440話「ちょっとだけドS」
「ラズリよ、其方はいつもガーネの尋問を見ているのか」
「まぁ、ハイ。そうですね、医者枠で」
「ふむ…ガーネの尋問はどうだ」
「どう?…大前提、アタシ尋問はガーネのしか見たことがないからアレが正しい尋問なのかどうかはわかんないですけど、まぁ無駄はないと思いますよ。下手に長引くこともないし、なにより揺さぶりも上手いし、アタシが尋問される側だったら『一番嫌な相手』ですね」
隣の監視室でやや声を潜めて腕を組んでガーネの尋問の様子を見守るヘルソニアが、記録を取りながら控えているラズリに声を掛けた。ラズリも別に隠すことでもガーネ自身が責めを負うようなことは何もしていないのは見て知っているためにありのままを答え、向こう側からこちらは見えない柵の作りになっている部屋の方へと視線を向けた。
同席していたエーリックとジェレイドも、やや緊張した顔で部屋の中を食い入るように見つめていた。
「そういえば、俺がうっかり撃った踵の具合はどうだ。ウチの医者に治療してもらったんだろ?俺、きちんと『絆創膏でも貼って差し上げろ』と指示したし。あぁ、化膿してきてんのか。痛い?」
「……」
「なんか言えよ。シカトかコラ」
「……」
「まあいいけど。いつまでダンマリ貫けるかな。とは言え、俺はわりと忙しいからお前程度にあんまり時間は掛けたくないんだよな。色んなやつに毎回言ってるけど、時間があるなら指一本ずつ折るとか、爪一枚ずつ剥がすとかは付き合ってやれるんだけどさ。お前も『軍人』ならそこそこ訓練積んでるんだろうし、自分がどこまで耐え性あるのか検証したいだろ?試しに爪剥がすところからやってみる?2、3枚」
「……」
「あ、その目。俺がそこまでやらんと思ってんだろ。残念ながらウチの国の法律上、手を下して許可を与される人間に制限はあるけど『多少の怪我』は俺もお咎め無しだから安心しろ。ついでに言うけど、俺は手を下す許可も与えられてるし女王直下になる前からその権限は持ってるからな」
「────…ッッ!!」
腰に差していたナイフの刃を起こし、椅子に固定した男の人差し指の爪と指の間に刃先を刺し込んだ。
さすがに相当以上の訓練を受けている様子で『この程度』で声を上げないのはガーネも想定内ではあったが、そのまま刃先をグリッと捻じってからナイフを引き抜いた。
無理矢理生爪を剥がされた男は激痛に一気に脂汗を滲ませ、フーフーと乱れた息を漏らしながらガーネを睨み上げた。
「お前の尋問、俺の可愛い女王様も見学したいとか吐かしてたんだぞ。俺のことが好きで好きで常に傍にいたがるような可愛い女に、俺のこんな姿見せられる訳ないよな?だってこんなもんでお前が喋るだなんて俺は思ってないし、こんなんで怯えるような神経の細い女じゃないけどお前の汚ェ臓物なんか見せたくねぇもん。お前がどこで『喋りたく』なるのか俺の興味もあるし。さ、次は何する?指砕くだなんてヌルいだろ。歯でも抜くか?それとも頭蓋に少しずつ穴でも空けていこうか。どれがいい?…あ、喋る気ないのか。そら残念だな。あ、じゃあさ、俺が今練習中の術の体験相手にでもなってもらおうかな。それとも俺が今までした怪我で一番痛かった怪我の体験でもする?」
ナイフに付いた血を払ってから刃をしまい、男の胸元に靴底を押し付けるように掛けて少しだけ体重を掛けた。
何をするのかと少しだけ息を震わせた男がガーネを見ると、ガーネは不敵に笑みを浮かべて首を傾げた。
「今さ、霊力操作訓練してんの。お前らのメイジーエ皇国ってわりと呪術者が多いから霊力の扱いには長けてるやつ多いからお前も知ってるかな。砂時計の砂に自分の霊力まとわせて重力に逆らって上げる訓練なんだけどさ、お前みたいなの相手にしてる時間があれば俺はそういう特訓したいんだよ。真面目だから。で、俺は思ったんだ。お前相手にやればいいんじゃないかなーと。お前の血液に俺の霊力流し込んで、血流を全部心臓に送ってみるとか?もしくは脳みそまで一気に送ってみるとか。…あ、そうそう。俺わりと最近結構な大怪我してさ、肋折って肺に刺さって血胸起こしてたんだよ。やったことある?息する度に激痛だし、咳しても激痛だし、咳したら血ィ吐くし、その嘔吐反射でまた肺痛いし。つーことでそれのお試しも準備出来るんだけど。ああ、心配すんな、『喋れるように』加減はしてやるよさすがに。ちょっと右の肺から軽くいっとく?」
「ひ、────…!」
わざと必要以上にペラペラと喋って捲し立てたガーネが足裏に力を込めると、男の肋骨が数本軋むような音が鳴り激痛と恐怖に初めて短く声を漏らした。
「あ。肝心なこと聞くの忘れてた。お前の飼い主って、あの鉱石店の店主か。それともエリウ・トゥヒューカ・スコルピか。どっち?」
質問を投げるや否や、男の胸元から足を退けてそのまま固定した指先に踵落としを見舞い、先程爪を剥いで負傷させた指を含め数本の骨を砕いた。
「ぐ…、ッぎゃァァ!!!」
「お、やっと鳴いたか。肋やってもいいけど、まじで喋れなくなるのは俺が体験済みなんだからそんな怪我させるわけないだろ。俺優しいし」
「お、俺は知らん!誰にも雇われてなんかいない!!」
「はい、嘘ー。オエィセ区内のメイジーエの礼拝所の導師、お前のことなんて言ってたと思う?」
「…ま、…い、いや」
「信じてないの?会わせてやろうか?『アスリタ・スーリャ』34歳。表向きはヴェルーティン国内駐在のメイジーエの礼拝所導師、本当の姿はメイジーエの『霊能者』だな。そいつが均衡の連中の幹部…『代行者』と呼ばれる、七律冠のエリウの眷属だって」
「…しゃ、喋ったのか、あの人が、まさか」
「さぁ?どうだろうな。お前の話と突合したい、素直に喋れば大人しくこのまま医者に見せてやるし、喋らないならもう少し痛めつけてやるけど。俺、優しそうに見えるだろうけどちょっとだけドSだから」
そこからものの10分で、ガーネは男から『自分が均衡教徒で序列も無いただのローブ持ちでしかない』ことと、『鉱石店の店主もおそらく立場は同じで互いにガサ入れが入ったらフォローする霊的な契約を交わした仲であること』、『導師が飼い主であることは間違いないが、組織の内情までは自分にはわからない』ところまで吐き、緊張と恐怖で気を失った。
ガーネ自身も恐らくこれ以上は吐ける情報も無いだろうと判断し、尋問室を出た。
「おい、始末しとけ。もう何も喋らねぇし情報はない」
「は、はい」
監視室内で控えていた衛兵に指示を出し、ラズリから手ぬぐいを受け取り血で汚れたナイフを拭って嵌めていた手袋ごと雑に捨てた。
「終わりました。結果はご覧の通りです、聞いてたなら内容の共有はいりませんよね。見てて貰った方が毎回楽かもしんねーっすわ」
「でもガーネ、今日は随分早かったわね」
「無駄に痛めつけなくても喋りそうだったからな、アレは。肉体的な訓練は受けてるけど精神的にはちょっと揺らせばゲロってくれそうな顔してたし」
「…いやぁ、お前の尋問初めて見たけどなかなか…俺そこまで教えたっけ。誰の指導だ」
「伯父さん。ロット署長です」
「……あー、あの人…フーン…」
「ジェレイド大丈夫か。顔青いけど」
「…あ、…ああ。普通に君が怖かった」
「はは、今日のはものすごく優しいぞ。な、ラズリちゃん」
「そうね、やり方としては相当優しかったわ」




