテストを開いた。
『3+5=』
『りんごが5こあります。2こたべたらのこりはいくつでしょう。』
『円の面積を求めよ。半径5』
『確率変数Xの期待値を求めよ。』
『lim(x→0) sin(x)/x を求めよ。』
『ひとがいきをするためにひつようなものは?』
『植物が光合成で作る気体は?』
『質量 m の物体に力 F が加わるとき加速度 a を求めよ。』
『あなたがすんでいるくにのなまえをかきなさい。』
『ひとのおかねをぬすんではいけないのはなぜですか。』
『税金の役割を説明せよ。』
試験開始からものの20分でガーネが投げるように鉛筆を置き、解答用紙を束にして自称試験官のディアマントに差し出した。
「終わったから仕事戻っていい?」
「ダメじゃ、終わったらお前は次、隣の部屋で本命のIQテストを受けよ」
「げ……やだなぁ…」
とはいえ一応やると約束もした挙句、自分の世界で一番可愛い恋人が自分好みの下着を着けた上で一晩好きにさせてくれるというご褒美に下心丸出しで釣られているガーネは渋々と言った顔で部屋を出て指示された隣の小応接室へと入った。
小評定の間に残された特務の面々は、開始わずか30分未満で全教科を終わらせたガーネにやや呆気に取られつつも、45分経過でスメイラ、50分経過でラズリがテストを終え、同じようにガーネとは別室を指示されてそちらで道連れのIQテストを受けに行った。
その後は開始1時間45分で見直しまで丁寧にしたカルセもテストを終え、2時間の時間ギリギリまでかかってなんとかアメジとサイフィルは試験を終えた。
*****
「さて終わった終わった」
人より早くテストを終えてIQテストを受けていたガーネは一足先に試験を終え、やれやれと肩を回しながら自室へ向かい着替えを済ませてから訓練場でいつものように走り込みや筋トレを始めた。
少ししてからスメイラも着替えを済ませて訓練場にやって来ると、ガーネは少し休憩がてら律儀にガーネの言いつけを守って準備運動から始めるスメイラの姿を眺めた。
「お前、少し痩せた?」
「え、ほんと?嬉しい!」
「痩せたっつーか、身体締まった感じする。まあ別に元々太ってはいなかったけどなお前」
「腹筋がね!割れたの!見て!」
「おー、すごいじゃん。やったな」
着ているTシャツの裾を少し捲りガーネにうっすらと浮かんだ腹筋を見せ目を輝かせるスメイラに、ガーネは純粋に褒める言葉を告げた。一番運痴であるが、一番真面目に取り組んでいたのがスメイラであるのを見ていたために素直に結果として出て喜んでいる姿にガーネも感心した顔をしていた。
「でもガーネくんの腹筋の方がすごいよね」
「お前フィットネスビキニでも目指す気か。俺とお前とじゃそもそもの鍛え方も根本的に身体の男女差もあるだろうが。ま、でも見せかけの腹筋でいいならいくらでも割れる筋トレは教えられるけど」
「ガーネくんそういうトレーニー女子好き?」
「好みだけで言うならそういう健康的な女よりもいかにも線が細くてそれを自分の強みだと思って身体整えてる系の華奢が好み。俄然守ってやりたい欲が出るじゃん」
「陛下が華奢で良かったね」
「まぁ別にアレがムッチムチでも多分好きにはなってたと思うけど。でも片手でおさまるケツの小ささとか、自分で必要以上に歩く必要の無さそうな筋肉の無いすらっとした足とか、ほっせー腰とかは全部好み」
「……ちょっと前まで好きな自覚なくて、好きだって思った瞬間にあからさまに好き避けしてた小僧とは思えないね」
「ははは、おもしろ」
他の面々がやって来て各自トレーニングを開始するまで、スメイラは目標の時間のランニングとガーネは筋トレを中心に過ごした。




