442話「ヘタレ総監更生計画」
「ぜってーやだ。悲惨な結果だったら目も当てられない。恥ずかしい。出勤出来ない」
数日後の近侍朝伺の際にヘルソニアから告げられた言葉に、ガーネは力いっぱい拒否の言葉を発した。
「 命令だ」
「そういうのなんて言うか知ってますかヘルソニア様、『職権乱用』って言うんですよ」
「其方にだけは言われたくなかったな」
「ガーネ」
「なんだ小娘お前は黙ってろ小娘口塞ぐぞ小娘」
「口が悪いなクソガキ。妾からの……『女王』として命ずる。受けよ」
「ヤダヤダ、無理、やだ。結果が悪かったらバカにされる」
「そこまで頑なになられると気になるのが人の性じゃ。受けたらお前の好みの下着で一晩妾を好きにしてよい」
「それお前は別に失うものないじゃん、毎回アンアン気持ち良くなってよがりまくってるクセに。死ぬほどどエロいやつ着させるぞお前。黒、総レース、Tバック、紐、ガーターベルトと網タイツ!」
「しまった、ヘルソニアよ。IQが下がった」
「下げたのは陛下です」
「わかった、じゃあ特務も道連れにしてくれ。俺より下がいると安心出来る。絶対にサイフィルよりはいいと思いたい」
「……まぁ、いいだろう」
かねてよりヘルソニアが実施したくて仕方がなかったガーネのIQテストと、ことのついでにスメイラが所望した学力テストの準備が整ってしまったと地獄の宣告を受けてガーネのIQは一気に3まで下がっていた。
周りがガーネの『高IQ』を期待すればする程、自分自身は普通だと思っているガーネは『あれ、意外と普通だったじゃん』という結果になって小馬鹿にされる未来を想像して珍しく萎縮していた。
自分自身、勉強は確かに出来るほうではあるし成績も良かったと自負している。しかし、官職課程の警察学校の卒業試験で解答欄がズレてよりにもよって配点の大きい問題を不正解にしてしまうという自殺したいレベルの大ポカをやらかした過去を思い出しても自分がそんなに優れた人間だとはどうしても思えなかった。
そして周りがなぜそんなに自分に対しての期待値が高いのかも理解できず、それが数値化されてしまうことへの純粋な恐怖のようなものもあったのである。
特務を道連れにするという最高にセコいことを要求したガーネは渋々テストを了承し、珍しく不貞腐れた顔をしてディアマントを見た。
「約束は守れよ」
「わかったわかった、しつこい男じゃ」
「一晩抱き潰してやる」
*****
「なんでアタシらまで受けなきゃいけないのよ」
「僕テストやだなぁ」
しれっと特務を道連れにした宣言を特務室でしたガーネは、嫌なことを自分だけではなく目の前の連中にも擦り付けることが出来た満足感で多少の溜飲が下がった顔をした。
「俺ら仲間だろ」
「げ、アンタの口から『仲間』?思ってもないこと言わないでくれる?キモチワル!」
「一番バカだったやつの奢りで焼肉行こうぜ」
「あ、乗った。私テストはそこそこ自信ある」
「アタシも焼肉なら乗ってみよっかな」
ガーネの悪ノリにスメイラが便乗し、ラズリも医者であるために学力はそれなりに自信はあった。そういうことならばと呆気なく掌を返して頷き、絶望した顔をしたのはサイフィルとアメジであった。
「どどどどどうしようエイミーちゃん」
「カンニングよ!カンニングしましょ!」
「ダメに決まってんだろ、やるからにはきちんとやれ」
「ど、どうしましょう。わたくしも…あまり自信がございませんわ…」
カルセが不安そうに呟いて眉尻を下げ、少ししょんぼりと頭頂部のうさ耳を垂らしたところでガーネが思い出したように顔を向けて声を掛けた。
「あ、カルセ」
「?はい、ガーネ様」
「誰かからなんかもらった?」
「え?いいえ?前に仰ってたものでしょうか?」
「あー、うん、まあないならいいや」
「ガーネ様宛のお荷物かなにかでしょうか?総務か庶務の方に問い合わせに行ってまいりましょうか」
「いや、そういうんじゃねぇから大丈夫」
「??」
首を傾げたカルセをよそにガーネはさっさと自席に腰を下ろし、翌日の半ばお遊びのようなテストのために日程を割くべく書類を少し前倒しで確認してより分け始めた。
「ではガーネ様、本日わたくしは教会の方の集まりがございますので、終日そちらのお仕事をさせていただきますわ」
「おう、気を付けろよ。変なやつには着いていくなよ」
「行きませんわ!」
「ガーネ様、あたしとサイフィルちゃんも夜勤明けだから上がるわねー」
「テスト心配だったら勉強しとけよ、一夜漬けで意味あるのか知らんけど」
「甘いわねガーネ様、ありのままのエイミーを見てもらってこそテストよ!」
「あっそ」
サイフィルとアメジが引き上げ、カルセが別業務で居なくなって数十分後。
ガーネは満を持して口を開いた。
「なぁなぁ、あのさ」
珍しく威圧感の無い声のかけ方をされ、スメイラとラズリはやや警戒したような顔をしてガーネに視線を向けた。
「なによガーネくん」
「俺めっちゃ聞いて欲しい話あんだけど」
「はぁ?アンタ、くだらない話だったら怒るわよ」
「ぜってー面白いから。……ジェレイドがさ、多分カルセのこと好きっぽいんだけど」
「「詳しく」」
「ちょっとガーネ、アンタこっちに書類持ってきて仕事しなさいよ。スメイラお茶入れて」
「ほらな!興味あるだろ!俺数日ずっと喋りたくて仕方なかったんだよ!」
温めていたジェレイドの外遊下見での話や未だに土産を渡せていない話などを、案の定長らく餌を貰っていない魚のような食い付きを見せたスメイラとラズリに仕事をしながらバラしたガーネだったが、カルセ本人の不在はもちろんのこと口の軽いサイフィルや声のデカいアメジを抜いた特務のお姉さんもといお母さんたちにようやく話せたガーネは大満足であった。
「はー、あの堅物っぽい近衛総監がねぇ」
「でもあの人、前あの女のこと好きじゃなかった?そういう目であの女見てたでしょ」
「俺もそう思うけど本人は否定してんだよ。そも、好きなタイプの女は『静かで落ち着いた女性』って言ってたんだぞ。ディアマント真逆だろ、やかましくてちょろちょろしてるんだから」
「これは……ねぇ、ガーネくん。私わくわくしてきちゃった。是非くっつけたい」
「俺も面白そうだから乗った」
「最近そういうエンタメなかったからアタシも乗るわよこんな面白いこと」
特務女子・カルセ以外とガーネで勝手に謎の結託をする程度には特務は結成当時より仲が良くなった様子で、密やかに『ヘタレ総監更生計画』が開始されたのであった。




