435話「捜査協力」
「やっぱりあの料理屋だ。俺的には昨日の鉱石屋もきな臭いんだけどそこまでガサ入れする時間も無いしさすがに令状無しでやるには『特務総監』出さねーと無理だな。外遊前にあんまりことをデカくしたくない」
「どんな話をしてたのか全くもって理解出来なかったけど。昨日より滅茶苦茶流暢になったんじゃねーの」
「外国語ってのは喋ってナンボですよ衛兵総監。文法違いも発音違いも気にせず喋ることが上達の近道です。世話焼きな現地人が『これはこう言う』とか『ニュアンスはこうだ』とか直してくれるしな。とりあえずさっきの店主の聴取内容はあとで共有します。先に昨日の料理屋入ってください、頃合い見て俺も入ります。制圧が必要になったら衛兵総監と近衛総監は手ェ出しに来てください」
「りょーかい」
一行が昨日と同じように店内に入り窓際に案内されたのを、ガーネは通りの向かい側の建物の陰から伺っていた。
多くを語らずとも色々と察して動いてくれているらしいエーリックが、窓の外に向かって手鏡を3度反射させて合図を送った。
「フーン、『3人』か」
エーリックの合図の意味を的確に理解し、ガーネは小さく呟きを漏らしながら店の方へと歩いて向かった。
「いらっしゃい、ま…」
ガーネが店内に入ると、案内係の男が入口にやって来て『警察官』の姿に一瞬たじろいだ。
「警察だ。昨夜、区の墓地近くの路上で死体が見つかった件で捜査協力を願いたい」
メイジーエ人ではない男相手に警察手帳を提示し、あくまで『普通の警察官』の手順で声を掛けた。
「今店内に客は何人いる」
「…先程、どこかの貴族様とお付き人らしい方が全部で7名様と…常連のお客様が2名のみです」
「従業員は何人だ、厨房含め」
「私を入れてフロアは3人、厨房は4人、責任者が1人です」
「入口を封鎖しろ、誰も入れるな。従業員を全員呼べ。責任者も出せ」
「は、はい」
案内係は素直に入口にクローズの札を掛けて扉を閉めた。
ガーネは案内係に従業員を全員集めるように指示をしてフロアに行くと、逃走経路になりそうな箇所を目視確認してフロアで食事をしている風を装っている王城一行のエーリックとジェレイドにちらりと視線で合図を送って指で方向を示した。
「お、お巡りさん。従業員全員集めました」
「ご協力感謝します」
ここまでは形式的にやっていたガーネだったが、おそらく責任者らしい妙に身なりの良いスーツのメイジーエ人が眉を寄せながらガーネを一瞥した。
「…私が責任者です。…お巡りさん、困りますよ。店まで封鎖させて、営業妨害です。お客様だっていらっしゃるんですよ」
「すぐ済む。大人しく捜査協力をしろ。命令だ」
責任者と名乗った男の両手に白手袋、ガーネを案内しようとした以外の案内係の女の1人も両手に白手袋を嵌めており、もう1人は誰だと目を凝らすと『常連のお客様』と言っていた客の1人のメイジーエ人も右手に包帯を巻いていた。
ガーネは言葉通り『すぐ済ませてやるか』と腰から銃を抜き、案内係の女に銃口を向けた。
「お前、国籍は」
「わ、わたし!?…ヴェルーティンです…!」
「どこの生まれだ」
「…こ、…答えたくありません」
「東…いや、東南寄りの出身だな。東の訛りがある。サドゥーサドスティン区の貧民街か」
「……」
「黙秘は肯定と捉えるぞ。まぁいい、手袋を外せ」
「い、いやです…!」
「聞こえなかったのか。俺は『命令』しているんだ。外せ」
「嫌よ!」
「なら昨日の殺人事件の重要参考人として貴様をしょっぴくぞ、いいな」
「…お、横暴な…!」
「いいか、何か勘違いしているようだが先程から言っている通り俺は『お願い』はしていない。『命令』をしているんだ。ついでだから言うが、女だからと容赦されると思わない方がいいぞ。わかったらさっさと手袋を外せ」
案内係の女が観念した様子で、悔しさからか恐怖からか目に涙を滲ませて手袋を外した。
目論見通り『宝石』の入れ墨と登録年月日と奴隷番号が肌に刻まれており、ガーネは「フン」と短くあしらいながらスーツを纏った責任者に銃を向けた。
「女、お前は両手を上げて頭の上で組め。妙な動きをしたら撃つ。…次はお前だ。国籍は」
「…見て分かる通り、メイジーエだ」
「身分証と在留資格証明を提示しろ。我が国の法律上、『常時携行』が義務付けられているはずだ、持っていないとは言わせないぞ」
男はスーツの内ポケットのカードケースから身分証と在留資格証明証書を取り出してガーネに提示し、ガーネは名前と資格証明を手に取って確認した。
「偽造では無さそうだな」
「あ、当たり前だ!なんなんだ一体!」
「ネクタイを緩めろ、鎖骨の入れ墨を見せろ」
ガーネの要求にあからさま過ぎるほどに盛大な舌打ちを漏らし、責任者の男はスーツの上着を脱いでネクタイを緩め、ボタンを外して鎖骨の入れ墨を見せた。
「肩は、入ってるか」
「入っていない!『商人刺青のみ』だ!」
「『のみ』だぁ?マッポ相手にトラ並べんじゃねぇ。手袋外せ」
「…ックソ…!これで満足か!」
両手に嵌めた白手袋を外して床に叩き付けると、責任者の左手甲にも宝石の入れ墨と番号と日付の彫り物があり、ガーネは指先で近くに来るように示した。
屈辱そうな顔でガーネの傍に歩み寄った責任者のベストのボタンを雑に外してネクタイを引き、半ば強引にシャツを脱がせて上半身に他に彫り物がないかを確認した。
「まぁいいだろう。お前も両手を上げて、頭の後ろに組め」
次は自分かと怯えた顔をした他の従業員を一瞥し、ガーネは念のためとばかりにメイジーエ人は無理矢理襟首をはだけさせ鎖骨の入れ墨を確認し、改めて責任者の男に向き直った。
「嘘をつく度に、一発撃ち込む。その上で聞くが、『昨日いた給仕のヴェルーティン人の男』はどうした」
「……」
「もう一度聞くぞ。肩の入れ墨は管理者の入れ墨だな。そいつはどこだと聞いている。お前は責任者じゃねぇな」
「わ、私が責任者です」
「ちげーだろ。身なり見たらわかんだよ、これはお前が『奴隷だから』言ってるんじゃない。一番高いランチのコースで1人10万もするようないわゆる高級店で、『責任者のシャツがボタンダウン』だなんてありえないんだよ。大体、ベストもジャケットもボタンは一番下は外すもんだ。そんなことも知らん高級店の責任者がいるかよバカが。擬態するならうまくやれ」
空気が一気に緊張で張り詰める中で、ガーネは銃のスライドをわざとゆっくり引いてから引き金に指を掛けた。
「擬態と言えばそれは偶然なのか、ここまで言われて黙ってるとは随分と肝が据わってるな。マー・チャラ!ウッティシュタ!」
銃口を改めて、『常連客』らしい男2人組に向けてガーネは「動くな、両手を挙げろ」とメイジーエ語で命令をした。




