439話「虚言剥ぎ」
数日後、下見を経ての評定が開催され行路や日程の確認、最終随伴者の確認を行ってその日の評定を終えた直後、ヘルソニアがガーネを呼んだ。
「ガーネ」
「はい」
「例の捕らえた者たち、尋問はいつする予定だ」
「この後行う予定です」
「…ふむ。私も同席したいのだが構わないか」
「え、まじっすか。俺は別にいいですけど、見ていて気分いいもんじゃないと思いますけど」
「其方のその『虚言剥ぎ』が気になるのでな。それに、今回の外遊に当たっての懸念点も確認したい」
「なら、俺も見学しようかな。ガーネの尋問テクは俺も見てみたいし。ジェレイドも行くだろ」
「…邪魔にならないのなら」
「別にいいけど、手も口も出さないでくださいよ。準備出来たら声かけます」
ヘルソニアの他、エーリックとジェレイドも同席することになり、ガーネは少しだけ面倒そうな顔をしつつも吐いた情報によっては実際その場で見ていてもらった方が話が早いかと了承して立ち上がったところで、蚊帳の外になっていたディアマントが立ち上がった。
「妾も!妾も行く!」
「お前はだめ」
呆気なく自分だけぴしゃりと却下され、ディアマントはむっとした顔で頬を膨らませた。
「なぜじゃ!」
「『女王』に見せるモンじゃねぇから」
「妾は女王じゃ!妾の命令を聞くのじゃ!」
「現場責任者は俺です。俺の判断で『危険』と判断することは許容できません」
「妾だけ仲間はずれ!!」
「仲間はずれとかそういうくだらないガキみたいなことを論ずるつもりはない。遊びじゃねぇんだ、状況によってはお前の前で相当にエグいことをせざるを得ない可能性もある。だめだ」
珍しく絆されないガーネに、ディアマントは一層拗ねた顔をしつつガーネを睨みつけた。
「侍女長、女官長。陛下を部屋にお連れしろ」
「かしこまりました」
不貞腐れた顔のディアマントに形式上一礼したガーネはさっさと部屋を出て行き、その様子を見たエーリックとジェレイドはなんと声をかけたものか、そもそも声を掛けるべきか否かとなやんでいたところにヘルソニアがトドメを刺した。
「陛下、あまり小娘のようなことを吐かすんじゃありません。またガーネを怒らせますよ。怖かったんでしょう、怒られて」
「こ、怖くないもん」
「わかったら大人しく部屋にいらっしゃってください。夜は部屋に行くように伝えますから」
「…本当か」
「多分、きっと、おそらく」
「ガーネが部屋に来てくれなくては嫌じゃ!!」
「はいはい、伝えますから。伝えるだけ」
*****
「スメイラ、資料」
「出来てるよ、はい」
「ラズリは『準備』しとけ」
「はいはい」
特務室で尋問の準備をしつつ、スメイラの用意した資料に目を通したガーネは並んだその文字列に目を細めた。
「スメイラ」
「なーに」
「信憑性はどのくらいだ」
「半分かな。裏取りまでは出来てないから」
「お前、なんで警察とかそっち方面の仕事じゃなくて遺物研究者なんてやってたんだよ。絶対調査官とか捜査官向きだろ。クソ運痴だけど」
「遺跡や遺物にはロマンがあるからね!生きてる人間の裏側なんかより、とっくに口の無い過去の産物や歴史を紐解くのってすごい楽しいよ。ガーネくんなら理解出来ると思うけど」
「まぁわからなくはないけど。スメイラお使い、ヘルソニア様と衛兵総監と近衛総監が見物したいそうだ、準備出来たって声かけて来い」
ガーネが立ち上がって官服上衣とベストを脱ぎ、シャツの袖を捲ってネクタイを解いた。
肩にいつものようにホルスターを装着し、銃の残弾数を確認してからナイフと警棒を装備して皮手袋を嵌めた。
「ラズリ、行くぞ」
「はーい」
尋問するために地下牢の方向へと並んで歩き、ガーネは隣のラズリをちらりと見た。
「なぁ」
「うん?なぁに」
「お前とスメイラっていつからの付き合い」
「学術課程よ。とは言っても、アタシの方が先輩だし専攻も違うんだけど。元々はあの子の元旦那との付き合いのがあるのよね」
「ケント?」
「そ。ケントとクラブが同じだったの。鑑賞部。そこで、ケントが同じ専攻の自分の後輩を勧誘して入部してきたのがスメイラ」
「ふーん、鑑賞部って何鑑賞すんの」
「劇とか音楽とか。ま、娯楽部よ娯楽部」
「へぇ…」
「なんで?」
「いや、アイツにモノ調べさせたら的確かつ早いから。昔からそうなのかなって」
「頭はいいわよ。首席入学首席卒業だし。アンタの言う通りクソ運痴だけど、要領はいいからね。アタシはあの子以上に頭のいい子、見たことなかったわ。アンタ見るまで」
「俺は別に普通だと思うけど」
「普通じゃないと思うけど。医者のアタシから見てもアンタわりと異常よ、IQテスト受ける話出たんでしょ?」
「やだなぁ、学力テストはそこそこの点数取れる自信あるけどこれで期待に添えずIQバカ低かったら恥ずかしくね?」
珍しく年相応なリアクションを見せるガーネの様子に、ラズリも思わずと言った様子で小さく笑いながら肩を竦めた。
「まぁ、アンタ異常に高いか異常に低いかのどっちかには振り切れそうだけど。高いと思うわよ」
「どうかな、やだなー低かったら絶対バカにされるじゃん。俺こう見えてプライド高い方だからそういう人に付け込まれそうな弱点は見せたくないんだよなぁ」
「こう見えてって、こう見なくてもプライドが高すぎることなんてわかりきってるわよ」
地下牢の奥の尋問室の様子を確認し、ヘルソニアやエーリックとジェレイドが部屋に来るのを監視室で待ちながら、ガーネは尋問の準備を始めた。




