番外編
「ガーネ!つまらぬ!妾も一緒に遊びたい!混ざりたい!妾も妾もーッ!!」
「アンタ、カノジョの『子守り』くらいしなさいよ」
「……」
再三『遊んでいるわけではない』と伝えているにも関わらず、小娘にはどうにも『特務みんなで集まってワイワイやっている=楽しそう=遊んでいる』になっているらしく、ガーネは小さく舌打ちを漏らした。
少しずつ苛立ち始めたのを察したスメイラとカルセが、ガーネがブチ切れる前にと互いに目配せをした。
「じゃ、じゃあ、陛下も一緒に出来ることなにかしましょうか!何がいいですかね!」
「お前ら甘やかすんじゃねぇ!大体この小娘がまともに運動できると思ってんのか!」
「妾、できるもん!妾は女王じゃ!なんでもできる!」
「お前いつも『女王が万能だと思うな』とか言ってんだろ!そも、転んで怪我したらどうすんだ!」
「ふふん、妾はスメイラと違って鈍臭くない!」
「十分鈍臭そうなんだよ!…乗馬服とかねーのか!膝出てんだろ!」
「ふむ、仕立てるか。ガーネ、乗馬は出来たな。今度妾と乗馬をしよう」
「馬に乗る話なんかしてねーんだよ!!おい、鎧とか甲冑はないのか!!」
「…特務総監様、さすがに過保護過ぎますわ…」
ガーネが鎧や甲冑を要求し始めたところでさすがの侍女長も苦笑いを漏らして肩を竦めた。
「……陛下、一応聞きますが貴女何なら出来るんですか」
「わからぬ!」
「………」
再び少し苛ついたような顔をしたガーネの顔を見て、スメイラが隅の方に置いてある柔らかいゴムボールを手に取ってディアマントに見せた。
「でしたらバレーボールとかはいかがですか?」
「却下。小娘が顔面レシーブしたらどうするんだ」
すかさずガーネが却下をし、ラズリもボールで簡単に出来そうな球技を挙げた。
「あー、ならバスケとかは?」
「却下。小娘が突き指したらどうするんだ」
「サッカーは?」
「却下。小娘がボール踏んで転んだらどうするんだ」
同じように却下をされ、サイフィルもサッカーと提案をするが、こちらも同じように却下されアメジが少し悩んでから最も手軽な球技を挙げた。
「じゃあドッジボール!」
「却下。小娘にボールが当たって怪我したらどうするんだ」
「と、特務総監様。多少でしたら構いませんわ。自業自得ですし、多少の怪我はいい薬でしょう。少し痛い目を見ないとわかりませんもの」
あまりにも過保護過ぎるガーネの様子に、侍女長が苦笑いをしながら特務の邪魔をしているディアマントに遠回しな苦言を呈した。
「ミモゼ最近妾に厳しくないか。妾、ドッジボールがやりたい」
「じゃあ女王様、一緒にドッジボールやろ!」
「サイフィル貴様、人の女に馴れ馴れしく話しかけるんじゃねぇ殺すぞ。コイツは俺の女だ」
「なんかガーネはいつも僕に当たりきつくない!!?」
「バカは放っておいて、ドッジボールならさっさとチーム分けしましょ。どっちかが1人多くなるけどまぁいいでしょう。アタシ、ガーネと同じチームがいい」
「まぁ、わたくしもガーネ様と一緒のチームがいいですわ」
「私もガーネくんと同じチームがいい」
特務女子全員がガーネと同じチームになりたがり、ガーネはとんでもなく怪訝な顔をした。
「なんでだよ、こういう時ばっかり」
「だって、ガーネくんの敵陣なんておっかないじゃん。味方にいて欲しい」
「それ言ったら僕もガーネと同じチームがいい!」
「やだぁあたしもガーネ様と一緒がいいわ!」
「妾も!妾も!!」
「あーめんどくせ!なんなんだこんな時ばっかり!!じゃんけんしろじゃんけん!!」
戦力差を考慮し、ガーネチーム対アメジチームとすることにしたじゃんけんの結果、ガーネのチームには見事じゃんけんに勝ったスメイラとサイフィル、アメジチームはディアマントとカルセとラズリとなった。
「なんだこの偏り。俺のチーム雑魚しかいねぇじゃん」
「ふふん、お前たち!全力でガーネに球を当てるのじゃ!」
「やれるもんならやってみろ。おい、スメイラとサイフィル。やるからには徹底的にやれ。負けは許さん。まずはカルセから潰せ、アイツは足が速いから邪魔だ。それからアメジに球を取らせんな。ラズリもちっせーから当てにくそうだな。小娘には当てるな」
「注文が難しいよ!出来ると思う私たちに!」
「出来るかじゃねーよやるんだよ。何のための補佐官だお前は」
「少なくともドッジボールで勝つためじゃないんだけど!!」
「なんでもいい、サイフィルお前は外野だ。こぼれ球は漏らさず拾え、外からアメジを殺せ。命令だ」
ガーネの容赦のなさすぎる比較的ガチな指示に、敵陣にいるラズリはやや引き気味な顔でアメジを見た。
「やっぱ怖いんだけど!アメジ、アンタが頼りよ!」
「任せて!ガーネ様のことぎったぎたのめっためたにして、あたしが今晩ガーネ様のこといただくわ!」
「なにそれ怖い」
敵陣の謎の結束にガーネが真顔になりつつ、ラズリが外野に出たところでディアマントがびしっと正面のガーネを指差して宣戦布告をした。
「ガーネを負かすことが出来たらお前たちには褒美を取らせる!妾のために戦うのじゃ!」
「スメイラ、向こうのチームに勝ったら俺はあのクソ生意気な女を一晩抱き潰していいってことかな」
「翌日使い物にならなくなっちゃうから程々にしてあげた方がいいんじゃない」
「とりあえずルール、女の顔と腹には当てるな。女の腰も気を付けろ。野郎はどうでもいいが股間だけ配慮しろ。さすがに俺も股間は嫌だし普通に痛い」
「はぁい」
じゃんけんで勝ったスメイラがボールを持ち、ガーネの指示通りカルセを狙ってボールを投げた。
一丁前に振りかぶるフォームはそれなりのものではあるが、スメイラから見て右斜奥にいるカルセではなく左手前にいるディアマントのところへとぽてぽてとだらしのない音を立てて転がっていった。
「おかしいな?」
「まじかよ」
「妾の球じゃ!これでガーネを処す!くらえ!」
得意げな顔をしたディアマントもボールを手にして構え投げるものの、てんてんと軽い音を立ててガーネの元ではなくスメイラの足元に転がった。
スメイラがそのボールを拾い、「今度こそ!」と投げてはぱいんっと間の抜けた音と共にディアマントの傍に転がり、ディアマントもまたガーネを狙ってボールを投げるとぽこぽこと妙な音を立てて転がった。
スメイラが再度ボールを拾ったところで、ガーネが堪らず声を掛けた。
「…あの、ストップストップ。…球、空気入ってる?」
「入っておる」
「なんでそんな間抜けな音すんの?」
「知らないよそんなの」
「大前提、お前ら真面目にやってる?ふざけてる?」
「妾はいたって真面目じゃ!」
「私も一生懸命やってるよ!」
「…スメイラ、球貸して」
ガーネがスメイラからボールを受け取ると、右手にボールを構えてカルセを見た。
「きゃ…!」
狙われると悟ったカルセが持ち前の瞬発力で踏み出して逃げるも、軌道を読んでいたガーネによって容赦なくカルセの背中に軽く当てた。
「当たってしまいましたわ…」
「サイフィル拾え。ディアマント狙え」
「え、えっ」
「ただし怪我させてみろ、わかってんだろうな。始末書じゃ済まないし前みたいに懲戒じゃ済まねぇぞ。まず俺がお前をぶち殺す」
「当てて欲しいの欲しくないのどっち!!?」
緊張しすぎたサイフィルの大暴投がアメジにキャッチされてしまうと、にんまりと笑みを浮かべたアメジがスメイラの肩を狙ってボールを当てた。
「鈍くせーな!あれだけ加減されてゆっくりなボールくらい避けろよ!」
「むりだよ!!早く仇取ってよ!!」
ガーネがボールを拾い上げ、ちらりとディアマントを見るものの当てる気も相手をする気も無く、本気の目をアメジに向けて本気で腕を振り抜きボールをアメジに投げた。
今までとは明らかに異なる『バスン!』という力強い音と共にアメジがボールをキャッチすると、アメジも本気の目でガーネに向かってボールを投げる。先程までディアマントとスメイラが間抜けな音の応酬を奏でていたものと同じボールとは思えない空気を切り裂くような鋭い音と弾丸を弾くような重い音のキャッチ音が何往復かしたところで、ディアマントは『流れ球が当たったら普通に怪我をする』と察しやや泣きそうな顔でガーネを見た。
「こ、こわい。妾殺される、お前たちこわい」
結局決着がつかないまま、仕方がなく小娘ディアマントに付き合って鬼ごっこやら縄跳びやらと一応は『トレーニングの一環』になりうるメニューで半日たっぷりと『遊び』、特務は緊張や別の意味での疲れを抱きディアマントもすっかり遊び疲れた顔でガーネを見た。
「ガーネ、妾はもう疲れた。部屋まで抱いて連れて行け」
「こんの小娘が…」
「妾、もう歩けぬ」
「…お前らは最後ストレッチして、飯でも食って来い。上がるやつは上がれ」
ガーネがディアマントを横抱きに抱き上げ、ずっと付き合って見学していた侍女長とエナと共にディアマントの私室へと連れて行った。
「陛下、湯浴みのあとは少し時間を掛けてお身体マッサージいたしましょうね」
「うむ、いっぱい遊んだ」
「…ディア、楽しかった?」
「楽しかった!とても!いっぱい遊んだ!!またみなで遊びたい!!」
満足そうに満面の笑みを浮かべたディアマントの顔を見て、ガーネは『ま、いいか』と小さく漏らした。




