436話「制圧」
「パラーヤーマハ、マルガム・ルンドゥディ!!」
ガーネに銃口を向けられた男が『逃げる、足止めしろ』と叫んだところでガーネは容赦なく引き金を引いて『昨日は案内係としてフロアに立っていた常連客に擬態した男』の踵を的確に狙って撃ち抜いた。床に倒れたのを見て、責任者に擬態していた男の膝も撃ち、背後を振り返った。
「制圧しろ!誰も建物から出すな!」
真っ先にエーリックが動き、ほんの1テンポ遅れてジェレイドも動いた。
「ガーネ、他の連中は『縛る』だけでよいか」
「はい!」
ヘルソニアがガーネに問いかけ返答をしている隙に、ガーネに貧民街出身と出自を暴かれた手の甲に奴隷刺青の入った女が隠しナイフでガーネに向かって来た。しかし、ガーネは呆気なくその手を捉えると肘と肩の関節を押さえ込み後ろ手に手錠を掛けた。常連客として共にいた男もガーネを攻撃しようと向かってくるものの、その攻撃はガーネに届くことはなく、他の従業員の抵抗と攻撃もあっさりとエーリックとジェレイドにいなされてものの十数秒で現場は制圧された。
「ったく、面倒かけさせやがって」
常連客に擬態していた『肩に入れ墨の入った案内係』の男が、撃ち抜かれた踵を押さえながら近寄って来たガーネの顔を見上げた。
ガーネは暑そうに帽子を取り、袖で汗を拭って前髪を掻き上げると『カモになりに来ました』と昨日来た客であることを思い出した様子で目を見開いた。
「…ね?警察官の身分役に立つでしょ」
得意げな顔で一行を振り返り肩を竦めながらしゃがみ込み、血まみれの男の手を取り手錠を掛けた。
「さて、お前メイジーエ人とは違いそうな印象だったが国籍は。ヴェルーティンとのハーフか」
「…そ、うだ」
褐色肌ではあるもののやや色味は薄く、メイジーエ人とは明確に異なり金髪灰眼である男はガーネによってシャツをひん剥かれて肩の『刺青』を確認した。
「メイジーエの『軍人階級』か」
「階級?」
ジェレイドの問いかけにガーネが小さく頷き、男の肩を指差した。
「メイジーエの身分序列だ。スメイラに調べさせた資料流し読みした程度だから少し曖昧だが、確か一番上が『皇族』で額に入れ墨、次が『霊能者』で喉に入れ墨。順に肩の入れ墨が『軍人』、鎖骨の入れ墨が『商人・農民・技術者』、背中の入れ墨が『隷民』、手の甲に登録年月日と番号を一緒に刻まれてるのが『奴隷』だ。そこの女やエセ責任者みたいに、剣とか宝石とか鳥とかで『誰の持ち物か』って刻まれてんだよ。ついでに、奴隷と同じように識別の紋様でどこの派閥の所属かわかるようになってる。そうだよな?第七席貞節のクソビッチ女…エリウ・トゥヒューカ・スコルピの眷属か。お前は序列…中位、ってとこか。そんなに強く無さそうだもんなぁ」
男の肩の蠍の入れ墨に銃口を押し当て嫌な笑みを浮かべて見下ろした。
「な、…貴様、警察…」
「ああ、悪い悪い。まじでお前は眷属の更に使いっ走りって感じなんだな。『女王の犬』、特務総監のガーネ・ディーム・グリーチェウトと名乗れば、俺が貴様に銃口を向けてる理由は理解出来るな。お前は城に持ち帰ってたっぷり俺と『お話し』でもしような。存分に喋らせてやる────シュクラーフェン」
顔の前に手を翳して『眠り』の魔法の基幹魔法詠唱を唱え、意識が落ちたのを確認してから時計を確認した。
「チッ、時間切れか。今日はこれを持って帰ればまあいいか。巫術官長、自壊術式剥がしてくれ。それと魔導師長はここの『全員』捕縛魔法を」
「その男のように眠らせなくていいのか」
「運ぶの大変なんで。侍従長、帰り支度と俺らが乗る他以外の輸送馬車の手配。近衛総監は帰路の警備指揮」
「…其方、眠らせる魔法なんぞ使って『永眠』はしていないのか」
ヘルソニアの冗談めかした言葉にガーネも一瞬『自分ならやりかねない』と眠らせた男の心拍や呼吸を確認し、生きてはいることを確認して肩を竦めた。
「最悪起きなかったら、牢にぶち込む時に魔導師長かアメジに解除してもらいます」
「ついでに聞くが、せっかく陛下に霊力の扱いを習っているのに今回は霊力を使わなかったな」
「だって難しいんだもん。魔力はそこそこ適当にやっても発動はしますしこれでも多少の加減は出来てるんですよ、一応。霊力の方は骨砕くとかの前科あるし、普通に意図せず殺しかねないんで。だってヘルソニア様、面白がって手貸さないでしょ」
「ふ、よくわかっているな。しかし其方、存外真面目に仕事をしているようで感心だな。陛下に給料を上げるように言っておいてやろう」
「給料は別に上げなくていいんで、あの小娘3日くらい貸してくれませんかね。邪魔者抜きで。三日三晩抱き潰してやりたいです」
「それは陛下に言え」
「やだな、多分聞いてくれますよ俺のその類のオネダリ」
粗方の後始末を終え、日が沈んだ頃合い。
一行はようやく王都へ向けての帰路につき、夜間の見通しや気温などを確認しながら『お土産付き』で王都直通の軍用路線に乗り換えた。
オエィセ区から馬車でウィースト区まで5時間、少し休憩を挟み、そこから乗り換えをして18時間。
一同が王都・王城に帰り着いたのは、翌日の19時過ぎであった。




